第2話 ザ・バースデイ Ep0
麻琴からの電話で、スーパー銭湯で女子会兼麻琴の誕生日会があって、そこでセクハラをみんなからされたという連絡を受けた。
つまりは、いつものことなんだと思うけど、軽く流すと怒られること必至なので、素直に愚痴を聞く。
僕の可愛い麻琴をあまり苛めないでほしいが、弄りたくなるのは仕方がない存在なので、どうしたもんか。
あの女性陣に勝つのは生半可な事では無理だ。異世界転生して、チート能力でも授からない限り。
※
コミエ終わって数日後、僕は麻琴を家に招き誕生日を祝った。日付的には誕生日前日。当日は家族でパーティーするって言ってたから。
「今日は、お母様は?」
「夕方には帰るから、お夕飯楽しみにしててね、って言ってた」
「そっか、うん」
「ん?」
「しばらくは二人っきり…」
「そ、そだね」
お互い赤面しつつ、わかりきったことを確認し合い、部屋へ。
最近の定位置である僕のベッドに並んで腰かけた。
「さ、さっそくなんだけど」
「ひゃ、ひゃい!」
変な緊張感。
「麻琴、誕生日おめでとう」
僕は麻琴に小さな箱を手渡した。
「ありがとう。中、見ていい?」
「もちろん」
麻琴はかさかさと包みを開ける過程で、2回、下に落とした。
うん、いつも通り。
ようやく、中の箱にたどり着き、一瞬息をのむ麻琴。
「全然サプライズにならないけど、お約束の品になります」
「ひゃ、ひゃい」
※
手の中の箱をパカっと開けると、きれいなライムグリーン色の小さな宝石が付いた、銀の指輪が入っていた。
「8月の誕生石、ペリドット?ってやつ?小さいのしか買えなかったけど、き、気持ちは詰まってるから」
と謙一が頬を赤らめながら言った。
わたしは、嬉しかった。
とてもとーっても嬉しかった。
涙が出そう。
「ありがと、謙一」
「うん、で、その、着けさせてもらって、いいかな?」
わたしは、そっと指輪の入った箱を手渡した。
そして指輪を右手で持つと、左手でわたしの右手を持った。
「左は将来的にね」
と、右の薬指に指輪をはめてくれた。
わたしは、何も言えなくなったけど、言いたい気持ちを思いっきり込めて、謙一にキスをした。
そのまま、謙一に押し倒されて…合宿の時に買った、赤のハーフカップと横紐の上下揃いを見られ、大変なことになった。
謙一の胸元には、わたしがあげたフクラガエルのペンダントが揺れていた。とても可愛い。
※
わたしが身支度を整えている間に、謙一が
「軽めのお昼ね。ほい」
とホットサンドを作って持ってきてくれた。
謙一の方が奥様っぽい?あれ?
美味しいし…料理できるのは合宿で知ってたけど。
「今度は、わたしがご飯作って、謙一を篭絡する!」
「いや、もう篭絡はされてるんだけど」
「今より!」
「さ、左様で」
食事も終わり、謙一が腹ごなしにもう一戦とか言い出したので、成美さんに教わった腕に激痛が走るツボを押して落ち着かせた。
「お母様が帰ってくるんでしょ?」
「はい、そうです、ね…すみません」
そりゃ、時間があれば、ね、わたしだって…うん。
※
バーサーカーめ、僕の麻琴を最終兵器に変えるつもりか?ビーストテイマー+格闘家スキルとかバランス悪いぞ。すでに可愛いという最強スキルがあるのに。
「もうじき、2学期始まっちゃうね」
麻琴はなんとか僕の意識をそっちから逸らそうと頑張っているのがわかる。
痛いのは嫌だし、僕は素直に言うことを聞くんだ。
「そだね」
「あんまり、会えなくなっちゃう?」
「でも、ハロウィンイベントもあるし、うちの学校の学園祭にも来てほしいし、冬コミの準備もしなきゃ出し、会わないでいる方が大変だよ」
「前向きだよね」
「そりゃ、もう。後ろ向いたらお化けに食われちゃうレベルだし」
すると、麻琴が僕の頭を自分の胸にかき抱いた。
「よしよし」
なんだか慰められた。胸の柔らかさと頭を撫でる手の優しさが、とっても心地いいので逆らわない。
※
ふと湧き出てくる謙一の闇を抑える、わたしの簡単なお仕事。
謙一は楽しもう楽しませようという気持ちが強い。でもそれは日常の不安の裏返し。
「謙一くんはね、他虐に見せかけて自虐してる。気を付けてあげてね」
合宿の時にお風呂で成美さんから言われた言葉。
大変な人を好きになってしまった、と今更思わなくもないけど、謙一はわたしに、凄い幸せをくれる。ずーっと一緒にいたい。さっきも、ずっとベッドで抱き合っていたかった。
望さんには
「自分を犠牲にする恋愛にならないようにね。私もケンチを絞めるようにするけど」
って言われた。絞めないでいいんだけども、周りが見えなくなり過ぎないようにしないと、とは思った。
未来さんには
「ケンチは麻琴を泣かせるようなことはしないと思う。でも手綱は緩めないんだよ」
わたしも未来さんも、彼氏に手綱握られてる気がするんだけど、気のせいかな。
だからこそ、わたしは謙一を抱きしめる。
謙一の頭を撫でる自分の手に光る、指輪を見ながら。
※
「謙一ぃ!麻琴ちゃん!ただいま」
と部屋のドアの外から、お母様の声。
思わず謙一を跳ね飛ばして、急いでドアを開けた。
「お、お邪魔してます」
「いらっしゃい、麻琴ちゃん。謙一、どうしたの?」
「ん?なんでも、ない」
「もう、ほどほどにしときなさいね。麻琴ちゃんも駄目とかはハッキリ言うのよ」
どうも、わたしが跳ね飛ばしたせいで、謙一はベッドの端に頭をぶつけたっぽい。
「わ、わかってます。わたしは幸せですから」
あ、何言ってんだ、わたし。
「あははは、なら良し。呼んだら来てね。ごちそう準備するから」
わたしは真っ赤になってうつむいて、ひたすらうなづく事しかできなかった。
※
「そういえば、海とかプールに行かなかった気がする」
謙一が愕然とした表情で言った。
「成美さんや望さんの水着が見たいだけじゃないの?」
「ち、違うよ。僕が見たいのは麻琴のビキニ」
「ビキニなんて持ってないし、着ない!似合わないもん」
「え?今着てるのだって…」
「言わなくていいの!今日限定なの!もう!」
改めて指摘されると恥ずかしいんだから。気に入ってくれたようなのは、とてもうれしくもあるんだけど。
「ふ、二人きりなら、行ってあげてもいい、よ」
「そ、そっか、うん。でも」
「でも?」
「そういうビッグイベントは来年まで取っておくってのもありだよね」
「ありだよねって…謙一がそれでもいいなら、別にいいんだけど」
わたしの覚悟を返してほしくもある。
それからも、いろんな話をしたり、キスしたり、してたら、お母様に呼ばれた。
「二人とも!準備できたからいらっしゃい1」
※
「すごい。ホテルのレストランみたい」
と、食卓を見た麻琴が思わず呟くほど、母さんの料理は気合が入っていた。
ローストビーフやエビフライや唐揚げや…ん?お子様向け?
麻琴はテンションあがってるから、いいのか。主役だもんな。
「さ、まずは乾杯して」
母さんがワイングラスにグレープジュースを注ぐ。
「ワイングラスでなんて、ジュース飲んだことないよ」
「お誕生日だし、16歳、でしょ?そういうのもあり、よ」
母さんの言ってることがいまいちわからんが、良しとしよう。
「それじゃ」
と母さんがグラスを掲げたので、僕も麻琴も併せて掲げた。
「「ハッピーバースデイ!」」
「ありがとうございます」
さぁ、麻琴のフードファイトの始まりだ。
前よりも食べるようになったのか、前が遠慮していたのかわからないけど、合宿でタガが外れた気がする。
もりもりと食べる麻琴の姿を見て、母さんは終始楽しそうにしていた。
「ケーキは明日、家で食べると思って用意しなかったけど、3ホールくらい買っていた方がよかったかしら」
「さ、3ホールは無理、です」
2ホールなら行けそうな口ぶりなのが怖い。
楽しそうに、美味しそうに食べる麻琴が可愛い。
後半は、僕と母さんで麻琴が食べる姿を眺めるだけになっていた。
「え?あの?わたし、なんかした?」
「ん?たくさん食べてくれて嬉しいなって見てただけよ。早くウチの娘になって、孫の姿も見たいものね」
「みゃ、みゃごの…」
みゃご?
「母さん!」
「あははは、謙一は麻琴ちゃんに捨てられないように、努力しなさい」
「う、うん、まぁ、そりゃ、ねぇ」
「謙一、そこはハッキリ答えないとだめでしょ」
「あ、あの、謙一さんは、いつも、あの、大事にしてくれるし、わたしは、その」
「はいはい、ごちそうさま」
息子とその彼女をからかわないでほしい。
「麻琴ちゃん」
「は、はい」
「あなたたちは出会って半年。傍から見ると早すぎるって言われるかもしれないけど、時間をかけるだけが恋愛じゃないしね。謙一と歩調を合わせて進めば、それでいいと思うの。あくまで個人的意見だけど」
「そう、ですね」
「謙一は麻琴ちゃんのご家族に早めにご挨拶に行きなさい。歓迎されるか、反対されるかはわからないけど、筋は通しておきなさいね」
「筋を通すって…まぁ、言いたいことは、わかる」
「なら母さんからはこれ以上のアドバイスはないわ。麻琴ちゃん」
「はい」
「残った分は包んであげるから、無理に食べないのよ」
「え?…はい」
真面目に話を聞きつつも、食事は残さないようしたいと執念が、母さんには垣間見えたのだろうか?
「ほら、後片付けはいいから、謙一と部屋に行って、おなかが落ち着いてから、帰りなさい。ね?」
僕は麻琴を支えるように立たせて、部屋へと戻った。
なんか、重くなってるよ麻琴。
※
美味しくて食べ過ぎた上に、それがバレバレで恥ずかしさマックスなんだけど、お母様には謙一とのこと、認めてもらえてるようでよかった。
謙一がわたしを見て、そわそわしてるので、
「今、わたしのお腹に触ったら、さっきより痛い技使うからね」
と釘を刺しておいた。
「はい」
素直な謙一、好き。
※
一時間ほど、大人しくしていると、麻琴のお腹も落ち着いたようなので、送ることにした。
帰りしなに母さんから
「ほら、包んでおいたから、持って帰って」
とでかいタッパーを二つほど、手提げ袋に入れて渡される麻琴。
「あ、ありがとうございましゅ。今日は本当にご馳走様でした」
「いいのよ。お誕生日記念だし。それよりも、ちゃんとご家族で分けてね。うん、分けるのよ」
「え?はい」
僕の彼女は母さんにフードファイター認定されたようです。
※
「わたし、完全に食いしん坊扱いだよね」
麻琴を送る道すがら、意を決したように麻琴が言った。
「食いしん坊じゃないよ」
「ほんと?」
「うん。フードファイター」
「嬉しくない!」
何か、別の痛いツボを押された。
「ででででもさ、ほほほほら、か、母さん、麻琴のこと、きき気に入ってるるるし」
人って、痛いとちゃんと喋れないんだと、改めて実感したのと、成美さんとついでに幸次を許さないと誓った。
「なら、いいんだけど」
やっと謎の痛みから解放された。
「で、さ、今度、僕が麻琴の家に挨拶に行くから、予定、確認しといてくれる?」
「来て、くれるの?」
「うん、そりゃ、まぁ。彼氏だし。恋人だし…将来も、さ、うん」
「そそそ、そういう挨拶に!?」
「え?あ、違う、それは、まだ、うん。顔見世っていうか、今回は」
「そ、そうだよね。えへへ。うん、予定聞いとく」
母さんが渡したお土産が異様に重く、結局麻琴の家の前まで持っていった。
母さん、食卓に出していないものも詰め込んだな、こりゃ。
明日から、ウチには食料があるんだろうか?
「じゃあ、またね」
「うん、今日はホントにありがとう…上がってく?」
「それは、覚悟を決める時間をください」
「えへへ、そうだよね。また連絡する」
麻琴の家の2階の窓から、何か視線を感じたが、うん、また、ね。
※
お母さんに、謙一の家で持たされたお土産を渡した。
「え?これ…麻琴、あなた、いったい何をもらってきたの?」
「あの、誕生日パーティーしてもらって、残り物をもらった、だけ」
「10人前くらいない、これ?」
「あの、謙一、さんのお母様が、張り切って歓迎してくれて、ね、うん」
「はぁ、娘が大喰らいだってバレた、か」
「お母さん、大喰らいって!」
「いいのよ、いずれバレることだし、わかったうえで歓迎してくださったみたいだし…はぁ」
お土産を渡したら溜息をつかれる娘の気持ちも考えてほしい。
「お礼はきちんと言ったのよね?」
「それは、もう、いっぱい」
「そう?ならいいけど」
「で、ね、謙一、さんが今度、ウチに挨拶に来たいって」
「あらあら、大歓迎しなくちゃ。で、明日?明後日?」
「え?あの、まだ、予定聞いとくねってくらいで」
「お母さんはしばらく予定ないし、いつでもいいわよ。お父さんは…拗ねなきゃいいけど…会わせたい?」
「う、うん。お父さんも会ってくれるなら嬉しい」
「彼氏くんにはハードル高くなっちゃうかもだけど、家族総出で歓迎しましょうか。お父さん帰ってきたら相談しましょ」
「う、うん」
謙一のハードル上げちゃった、かな。
でも、お父さんにも認めてほしいし、辰巳も男兄弟出来たら嬉しい、かな?兄弟…うん、いずれ、うん。
「何かニヤニヤしてるとこ悪いけど、その素敵な指輪は彼氏くんのプレゼント?」
「え?ニヤニヤとか…うん、もらったの」
「そっか。大事にしなさいね」
「もちろん!」
これ以上のツッコミは居たたまれないので、わたしは自室へ逃げ込んだ。
その後、帰宅したお父さんに予定を確認して、ちょっと憮然とされつつも会ってくれることになった。
すると辰巳が
「さっき、窓から見てたけど、なんか頼りなさそうな…」
謙一の悪口は許さないので、激痛のツボを押して黙らせた。姉として弟の教育は大事。
あ、お母さんは笑ってるけど、お父さん、ちょっと引いてる?気のせいだよね。悪いのは辰巳だし。




