第8話 ヒエラルキーの謎
ムリョウさん宅での2学期満喫計画会議も終わり、僕と麻琴は早々に退散した。
うん。邪魔っぽかったから。
バスの時間まで間があったので、とりあえず心行院まで歩くことに。
「謙一、大丈夫?」
「うん、全然平気的な大丈夫さ加減」
「そっか。良かった」
僕と麻琴は手を恋人つなぎしてのんびりと歩いた。
まだ暑さは残っているが、歩くのがキツイほどではないのが救いだ。
「ハロウィンのコス、何しようか?麻琴は何かしたいネタある?」
「色々予定あるのに、作ってる暇ある?文化祭終わるくらいまでは、無理でしょ?」
「そっか。そうだよなぁ。クローとホーガンで行くか。この前の放送で増えたバッケモンのぬいぐるみ追加するくらいで」
「キサラギンとハチシャークでしょ?」
「うん、それ」
「どっちも巨大バッケモンだけど」
「リアルサイズで行くか」
「50mと3m?」
「でもさ、でもさ、いつかはデカいキグルミ作って、それに合わせたコスを麻琴がしてさ、イベントの話題をさらうのさ」
「さらうのさって、もう。でも楽しそう」
「でしょ?」
※
「ふぅ。ちょっとシャワー浴びてくる」
と気だるげに立ち上がる未来。
「いっしょに?」
「きりが無いから、や・だ・よ」
と風呂場へ走っていってしまった。
可愛らしいよね。そりゃ、きりが無くなるよね。なんて思いつつ、こんなグダグダな休日でいいのかと不安にもなる。
溺れるのは良いけど、それが未来の進学の妨げになるようなら、考えなきゃいけない。
未来は来年、オレは再来年、互いに憂いなく進学できなきゃ、幸せにはなれないから。
※
「もう、他の娘を見ないんだよ」
と我ながら嫉妬深いかなとも思いつつ、謙一に校舎の説明をしていると、携帯が鳴った。
ん?リリーナさんからだ。
「もしもし」
「ハァイ、マコト!暇?」
「暇は暇だけど、謙一といっしょにいるよ」
「これから一緒に遊ばない?」
「これから・・・ちょっと待って」
と一旦耳から携帯を離した。
「謙一、リリーナが一緒に遊びたいみたい」
「これから?」
「うん」
「いいんじゃない。この後、特に予定無かったし、昨日は昨日でゆっくり出来たし」
あのあと、結局、謙一の部屋に行っちゃったんだよね。謙一が元気なのは確認できた。
「もしもしリリーナ。大丈夫っぽい。どこに行けば良い?」
「あ、んとね……」
何か電話の向こうがバタついてるような。
「麻琴?思い出のショッピングモールで待ってるから」
「の、望さん?」
あ、謙一が不安な顔をしだした。
「今、リリーナとデートしてたの。だから麻琴ともデートしたいな、って思って」
「だからの意味がわからないし、謙一もいるんだけど」
「あぁ、ちょっとケンチに代わって」
「謙一、望さんが電話代わってって」
「えー」
とか、ぶつくさ言いつつも電話チェンジ。
「もしもし」
※
「ケンチは黙って来て」
ほら、出たよ。宝珠の好き勝手。
「あの、僕もデート中なわけで」
「たまには他の女子とも遊びなさい」
「誤解を招く言い方で、僕をからかうのはよせ」
「何かあしらい慣れしてきてるみたいでムカつく」
「慣れてきてるんだよ、実際」
「とにかく、幾美もキョウジもいなくて暇なの。遊べ。そうじゃないと私の裸を見た件とか、ある事無いことを麻琴に吹き込む」
「行きゃいんだろ、行きゃ!……麻琴、もう電話代わって」
「う、うん」
※
多分、いつもの感じなんだろうけど、まったく。馬が合いすぎて衝突してる感じが、何か妬ける。
「もしもし、それじゃ、望さん。着いたら連絡するから。今、学校の前だから30分くらいで行けると思う」
「はいはーい、待ってるね」
そのまま電話は切れた。
「しょうがない。行こ、謙一」
「仰せのままに」
「何か脅されてるの?」
「来ないと僕に関する嘘八百を麻琴に吹き込むって」
「はぁ……で、嘘八百なんだよね?」
「僕は大好きな人を裏切らないよ」
「よ、よろしい」
「麻琴、顔赤いよ」
「もう!わかってるくせに!」
※
私とリリーナは、麻琴たちが来るまでの時間つぶしにフードコートに来ていた。
さっき食べたばかりなので、特段何も口にする気はないけど、リリーナはタピオカミルクティーと台湾カステラを買っている。
「よ、よく食べるね」
「最近みんなと遊ぶようになって、食欲も増えた、みたい」
せっかくのビスクドールちゃんがテディベアちゃんになっちゃわないか心配なことを言う。
「見た感じはスタイル、変わってないよね?」
「うん、そこは大丈夫みたい」
「麻琴が感染った?」
「アハハハ、そうかも。じゃあ、マコトみたいに可愛くなれるかな」
「リリーナは十分可愛いけど」
私たちと遊ぶと燃費が悪くなる?何か憑いてるような、おかしな気配は感じないけど……うん。麻琴といい、健康的なんだよね、多分。
私も燃費悪くならないかな。これ以上大きくならないでほしいから。幾美は、そうなってほしいかもしれないけど。
※
電車の中。目的地までは乗り換えなしで行けるらしく、楽で結構。
「これから行くモールって、前、麻琴が話してくれたとこ?」
「うん」
「張飛ムリョウがコミエで暴れて、結果的に桃園の誓いを結んで最初に訪れた、歴史的な聖地だよね。写真撮んなきゃ」
「なんで、いらないこと覚えてるかな」
「え?みんなとの大事な思い出は、居合わせなかったことも含めて記憶していくのが語り部の仕事だから」
「いつのまにか語り部に」
「麻琴がビーストテイマーになったんだもの。僕だって、何かしらアビリティというかジョブが必要でしょ?」
「必要、かなぁ?」
「そのうち、替え歌とかも作って、歌で事件も語り告げるようにする。そうすると、吟遊詩人にジョブチェンジ」
「わたしは召喚士にジョブチェンジしたいな」
「いいよ」
「うん、許可もらっても困るけど」
「そっか」
こんなとてもくだらない会話をしている時間が好きだ。平和だもの。もちろん、いちゃつくのも好きだけど。
※
目的地の駅に降り、ショッピングモールの入口で、望さんとリリーナさんと会った。
「あれ?リリーナさん、髪染めたの?」
先日病院で会ったときは金髪だった髪が、黒髪になっていた。
「あ、うん。髪の毛が伸びて、地毛が金髪じゃないって先生にバレて怒られたの」
あぁ、プリン状態になってバレたのか。
「くだらないとは私は思うけど、ブリーチ禁止が校則だからね」
と、望さんがリリーナさんの頭をポンポンしながら言う。
ん?距離感が何か?
「黒でも金でも可愛いからね、リリーナは」
リリーナさん、照れて俯いてるし。
「望さん、彼氏持ちにあんまり百合っ気出しちゃ駄目でしょ」
「麻琴、妬いてる」
「ううん、妬いてないです」
「ケンチ!麻琴が冷たい!」
「自業自得」
謙一は合掌しながら半目で答えてるし。
「麻琴、ケンチがウザい」
もう、絡まなきゃ良いのに。
「アハハハ、ケンイチ、絶好調だね」
リリーナさん爆笑。
謙一は無表情でサムズアップしてるし。
そうだよね。謙一はいつでも皆を楽しませて、結果自分が幸福でいる、そんな人だもんね。
わたしは謙一の腕にしがみついた。
「お?甘えん坊か」
「そうだよ」
「なら仕方ないよな」
と、空いた手でわたしの頭を撫でてくれる。
「また、マコトとケンイチはすぐにいちゃつく」
「リリーナ、二人で寂しさを紛らわせよう」
望さん、リリーナさんに正面から抱きついた。
うん、いつもの見世物パターン。
「ほら、望さん、リリーナ死んじゃうよ」
「ノ・ゾ・ミ、胸、どけて」
「あら」
あら、じゃない。
「幾美はいつ頃、窒息死させられるんだろう。せめて文化祭終わってからにしてほしい」
「殺される前提なの?」
「うん。宝珠だからね」
「そっか」
「ツップリーズ、いい加減にしなさいよ」
「「ツップリーズ言うな」」
※
なんか、マジで人目を引き始めたので
「おら、呼びつけた用事を言え。どこに行きゃいいんだ?」
と思いっきり上から目線で言ってみた。
「そうね。ゲーセンにでも付き合っていただけますか?」
「ああ、やぶさかじゃない。案内してくれ」
「わかりましたわ」
互いに目だけは笑わない笑顔で応酬。
「もう、望さんとイチャイチャしないの!」
「「してない!」」
あ、声が揃っちゃった。
麻琴が僕と宝珠を交互に睨む。
宝珠もバツが悪いのか、さっさと先導して歩き始めた。
リリーナさんが麻琴に駆け寄り、頭をよしよししてる。
尊い風景。
なんか、みんな無言になっちゃったので
「ここが桃園の誓い後に訪れた聖地か。ワクワクしちゃうよな」
と麻琴に言うと、バッと宝珠が麻琴を見た。
麻琴はさっと目をそらした。
「ゲーセンなら、崇の方が得意なんだけどな」
「和尚じゃ望さんの相手出来ないでしょ?」
「そうだな」
もうすっかり崇の扱いを理解していて、彼氏として嬉しい限りだ。
そして宝珠を相手に善戦できる存在として、認知されたことには誇りを感じるべきか悩む。
何か一人沈思黙考モードに入っていた宝珠が、こっちを見たので、僕は黙ってVサイン。
あれ?中指立てられた。
※
私とケンチが舌戦を始めると麻琴が妬くのは、想定外だった。
幾美とは違う感じで、打てば響くリアクションをしてくるケンチに、ついムキになっちゃう。
こういうのが異性の友人ってやつ?なんか違う気がするけど。
入院の一件以来、ケンチの精神的余裕も出てきて、なんかムカつく。
理由は、幾美から聞いて理解はしてるけど、何か愉快ではない。あの最初に男子たちがコスしてきた日、自信持てなんて言った自分を後悔。
私って嫌な女なんだろうか?でも、今の仲間が特別で、他の人にはこんな対応はしないし出来ない。
特別……特別な友達……親友?よくわからない。
でも、楽しいことは享受したい。出来る限り。
と、ケンチたちの方を振り返ると、ケンチがVサインしてきた。
見透かされた感がムカついたので、中指を立てて返しておいた。
※
「ノゾミ!下品なことしないの!」
ノゾミがケンイチを睨んで中指立ててたので、とりあえず注意。
「はーい」
ノゾミは再び前を向いて歩き始めた。
アタクシには、ノゾミとケンイチの関係がいまいちよくわからない。
でもアニメで主人公とライバルがこんな感じなのは、よく観た。
だとしたら、二人は戦うの?仲間になるの?
でも、もう仲間だよね。
アタクシは
「マコト、ちょっとゴメン」
とケンイチの腕を取り、ノゾミに駆け寄って、ノゾミの腕も取った。
「ちょっと、リリーナ」
「なになになに」
「仲間!」
アタクシはそう叫んだ。二人は困惑してる。
あ、マコトがふくれてる。
「マコトも皆も、アタクシは大好き!」
※
リリーナさんが謎の暴走を始めた。
何か、謙一って、恋愛対象じゃないけどモテる、妙な才能がある。
そもそも望さんだよね、中心人物だって見抜いたの。
その望さんとも同等に張り合えて、リリーナさんも何か懐き始めてるし、未来さんは謙一のことを振ってから、逆に距離感縮まってるし、あの成美さんにも何度も挑んで・・・あれは違う気もするけど。あとキョウジか。何か不安。男女関係なさそうで。
とにかく、わたしとしては、彼女であるわたしとしては、複雑であり、ヤキモチを焼かざるを得ないのだ。
「麻琴、ゴメン、拉致られた」
と謙一は戻ってきて、わたしと手を繋いでくれた。
「拉致られないで」
「うん、努力するけど、皆、アレだしなぁ」
うん、アレだよね、謙一も含んで。あ、リリーナさんが乳窒息させられてる。
※
端から見たら、僕は美少女3人を連れたハーレム野郎なんだろうけど、実際は恋人1名、暴走車両2台な状態なわけで。
幾美と恭ちゃんが不在なのを恨む。
あんなの制御できない。ハンドルが天井、ブレーキが座席の後ろにある感じだもの。
「最近、ケンチって、私が読みづらい複雑な悪口を考えてるよね?」
うぉ、いつのまにか、ぐったりしたリリーナさんを引きずるように連れて、宝珠が僕の横にいた。
「なるほど、複雑な思考は読めない。いい情報だ」
ちっ
あ、舌打ちしたよ、この暴走車両1号。
「お行儀が悪いですよ、お嬢様」
「麻琴がいるからって、私が実力行使しないと思わないほうが良いわよ」
「望さん!」
あ、麻琴が怒った。
「謙一のことを過剰に構うから、過剰に仕返しされるんでしょ!いい加減にして!」
「ご、ごめんなさい」
なんなんだろう、このヒエラルキー。
「ノゾミ、こんなことしたくて二人を呼んだんじゃないでしょ?マコトも落ち着いて」
「「はい」」
あれ?リリーナさんが一位?
ヒエラルキーの変化が激しいなぁ。
「ケンイチは他人事みたいな顔しないの」
「はい」
このヒエラルキー問題に関しては、他人事でいたいなぁ。
※
おれちゃん、実家に呼び出され、仕方なくリリーナとは別行動。
そして帰るなり、妹の友梨奈に激詰めされてる。
「兄がろくに帰ってこないから、うちが監視きつくなってめんどいんだから、ちょくちょく帰ってや」
妹は彼氏が関西人で、妙な関西弁を使う。いわゆるエセ関西人状態が2年前。中2の頃から続いてる。
おれちゃんが注意出来るような立場じゃないから、特に言わないけど、両親ともに、変な口調を良くは思っていない。
「そんなイヤなら、さっさと真一郎と結婚しちゃえよ」
「いやや!こんな若いうちから家庭に縛られたないわ」
真一郎っていうのが友梨奈の彼氏。社会人らしいが、いくら大人っぽいモデル系美人とはいえ、中学生をよく口説けたもんだ。それで2年も仲が続いてるんだから、一応本気なんだと、兄としては思っておく。会ったこと無いけど。社会的には犯罪者なのかもしれないけど。
「おまえのことはどうでもいいや的な」
と友梨奈の脇をすり抜け、リビングへ。
両親が真剣な顔で座ってお待ちだった。
おれちゃん、大ピンチかな?
口を開いたのは父さんだ。
「学年主任の岡中先生から連絡があった。今の成績のままじゃ、大学への推薦は難しい、とおっしゃってた」
あー、だよねぇ。
「2学期末テストで成績順位を30位以上、上げるか。今から外部受験に切り替えて、鳳凰学院よりもレベルを落とした大学を目指すか。高卒で就職するか。どうしたい?最悪、留年とまでおっしゃってたが」
いきなりの運命の選択?おれちゃん大ピンチだった。
「専門学校、とかは?」
「恭は何か目指したい職業があるの?普段のあなたを見てる限り、無さそうだけど」
母さん辛辣〜。そして確かに無い。
「あはは。でも、早くない?二年の2学期なのに」
「受験生は、そろそろ動かないといけない時期だから、だ」
「わかった。おれちゃ……おれはまず順位上げを頑張る。駄目だったら、就職する」
「恭、あなた自棄になって、適当に言ってない?」
さすが母さん。
「順位上げられなかったら、今の部屋を引き払って、こっちに戻る」
「はぁ」
父さんに溜息つかれた。
「わかった。何かしら結果を出せ。いいな」
「わかった」
リビングから出ると、友梨奈が待ち構えていた。
「戻ってこられるのも迷惑なんだけど」
「なんでだよ」
「せっかく、うちの部屋以外に荷物置き場が出来たのに、返したぁないわ」
やれやれ。
「はいはい。妹思いのおれちゃんは、勉強を頑張るさ」
「きもっ」
「そういう事言われると、頑張りたくなくなっちゃうな」
「お兄様、その小さな脳味噌で可能な限り、勉学に励んでいただけますか?応援いたします」
なんで謙ちゃんめいた言い返しをするかな、おれちゃんの妹は。謙ちゃんがここに遊びに来たときに、何回か挨拶するくらいだったのに。
「おまえ、謙ちゃんと仲良かったっけ?」
「謙ちゃん?あぁ、兄の同級生の?何回か挨拶したことしか無いけど、何?うちには真一郎さんがいるから、お付き合いとか無理だよ」
「んなこと頼まないって。そっか、まぁいいや」
「なにそれ」
「謙ちゃんには美少女の彼女がいるからな。おまえを紹介したってなびきゃしないよ」
「もう、意味わかんない!」
と、友梨奈は自室へ戻ってしまった。
おれちゃんも部屋に、と思ったが友梨奈の物置代わりにされてるので、まっすぐ一人ぐらいの家に帰ろう。ほぼリリーナが入り浸ってるけど。それは家族にバレていないのが救いだ。
※
今日は祖母の7回忌で、菩提寺に来ている。
俺としては、あまりこういう宗教行事に関心が薄かったのだが、望に話したら、すっごく怒られたので、真面目に坊さんのお経を聞いているわけだ。
長男で跡継ぎなんだから、結局は真面目にこういう事をしなくちゃいけないんだけど、今くらいは、という思いを望にこっぴどく、蕩々と叱られた。
和尚の相手は崇だけで十分だと思っていたが、本物もきちんと相手にしないといけなくなるとは。
うん。望、マジで怖いんだもの。
※
ガコン!
という大きな音とともに、僕と麻琴の間を抜いてゴールを決める宝珠・リリーナペア。
今、エアホッケーが熱い。
宝珠が守備しつつ指示を出し、リリーナさんがゴールを決めてくる。完璧な布陣だ。
僕も麻琴も運動神経が発達途上なので、まったく勝てない。
何も賭けていないのが唯一の救いだ。宝珠相手に賭け勝負なんかしたら、きっと尻子玉をも抜かれるだろう。
なんて考えてるうちに更にゴールを決められ、時間切れ。
「さぁケンチ。罰ゲームの時間よ」
後出しで来やがった。
「汝とは一切の契約を結んでおらぬ。諦らめよ。申し出は無効である!」
あ、宝珠のこめかみがヒクヒクしてる。
「そういう返しするんだぁ、ふぅん」
「麻琴、ここは僕に任せて先に行くんだ!」
「はいはい、死亡フラグ立てないの」
と、麻琴は僕の背中から抱きついてきた。
「さっき、叱られたよね?」
あれ、顔が見えない状態での麻琴のセリフが怖いんだが。声も低いし。
「ね?」
「はい。過剰に反応しません」
「よろしい」
一方、
「停止スイッチ!」
リリーナさんが正面から、宝珠の胸を鷲掴みしてる。しかもあの技は!リリーナさんが参加する前の!
宝珠、顔を真赤にして、何も言い返せずにあわあわしてる。
「悪い娘には、この実力行使が効く。ナルミから聞いたよ」
確かに効いてるな。
中指立てるのは下品と叱るのに、相手の胸を揉み捻じるのは平気なんだ。ハワイって凄い。
※
なんだか無駄に疲れた気がしたので、わたしは三人を促し、ゲーセンの脇のベンチに座った。
「リリーナさん、さっきの停止スイッチ攻撃は……人前ではやめよ?」
「人前で暴走してるときこそ、最大限の力を発揮する技だと、ナルミは言ってたよ」
あのNPBは何を教えてるんだろ?
停止スイッチブームは合宿で終わったと思ったのに。
あ、そうだ。
「望さん、リリーナさん、二人に報告があります」
「……おめでた?」
「望さん、もう1回停止する?」
「ごめんなさい」
「マコト、おめでたって何?」
「リリーナさん、今はその話をしてると進まないから。後で説明、するかもしれない」
「私がしとく」
「しなくていいです」
「はい」
謙一は、と見ると、わたしの隣で大人しくスマホ弄ってるから、大丈夫。かな?
「それでね、2学期内の活動について、未来さんから指令があったの」
「「指令?」」
「写真集、体育祭、ハロウィン、文化祭、クリスマス、冬コミエ、初詣の話」
「そんな先の話までしてるの?未来ってばワクワクしすぎじゃない?」
「うん、そういう面は否めないけど、未来さんは大学推薦対応のため、冬コミエは不参加、だって」
「Oh、タカシひとりぼっち?かわいそう」
「和尚なんかどうでもいいのよ」
「そうなの?」
謙一がなにかツッコむかと思ったけど、静かにしてるなぁ。
「で、体育祭は、お互いに人を呼べないし、文化祭はわたしたちは気軽に男子呼べないから」
「女子は鳳凰学院の文化祭に来るように」
とだけ謙一は言って、再びスマホに集中。
こっちの話、聞いていてくれてるようなので、まぁいいか。
「ハロウィンは街ハロに強制参加らしいので、空けておいてね」
「え?強制なの?」
「部長命令なんだけど」
「そっか、じゃ、しょうがない」
ホント、独断で決めたんだ、あの人。
「チケットは購入済みなんで心配不要で」
「日本のハロウィンって、やっぱりTrick or Treat ってやるの?」
「基本的には路上コスプレ大会、よね」
「うん。お菓子を子どもに配ったりもするけど、基本はコスプレイベントの一つ、みたいな?」
「そうなんだ。面白そうだね」
「でしょ?でもその前に、コミエで出す写真集の撮影を終わらせちゃわないといけない、っぽい?」
「……」
謙一、スマホ見て固まってるけど。
「謙一、何かあったの?」
「え?あ、とりあえずは大丈夫、うん」
なんか怪しいけど、二人の前では言いたくないことかもしれないから、スルーしてあげる。
望さんも突っ込んでこないし、シリアス案件かな?
「ケンチ、写真集の予定、お願い」
「はいはい。まず撮影自体はハロウィン前までに終わらせる。撮影は予定通りユウさん。多美川雄慈ね。あいつに頼んである。編集は僕と幸次で。で、残りの連中は文化祭準備」
「っていうと、撮影に幾美やキョウジや和尚は来ないの?」
「そう。宝珠、寂しい?」
「あ?」
「二人とも普通に話しなさい」
「「はい」」
※
宝珠はともかく、麻琴を怒らせるとヤバいので、ここは素直に普通に進行する。
「撮影場所は2か所。スタジオと屋外。スタジオは目星つけてあるんで、予約取るために皆の都合の良い日を教えてほしい。それは後でグループLIMEで。そんで屋外の方だけど、幸次が後島園ランドの裏手に良さげな森がある、と」
「撮影に使っていいの?その森」
「幸次が確認中」
「間に合うの、それ?そしたら、私の一族の所有してる森の一つが近場にあるから、そこ、借りて上げる」
「所有してる、森?しかもその一つ?凄いな、宝珠は」
「え?え?え?急に褒めるな!」
ん?ここで照れるの?まぁ、いいや。これ以上なんか言うと、いつもの流れになるから。
「そしたら、そっちを優先でお願いしていいか?幸次は停止しとくから」
「「「え!」」」
……
「スイッチの話はしてないから!」
「そっかぁ」
麻琴、なんで君が残念そうにするのかな?腐り始めてるのかな?
「合宿の時みたいに、成美さんにワンボックス借りてもらって、そこを更衣室にする予定には、なってるから。うん」
「そうね、そこはきちんとね。ただ、トイレは無いわよ。修行用の森だし」
「修行?妖怪でも出るのか?」
「そういう方がいい?」
「いいえ、よくありません」
「なぁんだ。ケンチの実力を見たかったのに」
「成美さんに勝てない人間が、妖怪に勝てるわけ無いだろ」
「え?体術じゃ私だって成美さんに勝てないけど、妖怪相手なら」
「謙一、望さん、話を進めなさい」
麻琴に叱られた。
「うん、とりあえず、宝珠は森の件、よろしく。そんでハロウィンは新作作ってる余裕無いから、各自適当に」
「未来は和尚に新作準備してるような話ししてた。冬コミエ来ない気なら、ハロウィンなのかな」
「また崇は女装?」
「多分」
「まぁいいや、あいつがどんな道に進もうと。で、次は文化祭だけど、招待者用の入場チケットが来月に配布されるはず。各自、パートナーからもらって」
「謙一、生物部って何やるの?」
「ん?合宿の成果発表くらいかな。スペースの半分は中等部の生物部が使うし」
「合宿の成果って、何?」
麻琴がうんざりした顔で聞いてきた
そんな顔しなくても。
「私の予想は、ビックリフルーツティーと和尚&未来の聖火着火の儀の写真とアウトレットで買った勝負下着とエルフコス?」
「うん、停学だな。ちゃんと昆虫採集とかしてたから、そっち!」
「私のアシダカグモも?」
「なんで自分の使い魔みたいな扱いなんだ?崇に投げつけて、それっきりだろうが」
「麻琴、ケンチって、ほんとくだらないことまで良く覚えてるよね」
「うん、謙一は語り部のジョブを選択したみたいだから」
「いいなぁ、アタクシも合宿行きたい」
というリリーナさんの嘆きを、麻琴と宝珠は複雑な顔で聞いていた。
何か嫌な思い出でもあるんだろうか?あんだけノリノリに楽しんでいたのに。
「来年は誘うよ。うん、恭ちゃんがちゃんとしてれば」
「OK。そうだね、そこは厳しくしないとね」
さっきの連絡の件もあるし、恭ちゃん、ほんと、しっかりしてほしい。
「Oh」
と、リリーナさんが、スマホを見て小さく叫んだ。
「キョウがこれから部屋に戻るって言うから、アタクシも戻るね」
僕の後はリリーナさんに連絡か。忙しい男だね。
「わかった。それじゃ解散しましょうか」
こっちの都合は無視するけど、リリーナさんの都合は優先か、さすが宝珠だな。
「了解。じゃあ、麻琴、帰ろう。んじゃ、またね」
と麻琴の手を引いて、畳み掛けるようにその場から去ろうとしたら
「ケンチ。男なら、こっちを見送ってから帰りなさい」
宝珠に最ものような身勝手のようなことを言われた。こっちは麻琴もいるのに。
「そっか。んじゃ、お帰りください、お嬢様方」
と深々とおじぎをして差し上げた。
「ほら、麻琴も」
唖然としている麻琴を僕は促した。
「え?あ?えっと、バイバイ」
と何気に僕を超えるキツイ対応をしてくれた。
「ケンチ、麻琴」
と宝珠がなにか言おうとしたところ
「望さん。今後もわたしと謙一のデートに横槍入れるなら、こっちもやり返すからね」
「……ごめんなさい」
あ、宝珠が謝った。
「ケンイチ、マコト、ごめんね。じゃ!」
とリリーナさんは走り去っていった。
「リリーナさんには、わたしからフォロー入れとくから」
「うん、頼む。で、宝珠。今度こそ、僕たち帰るぞ」
「あ、うん、お疲れさま」
と、トボトボと歩み去った。
「あっちもフォローすんね」
僕の彼女は気遣いができて素晴らしいと思う。
※
帰りの電車の中。
「あの、謙一」
「ん?」
「さっき、深刻そうにスマホ弄ってたじゃない?何かあったの?」
聞くべきじゃないかもだけど、気になるんだもん。
「あぁ、うん。恭ちゃんがね、大学推薦やばくて、留年の可能性まであるらしい」
「え?そこまでアレだったの?」
あ、ヤバい、本音出ちゃった。
「うん。アレだね。崇も似たようなもんなんだけど」
「謙一は?」
なんか不安になってきた。
「僕?あはは」
「ねえ、どうなの!」
わたしは謙一の両肩を掴んで揺さぶった。
「あ、あ、あ、ギリ大丈夫。恭ちゃんや崇ほど、アレじゃないよ」
「ほんと?」
「うん、ほんと」
「ならいいけど」
「何気に幸次が僕たちの中じゃ、一番アレじゃない人だな」
「え?部長は部長なのにアレなの?」
「そこそこアレだな」
「謙一は何番目なの、結局」
「幾美の下、崇の上」
真ん中か。わたしはあれこれ言える成績じゃないけども、スムーズに進級してほしいとは思う。
「なので、恭ちゃんをなんとかしないと、リリーナさんまで泣かすことになりかねない」
「アレなのに、なんとか出来るの?」
「うーん、中間テスト間近になったら、勉強会でもやるかなぁ」
「間近で間に合うの?」
「さぁ。アレな人を楽に救えるほどの学力、僕には無いから」
「引きづられて、謙一までアレになってほしくない」
「うん。気をつけるよ」
「ならいいけど……って、わたし、もしかして酷いこと言ってる?」
「自覚したなら大丈夫。それにホントの事だから仕方ないし」
「謙一の悪影響」
「うーん、似た者ペア現象が進んでる?僕も頑張るよ」
「頑張るの?」
「え?うん、将来に渡って、麻琴を幸せにできるように頑張る」
え?将来って?まさか?
「もう!またそんなこと言って!……謙エッチ」
「なんでエッチ扱い?」
わたしにだってわかんないよ、もう。




