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水鏡が淵のミカヅチヌシ 〜諏訪湖の怪異譚〜  作者: 壇 瑠維


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3/12

ミカヅチヌシの伝承

翌日、村で一番大きなお屋敷に皆が集められた。広い部屋は与一の家よりも広く、庭には池が掘ってあり、鯉が優雅に泳いでいる。


「これで、二軒目じゃあ……」


村長がガックリと項垂れる。と、一人の老婆が立ち上がって叫んだ。


「ミカヅチヌシじゃ!」


皆の視線が老婆に集まる。村でも一番の年寄りだ。老婆は続けた。


「ワシの婆さんから聞いた事がある。森より出し異形じゃ。その牙は三日月のように鋭く、爪は簡単に人を割く。狙われた村は奴が飽きるまで、震えながら隠れる事しかできんのじゃ!」


「そんじゃ、それまでどうする事も出来ねえってのか?」


「神に祈るのじゃ。諏訪の神に……」


老婆はそれっきりぶつぶつと手を合わせて祈り始め、誰が話しかけても聞く耳を持たなかった。


「……それじゃ話になんめえ。とにかく戸締りはきちんとして、なるべく一人にならねえ事だ」

「壁をぶち破る奴相手にか?」


村長の言葉に村人の一人が皮肉っぽく返した。


「うるせえ!他にできる事があんなら言ってみろ!」


「……村長」


「何だ、与一?」


「……野郎は、俺がぶっ殺す。絶対この手で始末してやる」


与一の気迫に誰もが押し黙った。目だけが、燃えるように光っていた。


◇◇◇


家に帰ると静が大きくなったお腹をさすっている。


「今帰ったぞ!」


「お帰り。それで、どうだった?」


与一は話し合いの顛末を伝えた。静の顔が不安げに曇る。


「……あんた、無茶なことはせんでよ?この子もおるんだから……」


お腹を気にする仕草を見せ、与一の方を見る。


「だけど、あいつは五兵衛の仇だ。俺は、あいつの無念を晴らしたい!」


「そんな化け物にどうやって勝てんの?あんたがやられたらこの子はどうすんの?」


「心配いらない。……俺は負けない」


与一は静を抱き寄せ、自分に言い聞かせるようそっと呟いた。

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