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第4話 2学期、運命の一撃

鳳凰学院高等部。2学期の始業式、その翌日。

放課後の生物部室。

今後の活動(部活・オタ活)についての話し合いで集まったのだが、なぜか謙一だけが来ない。

「崇、今日は謙一休みとか早退じゃないよな? 昼休み、部室に来てたもんな?」

やや詰問口調で迫る幾美にオレは引きつつ、

「お、おう。6時間目の体育のバスケの授業まではいたぞ」

「なら法力で探せ」

「無茶苦茶言うな!」

「LIMEにも返信ないんだよな」

携帯をいじりながら幸次が不安げに言った。

「なら、おれちゃん、ひとっ走り探してこようか?」

「あてもないのに探せないだろうが」

「いや、保健室とか教室とかさ、あるじゃん」

「あぁ、んじゃ見てきて」

相変わらず、指示だけで自分は動かない幾美。

「りょ」

そんな幾美の態度を気にも留めず、恭は部室からダッシュで出ていった。



あーあ、携帯、教室の鞄の中なのが痛いよなぁ。

2学期授業初日の放課後、僕は閉じ込められていた。

どこに?

体育館の中の体育倉庫に。

なぜ?

6時間目の体育終了後、僕をいじめている連中に囲まれ、腹を殴られ、最終的に倉庫に押し込められ、外から施錠された。

イジメあるあるかもしれないけど、結構洒落にならない真似をしてくれるもので、多勢に無勢、抵抗虚しくこうなったわけだ。

9月とは言え残暑厳しく、当然倉庫にエアコンなどなく、このままだと翌朝に遺体で発見されかねない。

僕は倉庫の扉を叩き、声を上げて助けを求めた。

どこかの部活連中が来ることを願って。



うん、保健室にはいない。

なので、教室に行ってみた。

見慣れた謙一の鞄があった。ついでに脱いだ制服も。

つまり、体育から戻ってない?バスケの授業⋯

さすがのおれちゃんも、嫌な予感しすぎたので、体育館に走った。



「崇、実際どうなんだ? 新学期早々、謙一はやられてるのか?」

幾美がオレを睨みながら言う。同じクラスで何もしないオレを責めるように。

「そうだな。相変わらず、だな」

あいつらは何でもないことで、難癖をつけて囃し立てる。授業中だろうが休み時間だろうが関係なく、思い立った時にやる。

「絶対、それ絡みだろ、これ」

幸次は頭を抱えた。

「いいのか、このままで⋯謙一も、おれ達も」



おれちゃんが体育館に駆けつけると、倉庫の扉を内側から叩く音がする。

案の定、おれちゃんの予感、大当たりだ。

倉庫の前に行き

「謙ちゃん!いる?」

「恭ちゃん?いるよ!」

「今開けて⋯鍵かけてんのかよ!⋯職員室行ってくるから、もう少し待ってて!」

「頼むぅ。暑くて死にそう」

洒落になんねぇな!



「で、恭ちゃんに助けられたってわけ」

「ってわけ、じゃないよ! 殺人未遂じゃない!」

その夜、麻琴に隠すのもな、と思って電話して打ち明けた結果、麻琴が激怒中。

「先生は?なんて言ってるの?」

「やった連中、みんな帰っちゃってたし、ふざけ合うのも大概にしとけよって言われて終わり」

「⋯その教師といじめしてる連中全員の名前教えて。望さんに頼んで呪殺してもらう」

なんか本気っぽいので

「あ、あのさ、僕はこうして無事だから」

「なんで犯人をかばうの!」

「いやいや、かばってないよ。結局は仕返しが来るんだよ⋯だから」

こんな理由を言う自分が情けない。

「⋯わかった。わたしも少し頭冷やすね。ごめんね謙一」

と言って、電話は切れた。

麻琴と気まずくなるの、嫌だな。



「で、あたしに連絡してきたんだ」

「うん。どうしよう。わたし謙一に言い過ぎちゃった⋯嫌われちゃう⋯」

電話口で麻琴が泣いてるのがわかる。

ケンチのこと、無下にしたくないし、麻琴のことなら尚更。

「ケンチが麻琴のこと嫌いになるわけ無いでしょ?落ち着きなさい」

「でもでも」

「とりあえず、あたしたちは別の学校なんだから口も手も出せない、でしょ?だから、あたしから、崇にはきつく言っておくから。あいつ、ケンチと同じクラスなんだし」

「和尚⋯」

「あ、崇のことは怒らないであげてね、あたしから言うから、ね」

「望さんに⋯」

「あの子に言わないの!ホントになんかやるから」

「成美さんに⋯」

「だから、やりそうなのに言わないの!」

「リリーナには言わないよ」

「そこは優しいんだ⋯とにかく、向こうの男子連中は、あたしがなんとかさせるから。麻琴は全身使って、ケンチを慰めてあげなさい。どうせ週末デートするんでしょ」

「でも、会いづらいから」

「あんたは、もう⋯頭冷やしたから会いたい、でいいじゃない。そんで、ケンチを受け止めてあげれば?」

「こういうとき、謙一は、ちょっと、激しくなるから」

いきなり何を言い出すのだろう、この娘は。先日の温泉でタガが外れた?

「ふーん、そういう事、言えるようになったんだ」

「あ、あ、あ、⋯⋯忘れて。そんで、和尚の件はお願い。じゃ」

あ、切りよった。ケンチ、あんたのそういう暴走が逆に心配だわ。

さて、あたしの彼氏様になんて言おうかな。



その日の夜、俺は望に電話した。

「で、幾美は私に何かしてほしいの?これは呪殺の依頼?」

「違うって、相談っていうか、愚痴っていうか」

俺の彼女は物騒すぎる。

「本人も、あなたたちも、皆して先送りにしてきた問題でしょ?出会って半年くらいの私じゃ、呪殺以外じゃ力になれないけど?」

呪殺可能なのが、ね。

「望は厳しいな」

「そりゃ、大事な麻琴を傷物にしたケンチに対しては、特に厳しく行こうと思ってる」

「まったく。仲いいよな、望と謙一」

「はあ?」

本気で嫌そうな「はあ?」を頂いた。

「普通なら放っておけって言いそうなところ、望は謙一の敵の排除を考える。仲悪いわけ無いだろ」

「そ、それは、幾美の友達だし、麻琴の⋯彼氏だし、色々言っても挫けずに言い返してくるし⋯」

謎のライバル視してるだけで嫌ってるわけじゃないんだよな。

「俺の親友に異性の友人が出来て嬉しいよ」

「なにそれ、もう」

「ちょっぴり妬けるな」

「わ、私の一番は幾美だよ」

「知ってる」

珍しく慌ててるなぁ。

「じゃあ、無駄なジェラシー感じてないで、頑張りなさいよ」

「俺にも厳しいな」

「甘やかして欲しいんだ?」

「そういう時が来たら、な」

「そうね、そういう時が来るまで、頑張ってね、みんなの部長さん」



その日の夜、おれは成美に電話した。

「で、幸次はボクに何をしろ、と?まさか殲滅?」

「なんだよ、殲滅って」

「敵の排除。徹底的な排除」

「単語の意味じゃねえよ」

「教師が役に立たないなら、国家権力を介入させるしかないと思うんだ、ボクとしては。ああ、でもまだ無理か」

「成美、あのさ⋯」

何を言い出すんだ、この美人の物騒なお姉さんは。

「こういうのはね、ギリギリ勝負だよ。ケンチが壊れる前に止めなきゃいけないんだけど⋯幸次たちに見極められるかなぁ」

「どういう意味?」

「だよね?⋯うーん」

おれの彼女は頼りになるが、謎がある。



その日の夜、おれちゃんはリリーナに電話した。

「それでね、ノゾミとは別のクラスになっちゃったんだけど、クラスのみんなが色々話しかけてくれたの」

宝珠さんと一緒じゃなくてよかった気もする。いらん事を吹き込みそうだし。

「良かったな。リリーナは可愛いから、可愛がられちゃうのがdestiny!」

「え? そ、そうかな?」

いつものメンバーに夏休み中、色々と揉まれたせいか、リアクションが日本っぽくなったね。いいことだ。

おれちゃんのことも許してくれたし。

「キョウの方はどうなの?」

「いや、まぁ、みんなで、いつも通りだよ」

「そっか、いいなぁ。またみんなで遊びたい」

あとでバレたら怒られるかもだけど、謙ちゃんのことは今は黙っておこう。

やっぱ、こっちでなんとかすべきだよなぁ。



その日の夜、オレに未来から電話があった。

謙一の件⋯真理愛さんから、回るよな、そりゃ。

「で、崇は何をしてるの?」

怒ってらっしゃる。詰問口調だし。

「何って⋯」

「麻琴が泣いてるんだけど」

「いや、その、真理愛さんが泣いてるって、その」

そこから来る?的な。

「ケンチの件に決まってるでしょ?同じクラスの崇は何をしてくださってるのかしら?」

怖い怖い怖い。

「下手に手出しするとアレだし、謙一も嫌がってるし、さ」

「男子4人、同じ考え?」

「う、うん」

「そう、わかった。また電話するね」

「え?未来?あ、切れた」

完全に怒らせた、か?

どうすりゃいいんだよ、もう。



結局、あたしが相談できるのは年上の成美さんしかいないみたい。

「なんか、みんながギスギスしそうだね? 未来ちゃんのところは大丈夫?」

「あぁ⋯あんまり大丈夫じゃないかも」

「確かに謙一くんのことで、ボクたちが変になっちゃう必要はないんだけどね。未来ちゃんみたいな優しい先輩がいて、みんな幸せものだよね」

「成美さんに褒められるの、怖い」

「ボクを何だと思ってるのかな?かな?」

「頼りになる美人のお姉さん」

「幸次みたいな言い方禁止。で、崇くんの尻は叩いたの?」

「一応、だけど。なんか弱腰と言うか、腰が引けてると言うか」

「謙一くんの問題だからね。友達だからこそ、どこまで突っ込んでいいか困るんでしょ。学校側は当てにならないみたいだし」

「そうなんだよ、ね」

「だからね、次に何かあったら、外部を、警察を呼んじゃうしかないんだよ。肉体的にも精神的にも暴力振るわれてるわけだし。学校側は対面を気にするから、それをされるのが一番効くよ」

「効くよって、いいの?」

「ぶっちゃけ、加害者を排除しないと解決しないんだよ、大なり小なり、こういう事は。ごめんなさい、もうしませんじゃ駄目なの」

「そうなんだ⋯」

「うん。一緒にいるだけで、不幸になるの、イジメられる側はね」

成美さんの過去が気になるな。

「あの、成美さんも経験あるの?」

「システマを習うきっかけ、かな」

「バーサーカー誕生秘話」

「OK 、未来ちゃん、今度あったときにちゃんと話すね」

あれ、フラグ立てちゃった。



結局、望さんからわたしに電話が来た。

「麻琴は大丈夫なの?」

「えへへ、あんまり大丈夫じゃないかも。困ってるの謙一なのに、わたしが謙一困らせちゃったし」

「ケンチが困るのは良いんだけど」

あれ?良くないよ。

「やっぱり私が呪殺しちゃうのが手っ取り早いのよね」

「それはだめなの。考えてわかったの」

「麻琴?」

「あのね、未来さんに止められたのもあるけど、そういうんじゃなくてね、きちんと痛い目を見てほしいの」

「なるほどね⋯」

「謙一にも勇気を出してほしいところはあるよ。でも、加害者の人たちは表立って制裁を受けてほしいの。何もなかったかのようにフェードアウトするのは、絶対駄目」

「怖いこと⋯いいえ、強いこと言うようになったね、麻琴」

「先輩二人に鍛えられたから」

「そう、いい先輩を持ったわね」

「え? 他人事?」

「わかった。私は最後の手段となってあげる。ケンチの尻を叩くなり、甘やかすなり、麻琴の性癖に沿ってやってみなさい」

「エールに悪意がある」

「私のエールには悪意から、く、を抜いた、愛しかない、わよ?」

「謙一みたいな屁理屈」

「うん、ケンチと一緒にはされたくない、かな」



翌日、登校した僕は、毎朝のルーティンを。

「あったあった」

ゴミ箱に突っ込まれた自分の上履きの回収だ。

なんで、飽きないんだろ?

変な慣れ方してる自分も嫌だ。

さて、今日はこれ以上のいらんちょっかいを掛けられませんように。



イジメ首謀者の宮島と鈴木が同じクラスなのが苦痛だ。

何かと、どうでもいい話題で、僕の名前を無理やり出し揶揄してくるし。

それに対して何も言わずに一緒になって笑っている教師も嫌だ。

クラスの大半は加担せずに呆れてるだけ。助け舟は出してくれない。

あーあ、早く放課後にならないかな。



6時間目終了のチャイムがなると、僕は速攻で部室へと向かう。

崇を待ってる時間さえ、教室にいるのが嫌だから。

当然、僕が部室へ一番乗りとなる。残りの4人が三々五々で集まると、昨日は出来なかった今後の活動方針について話し合った。

昨日のことはなかったように振る舞って。

それがいいのか悪いのか、泣き言を言いたくないので、今はその対応でいいんだと、思う。

部活に関しては夏合宿の成果を文化祭で発表。

オタ活に関しては冬コミエに向けて写真集の作成。

目標は決まってるんだけど、そこに至る過程が⋯難しい。



夜に謙一から電話が来た。だから昨日のことを謝ろうと思ったら、

「ねぇ、麻琴、週末は一緒にプール行かない? みんな誘ってさ」

「ごめんなさい、じゃなくて。え?プーリュ⋯」

「うん、プール」

「え、えっと」

 意識を切り替えよう。プール⋯水着⋯あ!⋯でも、ワンピの方にすれば、目立たないかな⋯

「おーい」

パレオも装備して⋯

「愛しい麻琴ちゃーん」

「ふぇ? へんな呼び方しないの!」

「だって、麻琴が無反応だったから」

「急にプールに誘うからでしょ!」

「あ、その、嫌なら仕方ないけど」

違う違う違わないけど違う。

「嫌じゃない! 行く!」

「そ、そう。ちょっとLIMEでみんなに確認してみるね」

「うん」

話す限りは、いつもの謙一だった。うん。きっと良かったんだよね。

プールで気晴らししたいのかな。

まさか、他の女子の水着姿見たいだけ?だったらお仕置き。



30分くらいでまた電話が来た。

「みんなOK だって」

「そっか」

わたしもLIMEグループに入ってるから、状況は知ってるけど、相変わらず、ノリがいいなぁ。そうだよね、温泉のとき、悩みそうな体型の人、誰もいなかったもんなぁ。

「そんで時間と場所だけどさ」

「うんうん」

とにかく、謙一と会える。今はそれが重要。次に油断したウエスト。



翌日、後島園ランドのプールへと来ていた。

そう、半年くらい前、あ、そんなに経ってないか?長いようで短くて濃い時間を過ごしてるなぁ⋯とにかく、僕が麻琴に惚れてしまって告白した場所だ。

麻琴も意識したのか、あの時と同じ服装、デニムのシャツに黒いひざ丈のパンツにスニーカー、自称アクティブスタイルだ。

「あの時と同じアクティブだね」

「覚えてくれてたのは嬉しいけど、褒めてる?」

「もちろん」

「そ、そっか。なら普通に褒めてほしいかな」

「可愛いよ、麻琴」

「ありがと。えへへ」

「何、イチャコラ時空発生させてるのかな?」

と、ムリョウさん登場。

ロング丈のボタニカル柄のワンピースにサマーカーディガン、相変わらずモデルさん並に似合うな、この人。

なんか、後ろの方で崇が疲れたような顔をしているが、多分、荷物持ちでもさせられたんだろう。相変わらず功徳積んでるなぁ。

あ、幾美と宝珠だ。宝珠は合宿でも着てた白のサマードレス。

「どうしたのケンチ⋯あ、私の水着姿、期待してる?」

くそ、いきなり爆弾を投げてきやがった。

麻琴の顔は見ないようにして

「さぞかしセクシイに皆を悩殺してくださるのでしょうな、宝珠さまにあられましては」

「へぇ」

「ほぉ」

謎の睨み合い。

をしてたら、僕も宝珠も麻琴に頭を叩かれた。

「望さん、いきなり絡まないで。謙一も一生懸命返さなくていいから」

「「はぁい」」

幾美がこちらをため息を付いて見ているが、気にしない。

何かムリョウさん方向から期待に満ちた視線を感じるがスルー。

すると、

「痛い痛い痛い」

という悲鳴とともに恭ちゃんが成美さんに関節を決められて登場。

幸次は呆れてるし、リリーナさんは何かプンスカしてる。だとすると、

「恭ちゃんが、他の女を見たの、かな」

「「そう」」

成美さんとリリーナさんが声を合わせて答えた。

「キョウジさんって懲りないの?」

麻琴の疑問は最もだが、そういう存在、というか男のサガの塊だもんあ。

「ねぇ麻琴」

「ん?」

「平和だね」

「そ、そうかな⋯でも謙一がそう感じるなら、それでいいよ」

ホント、麻琴は僕の天使で女神様だね。

「全員揃ったから、行こうぜ。ほら、成美は恭から離れる!」

「⋯妬いてる?」

「ははは、成美はおバカさんだなああああああ」

今度は幸次が関節を決められた。

「置いてくぞ、もう」

あ、幾美が怒った。



前に来たときは気づかなかったけど、ここのプール、結構大きいし、飛び込み台やウォータースライダーとかもあるし、豪華。

観覧車から、見えたっけ?ここ。ホントに前からあった?でも、あのときはプール開き前だしね、うん。怖くなるからやめよ。

大きな流れるプールの中央には⋯あれ?なんだっけ?あのマスコット。

と思ったら甲高い声が流れ始めた。

「ボクの名前はみっちーくん、後島園ランドのマスコットさ。え?どこにいるのかって?ふふ、みんな、ボクのことを見ているはずさ。そう、ふもとから山頂までの道そのものがボクなのさ。木を隠すなら森、道を隠すなら山なのさ」

なんか謙一がみっちーくんオブジェを壊しに行きそうな気がしたし、望さんは謎の印を結び始めたので

「早く着替えに行こう、ね、ね」

と、わたしは皆を急かさざるを得なかった。

何か、望さんと謙一が似た者同士に見えてきたのが一抹の不安。



外で待っている彼氏達に見せつけるように更衣室から出ていくあたしたち。うん、悪ノリ、コスノリしてる自覚はある。

あたしはフィットネスタイプでセパレート。

望はビキニだけど、上はフリルのついたオフショルダーで下は股上深めパンツ。部長に釘でも刺されたのかな?予想より大人し目。

成美さんはヘソ部分が大胆にあいたワンピース。ミニマムダイナマイトなボディにそれって、性癖おかしくなりそう。

リリーナは蛍光色のハイレグなビキニ。うん、ハワイしてる。スレンダーだから、そこまでいやらしく見えないのが羨ましい。

そして、あたしの麻琴は競泳っぽいデザインのワンピース着てたはずだけど、いつのまにかTシャツ、パレオを装備して防御力高い。

「私、成美さんはV の字になってるみたいなのかと思ってたんだけど」

「遊園地のプールでそんなの着てたら痴女確定でしょ!」

「遊園地じゃなきゃ着るんだ?」

「望ちゃん、口は災いの元、だよ」

彼氏達は自分の彼女の水着姿を他の男に見せたくない独占欲と、奇跡の美少女揃いの彼女たち全員の水着姿を見たいという欲望の間にいるのが手に取るようにわかる。全員の視線、感じるもの。

コスで、そこそこ際どい姿してるけど、単なる水着であるという事が至高の価値観を持つの!

「未来はさっきから何をボソボソと呟いてんの?」

「え?崇、あたし、口に出してた?」

「うん、まぁ、妄想も程々にね」

「うっさい!妄想扱いすんな!」

あたしは思わず、崇の頭を叩いた。



さて、なんだか、いつものように悪目立ちしつつあるので、

「はいはい、馬鹿も程々にして、場所取りしようよ」

と僕が言ったら、ものすごい目つきで全員から睨まれた。

「謙一、自分のことを棚上げしてると、みんなに嫌われちゃうから駄目だよ」

と、優しく麻琴に諭された。

僕はプールに来てから、何もした覚えがないにも関わらず。



「幸次、手伝って」

という謙一の頼みを聞き、おれは謙一が場所取りしてる間に、必要なものをかき集めた。

パラソル付きのテーブルと椅子4つ。それにデッキチェア2台を確保。常に誰かチョロチョロしていないだろうから、全員分は不要だろうし、確保も厳しい。10人だもんね。

「夏休み延長線ってやつか」

「まぁ、ボクは来週は仕事でここにまた来るわけだけど」

「「あはははは」」

成美は、来週はここの山の上でヒーローショーのバイト。おれは別の現場に行く。カップルになると別現場、それがうちの事務所の掟。



「あれ?未来は焼くの?」

私がリリーナと麻琴を連れてプールに入ろうとしている横で、未来はデッキチェアに寝そべって和尚にオイルを塗らせていた。

「軽くね。夏休み中はインドア寄りだったし」

「お盛んなことで」

「そういう意味じゃない!」

「和尚、水着の下も塗ってあげないと駄目だから」

「え!そうなのか!」

「そうじゃない!ばかたれ!」

と、引っ叩かれる和尚を尻目に

「ほら、リリーナ、麻琴、行こ!両手に花ぁ!」

「OK!」

「え?ほら、ちゃんと準備運動しないと」

麻琴は良い娘だよね。普段、ケンチに見せてるであろうお腹をわざわざ隠してるのが、また可愛いし。



「行くよぉ!」

成美が飛び込み台の上から手を振り、そのまま飛び込んだ。

着水時にほとんど飛沫を立てない見事なスタイル。

しかも多分、高さ10mの場所から。

遊園地のプールに来て早々、高飛び込みする彼女を持った、おれって。

しばらく待つと、飛び込みプールから成美が上がってきた。

「お見事!で、乳もげなかった?」

「もげるか!」

と、肩の痛点を掴んできた。

「ぐあぁぁぁぁ、ツッコミへの返しが暴力的なの、なんとかならないかな?ツッコミをやめることは不可能なんだし」

「ボクとしては、全然やめてもらって構わないんだけどなぁ」

「ぐあああ、力を増すなぁあああ」



宝珠が無断でプールハーレム遊びをしようとしているので、僕は麻琴を、恭ちゃんはリリーナさんを取り返し、幾美に後を任せて4人でウォータースライダーに。

大きな浮き輪に座って、螺旋状の滑り台を下るスタイル。

かなり急な坂で、螺旋の回転数も普通より多く見える。

ここが後島園ランドでさえ無ければ、不安はないんだけど。

「どうした?謙ちゃん怖いの?」

「え?ケンイチは怖がり?」

珍しい二人からのツッコミだが

「うん、とりあえず、二人で先に行って」

「OKOK、アタクシが勇気を見せるよ。ほら、キョウ、早く早く」

と浮き輪に座るリリーナさんだが

「リリーナ、ちょっと、謙一が素直すぎるから罠・・・」

リリーナさんは恭ちゃんの言う事を聞かずに、浮き輪に引きずり込んだ。

「行ってらっしゃい、実験体のお二人」

と、僕は二人を押して、滑り台へと勢いよく突き落とした。

「けーーーーーーーん」

という叫びを残し、二人は消えた。

「よし、麻琴、行こうか」

「下に着いたら逆襲されるのに、なんでやるかな?」

「今が面白いから」

「わたしの彼氏が刹那的すぎる」

僕は麻琴を抱えるように浮き輪に乗って、滑り台へ。



結果的に遠心分離レベルで回転しつつ水面に放り出された。

勢いつけなくても、拷問レベルだ。麻琴は半泣きしてるし。

ふと前方を見ると恭ちゃんとリリーナさんが僕を睨んでいた。結局、二人から叩かれた。

どうも勢いよく着水して、リリーナさんのビキニのブラが脱げかけたらしい。

その理由を聞いた麻琴からも叩かれた。

だって、そんなお約束アクシデントまで併発するとは思わなかったんだもん!



「とにかく、ケンチはセクハラの罪滅ぼしとして、全員分の焼きそばを買ってきなさい」

と、ムリョウさんから沙汰が下された。

奇跡的に、他にやらかしたメンバーがいなかったので、ホントに僕一人で10人前の出前をする羽目になった。

畜生、宝珠のハーレム計画を事前に阻止しちゃったから、実質僕だけが。

着いてこようとする麻琴はムリョウさんに阻止されていた。

いいさ。僕は孤独なセクハラ出前マンなのさ。



「ほら、麻琴はケンチが買い終わったら、手伝ってあげていいから、もう少し待て!」

「わたし、犬扱い?ねえ?」

「うちキングに負けて以来のヒエラルキーからしてねぇ」

「未来さんだってキングを制御できないくせに」

「あははは」

笑ってごまかせるとでも思ってるのかな、この先輩は。

「私は麻琴の犬になってあげてもいいよ」

「望は麻琴を舐め回したいだけでしょ」

「うふふふ」

口元に指を当てて、妖しく微笑む望さん。

「望ちゃんもセクハラの刑が必要じゃないかい?」

「成美さん、望の辞書にハラスメントの文字はないですから、無罪ですよ」

部長が胸を張って言った。

「幾美、もう少しマシな擁護してくれない」

「自分の彼女が後輩女子を舐め回したがるのを庇おうとしただけでも褒めてほしいが」

「はいはい、幾美ちゃん偉い偉い」

「もう、庇わんぞ、望」

みんなテンション高いなぁ。・・・謙一のせい、なのかな・・・この隙に行っちゃえ。



こういう両手は重くなり、懐は軽くなる罰は好きじゃない。

しかし、麻琴のためにホットドッグを追加で買うことを僕は忘れない。

さて、戻りますか、と大荷物を持ち直したところで誰かにぶつかってしまった。

「あ、すみません・・・え?」

「んだよ!・・・げっ!進藤、どうしたんだよ、プールなんか来て」

一番会いたくない連中。学校でのイジメ実行犯、宮島と鈴木だ。よりによって。

「ん、まぁ、みんなと遊びに来てて」

「みんな? あぁ生物部か」

宮島が半笑いで言い、

「キモいやつはキモい連中同士でつるむよな」

鈴木がボクを睨みつけながら言う。いつものパターンだ。

「進藤、お前はもう帰れよ。水が汚れるからな」

「オタク臭くなる。失せろ」

相変わらずの小学生みたいな悪口だ。だが、不快、だ。

「あ、謙一⋯知り合いの、人?」

まずい、麻琴、今は。

「進藤、生意気にも女連れ?は?御親戚か何か?」

宮島が少し焦りながらも半笑いを崩さずに言った。

「⋯わ、わたしは謙一の彼女です! 謙一に絡まないでもらえますか」

まずい、火に油だ。

「あーーーー、ふっざけんなオタクの分際でよ!」

僕は宮島に殴られた。よろけたところを鈴木に「こっち来んな」と足を引っ掛けられ、そのまま滑って体勢が崩れて、両手は荷物で塞がって、プールサイドの段に頭を⋯



麻琴の悲鳴が聞こえた。

何事かはわからないけど、緊急事態!

あたしはみんなを引き連れて、その場所に向かった。

そこで見たのは頭から血を流して倒れているケンチとすがりついている麻琴の姿。



「宮島、鈴木、おまえら、何やったんだよ」

恭と崇が二人の腕を掴む。

「知らねえよ! 進藤が生意気だから、ちょっと殴ったら、勝手に転んで」

「幾美くん、救急車と警察呼んで。幸次、監視員か誰か、担架持ってこさせて。望ちゃん、麻琴ちゃんをなだめて」

「おいおいおい、警察とかふざけんなよ、こっちは⋯」

成美さんがいつ動いたのかわからないレベルの素早さで、宮島と鈴木の背後に回り、膝裏を蹴って、二人を膝まづかせた。

「本気出させないで。全身脱臼させて動けなくするよ。この犯罪者ども!恭くん、崇くん、こいつらはボク一人で制圧できるから、もう大丈夫だよ」

「「制圧・・・」」



謙一が死んじゃう。謙一が死んじゃう。やだやだやだ。動かないよ、謙一が動かないよ。血も出てる。頭から、たくさん。

「麻琴!」

望さんがわたしの両肩を掴んで、無理やり振り向かせた。

「やだ、謙一が」

「麻琴! ケンチは頭を打ってるから揺すっちゃだめ!」

だってだって⋯

「救急車も呼んだし、ほら、監視員が担架持ってきたから」

でも、謙一。

「ほら、一旦ケンチは向こうに任せて、私達は着替えよう。病院、一緒にいかなきゃ」

「病院⋯」

「そう、病院に行くから」

「謙一が殴られて、足をかけられて転んで、それで」

「わかった。未来!麻琴について上げて!私はあいつらに話すことがあるから」



「了解!」

そして、あたしは、ただただ呆然としているリリーナの肩を、そっと抱いて促す。

「リリーナ、あたしたちも着替えよう。それで、麻琴を慰めよう。コージも速攻着替えて!」

「わかった」

コージが走って更衣室へ。

「あ、あいつらがケンイチをやったの?」

「そう。でも、あいつらのことは彼らに任せて、あたしたちは出来ることしよう、ね」

最悪だ。

あたしがケンチを買い出しに行かせなければ、こんなことには。

この前の夜、あれこれ話し合ったのに、すぐにコレなんて。

あたしとリリーナと麻琴がちょうど、着替え終わったくらいで、パトカーと救急車が現場に到着。

救急車に運び込まれる謙一。

後悔よりも今優先すべきこと。

「あんまり大勢乗れないもんね。コージ、麻琴、病院に付き添って! そんで、病院どこになったか教えて」

「了解。行こう、真理愛さん」

あとで土下座でも何でもする。ただ、無事で、いて。

祈りながら、あたしとリリーナは救急車を見送った。



無言の真理愛さんを促して、救急車におれも同乗。

サイレンを鳴らし、救急車が出発。

「真理愛さん、謙一のお母さんの携帯、わかる?」

「う、うん」

「お母さんが出たら、おれに代わって。説明するから」

「うん」

ああ、女子連中、来てくれないと、おれには重荷だよ・・・



駆けつけた警官に幾美が事情説明している。

成美さんに押さえつけられてる、件の二人組に

「後悔先に立たず。ご愁傷さまね」

私はゴミを見る目で微笑んであげた。

「なんなんだよ、なんなんだよ、進藤にちょっかいかけてたの、俺らだけじゃないんだぞ。それに、生意気にどいつもこいつも女連れで」

宮島が耐えきれずに反論するが、

「ちょっかい?あなた、彼の事が大好きで、気でも惹きたかったの?気持ち悪い幼稚な男。ま、言い訳は警察で言いなさいよ。気に食わないってだけで自分の行動もろくに制御できない存在が、ここで私達に何を言ったって響きやしないの。わかる?みんないい女連れてて悔しい?悔しいんだよね?何を言おうと、あなたたちは暴行傷害の現行犯。人生お先真っ暗になって、後悔しまくって人生終えれば良い。この様子を動画撮ってるやつをいるみたいだし、ホント終了待ったナシね。みっともなくイキリたおした童貞男なんて、一生童貞でいればいい。そうね、麻琴にはあとで謝るわ。そういう呪をかけてあげる」

私は小さく真言を唱えて、彼らのおでこをデコピンしてやった。

ガクリとうなだれるクズ二匹。

「の、望ちゃん、ホントにやっちゃった?」

「ん? さてどうでしょう⋯まあ、私は有限実行する女だけど」

「今のが望ちゃんの罵倒芸か、怖っ」

「うん、芸じゃないから」


後日、「謎の美少女に詰められる暴行傷害犯」とかいう動画がネットでプチバズった。



警官に連れて行かれる宮島と鈴木に、俺は声をかけた。

「傷害の現行犯だ。もう、会うことないかもしれないけど、万が一復学できても、謙一に手を出すなよ」

「う、うるせぇ」

喚く宮島に対し、鈴木は無言でこちらを睨む。

「もう、幾美くんも望ちゃんも口が悪いよ」

「成美さんは口より手だもんね⋯痛い痛い痛い」

「二人して遊んでないで、着替えて病院いかないと! ほら、キョウジも和尚も!」



男性更衣室。

「なぁ、崇。おれちゃんが、謙ちゃんの代わりに、あいつら殴っちゃえばよかったのかな」

「オレも、そうしておくべきだったって今更ながら思うよ。でもな」

「嫌がったんだもんね」

「学校でボコったって、アイツラが被害者扱いされるだけ」

「だよね。教師も当てにならないし」

「成美さんが、速攻で警察呼ばせたのは、学校側に介入させないため、なんだろうな」

オレと恭は、陰鬱になりながら着替えた。



私達は遊園地の外に出て、未来とリリーナに合流。

コージからの連絡を待つことになった。

「ケンイチ、どうして殴られたの?あの人達、なんなの?」

リリーナが不安げに聞いてくる。

「キョウジ、あんた、リリーナに状況は話してないの?」

「おれちゃんたちの学校の問題だしさ、変に不安にさせたくなかったし」

「アタクシだけ?知らなかったの?」

私はキョウジの頭を叩いてからリリーナに言った。

「They mistakenly believed that they were higher in the hierarchy and continued to bully Kenichi」

「ハワイでもgeek嫌いは、いたけど・・・酷い」

「あいつらも、ここまで大事になるとは思ってなかっただろうけど、そもそも許す必要ないよね」

「・・・ノゾミ、英語できるの?」

「ん?出来ないって言ってないよ」



警官への事情説明はとりあえず幾美と成美さんがやってる。暴行現場を見てはいないが、事情はわかってる幾美。取り押さえてた成美さん。

時間かかるかもとのことだった。

オレは何も出来ない。出来なかった。くそ。

「崇、LIMEに病院何処になったか、連絡きたぜ」

「あぁ、ホントだ」

オレは携帯の画面を確認すると、皆に言った。

「とりあえず、みんなで一旦病院行こう。邪魔になるかもだけど、謙一の親御さんにも、事情話して詫びないわけにはいかないし」

こんな仕切り役は、オレ向いてないんだけど。

「タクシー2台じゃないと無理っぽいね。おれちゃんとリリーナ、崇とムリョウさんと宝珠さんで別れていこう」

さすがにこういうときは真面目だね恭。未来と宝珠さんを避けてる気がしないでもないけど。

未来は責任感じてるのか、妙に静かになっちゃってるし。

「まったく、彼氏ならしっかり未来を支えなさいよ、和尚」

「あ、あぁ」

「未来も!私達は麻琴を支えなきゃなんだよ、しっかりしよ」

「う、うん。ごめん、あたしってば、ホント」

オレは未来の肩を強く抱いた。震えてる。泣くのを我慢してるのか。

「ほら、タクシー来たから、みんな乗って乗って・・・おれちゃんたち、先行くね」

本当に恭は無駄にアクティブだ。

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