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あなたを愛することはありませんわ! だそうです。

9月14日、文学フリマ大阪13に出店します。

サークル名…未完系。

ブース…えー51



「私が貴方を愛することはありませんわ!!」


「はあ」


 初夜、夫婦の寝室で、高らかに宣言され、俺は間抜けな声で返事をした。






 俺の前でどでかいベッドに腰かけて、長い脚を優雅に組みながらこちらを見ているのは、今日結婚したばかりの俺の妻。


 シャルロット・アントネット女公爵だ。


 長い金髪と、切れ長な青色の瞳を持つ、キツそうな印象を与える美女。25歳。


 一方で俺は、黒い癖っ毛がよくうねる、苔のような緑の目。昨日までは田舎の伯爵家で兄二人の下で働いていた。今日からはアントワネット公爵夫君。23歳。


 国を代表する公爵家の跡取り娘と、田舎の冴えない伯爵家の三男坊。


 いわゆる「逆玉の輿」である。




 俺とシャルロット様は同じ学園出身で顔見知りではあるが、学年も違う性別も違う。接点なんて一つもない。


 逢瀬を重ねた恋愛結婚でもなければ、借金のカタに売られたわけでもない。


 アントネット公爵家は一人娘で婿を取る必要があった。選び放題であったわけだが、何故か公爵家は広く結婚相手を募集。ダメもとで申し込んだ俺が当選したという事だ。


 理由は知らない。派閥とか、年齢とか、そういうのが丁度良かったんじゃないかな?


 


 そんなこんなで顔合わせをして数か月やり取りを重ねて婚約し、俺が公爵家に住み込み色々教えてもらい、晴れて結婚式、となったはずなのだが。


「俺、愛されないんですか?」


「私の愛する御方はジョセフただ一人ですもの」


「ああ、専属庭師の」


 なるほど、専属庭師のジョセフは平民だ。


 その腕前からあちこちの屋敷から引き抜きの話がきているとも聞いているが、平民だ。


 黒い長い髪を編み込み、思慮深い深緑の瞳の美青年だが、平民だ。


 流石の公爵家でも、平民との結婚は…。




「ジョセフとは結婚しなかったんですか?」




 いいんじゃないか? アントネット公爵家なら平民の婿でも。


 相手の家柄に頼るような家じゃないし。偏見もなさそうだし。




「平民でも構いませんけれど、ジョセフは駄目ですわ。庭いじりにしか才がありませんもの」




 なるほど。当主の配偶者となれば社交に出たり、領地のあれこれを当主の代わりに采配したり、家の中を取り仕切ったりしなければならない。


 それも女当主となると、妊娠・出産期間はほぼ主体となって活動する必要がある。


 やる気や地頭があれば別かもしれないが、どうやらジョセフにはどちらもないようだ。


「それで、シャルロット様はジョセフと仲良くやるから俺は実務をやってればいいってことですか?」


「ええ。勿論、私の子供は貴方との子として育ててもらいますわ。貴方は経理の授業の成績がよかったでしょう。公爵領の収穫量を上げるためにも道路整備に力を入れようと思っていたところですの。まずはその辺りから取り掛かってくださる?」


「はあ」


「社交の場にも私と共に来ていただきます。エスコートは勿論、ダンスもこなしてもらいますわよ。できないとは言わせませんわ」


 まあ、学園の授業にもあったし、そりゃ一通りはできますけども。


「夜はこの部屋で寝ても構いませんわ。私はここから隠し通路でジョセフのもとに向かいますから」


「ちなみに屋敷のものはそのことを?」


「知っているのは半数ほどかしら」


「ジョセフの許可は?」


「今から取りに行きますわ」




 なるほど。つまり。




「俺は貴方の夫として、公爵夫君としての実務や社交を行うけど、そこに愛はないということですね」


「ええ。構わないでしょう?」


 にっこりと微笑むシャルロット様。俺は首を縦に振るしかなかった。








 数日後。


「旦那様。こちらの書類の決算をやっておくようにと奥様から」


「ああ」


 執事が持ってきた山盛りの書類を見て、俺は頷いた。






 数か月後。


「まあ、見て。アントネット公爵夫妻よ」


「相変わらず仲睦まじいこと。先日の晩餐会でもお互いの傍を離れずにいたのでしょう?」


「憧れますわ」


 俺の目に似た緑のドレスに身を包んだシャルロットをエスコートする俺の胸元には、シャルロットの青色の宝石が輝く。


「今日のダンスも期待していますわ、あなた」


「ああ」


 俺はシャルロットの手を取り、会場の中心へと向かう。






 数年後。


「おとうさま! みて! お花きれい!」


 黒い癖っ毛に青色の瞳の『息子』がはしゃぐ。乳母に抱かれた金髪の娘は深緑色の目をぱちぱちさせながらこちらを見た。


「おとたま、だっこ」


「ああ」


 乳母から娘を受け取り、息子が持ってきた花を見せてやる。


「お二人はすっかりお父様に懐いておいでですね」


 微笑んでいるのは庭師のジョセフ。相変わらず見事な腕で、幻とも呼ばれる美しい花が花壇いっぱいに咲いている。


「二人とも。お母さまのところには来てくれませんの?」


「おかあさま! おかえりなさい!」


「おかちゃま!」


 玄関を通らず直接庭に来たのだろう。旅姿のシャルロットが両手を広げている。


「ただいまかわいい子どもたち。それから旦那様、ただいま帰りましたわ」


「おかえりシャルロット」


 俺は出張から戻った妻に、一輪の花を手渡した。






 そして、数十年後。


「子どもたちも独り立ちしたし、当主の座も息子に譲った。そろそろ俺は用無しですか?」


 穏やかな昼下がり。テラスでお茶を飲みながら、俺はシャルロットにそう聞いてみた。


「あら、何故ですの? 貴方ほど有能な人材を手放すわけがないじゃない」


「次は何をお望みで?」


「そうね宰相になって多夫多妻制度を導入させるのはどうかしら?」


「はは、それはおもしろい。救われる人もいるだろうしね」




 俺は、女性を愛することができない。


 幼少期に女性の集団にいじめられた経験があり、それからすっかり苦手になってしまった。


 だからシャルロットの提案は本当にありがたかった。


 好きな仕事に没頭できたし、愛を強要されることもなかった。


 俺を父親と慕う子供たちは可愛かった。




 彼女は俺を夫として立てた。


 子どもたちにも父親は俺だと言っている。


 俺は彼女を愛してはいないが、忠誠を誓っている。


 だから彼女の望むまま。どこまでだってお供しよう。




 初の女性宰相となったシャルロット・アントネット女公爵が、新しい家族の形として一当主多配偶者制度を導入することとなる。


 自らが数多くの男性に傅かれたいのだと思われたこの制度だが、彼女自身は生涯一人の夫しか持たず、最期の時まで仲睦まじく暮らしたと記録されている。

読んでいただいてありがとうございます。


★★★★★やいいねをポチってもらえるとモチベーションが上がります。


どうぞよろしくお願い致します。

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