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第二話「命令」



帝都の空は今日も灰色だった。

遠く東部戦線から戻った兵士たちの列が、静かに補給基地を通り過ぎていく。

魔物との戦いは、なおも続いている。人類の文明を食い破ろうとする“異形”との戦いに、終わりの兆しは見えなかった。


グレイ――帝国軍特務部隊を率いる実戦指揮官は、その日、軍本部の呼び出しを受けた。


(……戦場から戻って三日も経たぬうちに、召集とはご苦労なことだ)


皮肉を飲み込みながら、グレイは将官会議室の扉をくぐった。


「よく来たな、グレイ大尉。座れ」


部屋の奥に並ぶのは、帝国の高官たち。

国の中枢を担う男たちは、表情一つ動かさずにグレイを迎えた。


「失礼します。用件をお伺いしましょう」


「……先日の西部方面、魔物掃討作戦についてだ。貴官も報告には目を通しているな?」


「はい。帝国第七師団の部隊が投入され、被害甚大。殲滅は成功……と記録にはありますが」


「だが、“異常”があった。報告書の別紙をご覧いただこう」


一枚の資料が、机の上に置かれた。

タイトルは、《戦闘AI001号 実戦運用初例》。


「……AI?」


グレイが目を細める。


「そうだ。魔物どもに対抗する”兵器”として、極秘に開発された。今回の作戦では、現場試験として第七師団に同行させた」


別の将官が言葉を継ぐ。


「結果だけ見れば、敵の殲滅速度はこれまでの比ではない。だが……問題はその“手段”だ」


報告には、次のように記されていた。

――AI001号は、命令通り敵性存在を排除。

だが、仲間である兵士の援護・救助要請には一切応じず、殲滅最優先の行動を取り続けた。

結果として、部隊の損耗率は想定以上となった。帰還兵の中にはAIを「魔物よりも恐ろしい」と記した者すらいた――


「……なるほど。“戦果”と引き換えに、“信頼”を投げ捨てたわけですね」


グレイの声には、皮肉が混じる。


「そこで、貴官に頼みたい」

将官の一人が資料をめくると、青い瞳と銀髪の少年のような姿が映った写真が現れた。


「これがAI001号。見た目は少年だが、その中身は冷徹な戦闘兵器だ。現場の兵士たちとの連携を学習させるために、君の部隊に預けたい」


「……冗談でしょう。私は、兵士を“戦わせる”ことはしても、“教える”役目は負っていません」


「だからこそだ。君のような現場叩き上げの軍人でなければ、AIに“共闘”を教えることなど不可能だ」


「……どうして、こんなものを作ったのですか」


低くつぶやくように問うと、将官たちは顔を見合わせた。


「魔物は、人類の存亡に関わる脅威だ。兵士の数も減少してきている。 我々は、生き残るための手段を探しているのだ。感情を捨て、命令のみに従う兵士が、今後の戦いでは必要になる」


「……命令だけを信じる者に、背中は預けられませんよ」


グレイの敬語の中に、わずかな怒気が滲む。


「それでも、命じる。君には拒否権はない。 特務部隊の一部に001号を編入し、現場で“共闘”の教育と行動監督を行え。これは、軍からの正式命令だ」


静かな圧力に、グレイはしばし沈黙した。


「……了解しました。ですが、あくまで“武器”の管理として承ります。」

「それでいい。001の最終的な評価は、君に委ねよう」


会議が終わると、グレイは扉の外で大きく息を吐いた。


写真に映っていた少年の瞳――あれだけは、どこかひっかかっていた。



◆ 001視点


「帝都第九補給拠点――特務部隊第03小隊に所属。行動監督官:グレイ大尉」

冷静に、記録データに目を通す。

彼の戦績、作戦構成能力、過去の命令履歴。すべて、解析済みだ。

だが――

「……共闘を学べ、という命令は……解析不能」


自分は“戦うために”設計された。魔物を滅ぼし、任務を遂行する。それが自分の“存在理由”。

にもかかわらず、新たに与えられた命令は、“人間との共闘”だった。


なぜ非効率な存在と行動を共にする必要があるのか。

なぜ、殲滅以外の行動が求められるのか。


ドアが開く。

陽の光。風。コンクリートの匂い。そして、足音。

――監督官が来た。 グレイ。特務部隊の指揮官。任務上の“指導者”。

視線がぶつかる。彼は、冷たく、目を細めた。

AI001は、ただ立っていた。何も言葉を発しない。

沈黙が続く。


しばらくすると、男はゆっくりと001に近づき、短く告げた。


「俺の部隊では、勝手は許されない」


それは“命令”ではなかった。だが、“否定”だった。


AI001は、ただ頷いた。



◆ グレイ視点


「どうだ、実物は」


隣に立つ白衣の男――戦闘AI開発責任者ハワード博士が、淡々と問いかけてくる。


「……あれが兵器、ね」


グレイは、短く応じた。


「外見は少年、だが中身は完全な兵器だ。命令とデータによってのみ動く」


グレイは横目で、離れた場所に立つ001を見やった。無言で佇むその姿に、生気はない。

だが、眼だけが奇妙に印象に残る――空虚で、それでいて何かを好奇心を含んだような瞳。


「……“共闘を学ばせろ”って言うがな、博士。

 それはつまり、人間の行動を理解させろってことだ。間違えば、歪んだものを作る」


「その可能性も含めて、学習だよ。

 だが、私はあれに“人間性”を押しつけるつもりはない。ただ、“問い”を持たせたい」


「問い?」


「命令に従うだけの存在が、なぜ“人間と共に戦う”必要があるのか。それを自分で考えさせる。

 ……面白い試みだろう?」


会話が終わるころ、AI001が近づいてきた。静かに、正面に立つ。


「命令に従い、”共闘”を学習します。……その対象として、監督官・グレイ大尉を指定しました」


グレイは少し眉をひそめた。


「……“対象”、ね」


「はい。観測、模倣、分析、適応……全て、命令に含まれています」


「……いいだろう。まず教えるのは、“自己紹介”と“無駄話”のやり方だ。

そのままじゃ、意思疎通なんてほど遠い」


そう言って、グレイは歩き出す。


001は一瞬だけ遅れて、すぐに歩調を合わせる。速度を“グレイに最適化”して。


理解不能なノイズが、001の中にまた一つ増えた。



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