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第1話 ザ・バースデイ

前作最終回から直接の続きです。

夏休みも半分以上が過ぎ、コミエの疲れも抜け、二日に一回くらい謙一とデートして、夏休みの宿題を片付け終わろうとしていた8月の終わり近く。

わたしは未来さんに呼び出されて…スーパー銭湯に来ていた。

今日は女子会。望さん、成美さん、リリーナも呼んで、たまには彼氏抜きで遊ぼうってことになった。リリーナの歓迎会も兼ねて、ね。

彼女とはコミエ帰りに妙なレストランに行っただけだし。

わたしとしては半月くらい前の合宿で温泉に行ってセクハラされまくったような記憶しかないので、みんなでお風呂は躊躇したんだけど、リリーナが乗り気だって聞いて、断るわけにもいかなくなった次第。

目的地のスーパー銭湯の前に着くと、すでに全員揃っていた。

「マコト!久しぶり!」

と会うなり、リリーナがハグしてきた。

1週間かそこらで久しぶりでもないけど、夏コミエじゃ3日間ずっと一緒だったから。

「麻琴ってば遅いわよ」

「望さん、まだ集合時間前」

「おつう、遅いぞ」

「未来さん、まだ夕鶴ネタ引っ張るのやめて」

「麻琴ちゃん、おなか空いてない?大丈夫?」

「成美さん、会うなり言うセリフじゃないよね」

「「「「さすがツップリ」」」」

リリーナまで、その不名誉なあだ名で声まで揃えて言うのやめてほしい。



「さ、一仕事終わったから中に入ろう」

と未来ちゃんが仕切りだした。いつも通り。

うん、いつも通りと思える交友関係って、改めて素敵だと思うボクなのである。

最年長だけど、そんな年齢差なんてどうでもいいような関係。たまに、もう少し敬えと思わなくもないけど、彼氏連中が幸次も含めてアレなんで、どうしようもないよね。



入湯券を買って、中に入って、脱衣場へ。

この前の温泉の時もそうだったけど、実は私、こういう状況に慣れてない。友達と裸の付き合い、なんてこのメンバーが初めて。言わないけど。

それにみんな、それぞれ違う魅力があって…言わないけど。

特に今回はメイドインHAWAIIのリリーナまでいる。

百合心が燃えるのだけど、以前、幾美にそれとなく注意されたから控えなきゃとも思うけど。

私らしくないから、控えない!



痕、残ってないよね…崇、途中から遠慮なくなってたから。

それを受け入れた、あたしも大概なんだろうけど。

それとなく鏡で背中や脇をチェックしてたら、望と成美さんがニヤニヤしながら見てきたので中止。

バレてる。

完全に女子チームも生物部ノリが移ったよね。良くも悪くも…悪い方が比率高いけど。

そもそも皆彼氏持ちなんだから、そういうの隠してもしょうがないとは思うけど。



キョウはアタクシのプロポーションを褒めてくれるけど、このメンバーだとやっぱり自信なくすなぁ。

それに裸の付き合いってやつ?初めてだから恥ずかしい。

ナルミもノゾミもBIGだし、ミキはファッションモデルみたいだし、マコトは…ちょうどいい感じでCUTE。

「ほら、リリーナ、おいで」

と、ノゾミに身体に巻いてたタオルを剥ぎ取られた。

固まるアタクシにマコトが駆け寄った。

「タオル巻いてちゃ、入れないんだよ、リリーナ。でも望さんは無理矢理取るの駄目」

とマコトがノゾミを叱りつつ、教えてくれる。

覚悟を決めるよ、アタクシ。



妙にリリーナちゃんの背中や髪の毛を洗いたがる未来ちゃんと望ちゃんを麻琴ちゃんが引きはがして、ボクにリリーナの世話を託していった。なんだか、夏コミエから、そんな役割になりつつあるけど、いい子だし、何より可愛いし、一緒にいて苦にならないから無問題。

殉教するが如く、未来ちゃんと望ちゃんに弄られている麻琴ちゃんを心の中で祈りながら、ボクはリリーナちゃんのお世話をするのである。

「まずは先に身体と髪の毛洗ってから、入ろうね。リリーナちゃんは日本のお風呂は慣れた?」

「うん。キョウの家で入ってるから、だいぶ慣れたよ」

「ホテルとかじゃなく?」

「うん。ダディもマミーも仕事や引っ越しで忙しいから、アタクシ、結構自由にやってる」

「ハワイの娘って、そういうもんなの?」

「ん-ん、ウチが緩いだけ」

「さ、左様ですか」

隙あらば幸次を引っ張りこんでるボクに、何か言える資格はないけど…いいのかな。

「ナルミ、これの操作、教えて」

あー、お湯やシャワーの出し方もよくわからないか。よし。

「お湯と水はここを押すと5秒くらい出るの。そんで、シャワーはこっちを押すと20秒くらい出る。止まったら都度都度押して」

「へぇ…Wow」

感心しつつも、おっかなびっくり気味なのが可愛い。



「うん、サイズ感は変わらねど、肌艶が増してきたね、麻琴」

などと、わたしがシャンプー始めた時点で言うから、身体を隠すに隠せない。

「ケンチのやつ、だいぶ、アレね」

「だよね、うんうん」

「そういう未来だって、胸に痕が」

「え?うそ?どこ?」

「嘘だけど」

「望!」

「コミエ後にだいぶ盛り上がったのね」

「否定できないのが悔しい」

「私からしたら、うらやましいんだけど」

「望は最後までしてない、だけ、でしょ?」

「黙秘権」

「麻琴、一番エッチなのはケンチでも成美さんでもなく、望だよ」

比較対象に、わたしの彼氏を出さないで欲しいし、声が大きいよ、未来さん。

ようやくシャンプー終了。

「いいから、早く洗っちゃいなさい、下ネタシスターズ!」

「「な、なんてことを」」

怒ったかな、さすがに。

「「さすがツップリ!」」

だめだ、えさを与えただけだ。



「ツインテにするだけあって、リリーナちゃんも麻琴並みに髪長いよね」

「マコトほどじゃないけど…こうやってシャンプーするのも大変だから切りたいんだけど、キョウがこのままがイイって言うんだもん」

「あはは、わからなくもないな。似合ってるから」

「そ、そう…」

なんて照れてるのも可愛いわけで。

「でも肌白いよね。ハワイで日焼けしないの?」

「アメリカ人の血の方が濃いからかな?日本人みたいには焼けないの、元々」

「そっか、ビスクドールみたいだもんね」

「あの、ナルミ、ほめ過ぎ」

「あ、可愛い娘にはつい。ごめんごめん」

「いや、いいんだけども…恥ずかしいから」

この感覚を未来ちゃんと望ちゃんも持つべきというか、もう少し表に出すべきというか。

あ、でも未来ちゃんは確実にしたみたいだから、変わるかな。

さぁ、ボクもちゃっちゃと洗っちゃおう。



洗い場から屋外になってる露天風呂に。

ちょっと熱いけど、溶ける感じが気持ちいい。

ま、両脇は下ネタシスターズなわけだけど。

「麻琴、どれくらいから良くなった?」

未来さん…あなたの言いたいことがわかっちゃう自分が嫌。

「な、内緒」

「未来、あなたコミエからそんなに経ってないのに、どんだけ和尚と爛れた夏を過ごしてんの」

「爛れてない!」

もう、わたしのいないとこで話してほしい。

「お、3人娘、こっちにいたか」

と、成美さんが、キョロキョロと物珍しそうに周囲を見ているリリーナを連れてやってきた。

言いつけ通り、タオルを巻かずにいるのはいいけど…どこも隠さない度胸があるんだね、リリーナってば。

産毛が光を反射して、なんか輝いて見えるのがまた。

「ほら、風邪ひいちゃうから、湯船に入った入った」

なんか成美さん、姉というか母親というか。

「ひゃっ」

と、湯の熱さに可愛い悲鳴を上げつつも素直に浸かるリリーナ。

「ふう。どうせエッチな話してたんでしょ?ボクも混ぜて」

NPBがNP状態なんだもんなぁ。そりゃ本領発揮だよね。言わないけど。

「未来がね、いつから良くなるのか、みんなに聞きたいみたい」

望さん、火の玉ストレート。

「なるほどね。ボクの場合は2ヶ月くらいだったかな…リリーナちゃんは?」

なぜ、人前で平然とこんな話ができるんだろう。

「良くなるって、なに?」

良かった、リリーナには日本語の細かいニュアンスまでは通じない。

「あのね」

と成美さんがリリーナに耳打ちを始めた。

そこは周りを気にするんだ。

「Oh…キョウと付き合い始めて、からかな」

「あやつ手練れか!で、体験自体は、早かったの?」

もういいや、聞き役に徹しよう。

「Junior Highの頃」

「やっぱり海外の娘は早いのか」

成美さん、腕組みしてうなづいてる。

「マコトはケンチと?」

いきなり?聞き役に徹したいのに。

「あの、その、まぁ、うん」

「素敵だね。初めての人と結婚するなんて」

「へ?」

「コミエの後の打ち上げパーティーでプロポーズされてた」

わたしはダッシュで逃げ出した。これ以上無理。



「あはは、麻琴ってば逃げちゃった」

「望、さすがに今の流れは麻琴にはキツいでしょ」

「そうだけどね」

「まったく、あんたたちは…ツップリ扱いしてるけど、麻琴ちゃん、逆にツッコミには弱いんだから、加減しないと嫌われるよ」

それに怒らせると怖いしね。望はよく知ってるはずなんだけど、Sの血が騒ぐのか、懲りないのよね。

「未来ちゃんは、まだ良さがわからない感じ?」

あ、まだ続くのか。言い出しっぺは、あたしだし、うん。

「うーん、ほら、最後までって感じには」

「あぁ、なるほど。崇くん次第なとこもあるけど、一人で練習しとくって手もあるかも」

「なんて話してるんだろうね、私たち」

「望」

「望ちゃん」

「ノゾミ」

「「「いまさら言うの?」」」

「私、経験ないから」

「What?」

あ、リリーナは事情知らないもんね。あんだけいちゃついてて、そりゃ、Whatって言いたくもなるよね。



何とか、逃げられたかな。

でも、謙一に早く会いたくなっちゃった。

わたしってエッチ?

謙一が謙えっちなだけだから、わたしは大丈夫だよね。うん。



望ちゃんが自分の家の禁止事項をリリーナに説明してる間に、ボクは未来ちゃんに

「そこに至りたいのは、すごくわかるけど、至ったら至ったで、ホント、サルになるから気を付けてね」

「サル?」

「うん、サル」

「そっかぁ。楽しみなような、怖いような、それは困るような」

「一番大事なのは、その結果で不幸にならないようにすること。崇くんにはちゃんと着けさせる。未来ちゃんは自分の周期とか把握する。わかる?」

「う、うん。それは、うん」

「大学行って、その後の進路とか考えてる?」

「出来たら服飾関係とかに進みたいな。それだと、専門学校の方がいいのかなと悩んだりしてるんだけど」

「我らのお針子さん、だもんね、うん」

「成美さん、どう思います?」

「お針子さんとしての腕を磨きたいなら、専門校もありかもしれない。でも、将来的にコスショップ立ち上げたいとかなら、大学行って、アパレル系に就職して、経営側のノウハウも吸収した方が、ボクは良いと思う」

「そおか…さすが成美さん!あたしらの姉御!」

と抱き着いてきた。

未来ちゃんの胸の感触を背中に感じて楽しみつつも

「姉御は辞めて」

「…あねさん?」

「どうしてカタギじゃないっぽくするの?」

「カタギじゃないよね?コージが言ってた」

うん、あいつ、絞めよう。



室内の大きなお風呂で身体を伸ばしてひとり。

うん、こういう解放感、大事だよね。

「マコトーっ!」

とリリーナが飛び込んできた。

「リリーナ!他の人の迷惑になるから、駆け込んできちゃだめ!」

「Sorry…あのねあのね、ノゾミの話、聞いたの。ノゾミってPriestなのね」

「プリースト…あ、神官とかそんな意味だっけ。うんまぁ、話半分で聞いといた方が、こっちの精神衛生上いいかもだけど」

「ウソなの?」

「あ、違う違う。そういう厳しい家庭なのは確かだと思うんだ」

「ふぅん。難しい」

「そうだなぁ、攻めたがりだけど、自分は攻めには弱い、隠れ受け体質」

「あぁ、そっか、うん、わかる」

「本人に言っちゃだめだよ。言葉の暴力で返されるから」

「OK。でも、きれいだし、ミステリアスだし、ナイスボディだし、憧れる」

「うん、望さんは美人。彼女を恋人にできた部長さんは凄いと思うよ」

「アタクシもあんなボディなら、キョウジをもっと釘付けにできるのになぁ」

「リリーナいるのに、まだ、フラフラしてんの?」

「あ、浮気とかはない…はずなんだけど、可愛い人を見つけるサーチ能力が高いの」

あの人にナンパというかスカウトされた身としては複雑だけど。

「もし何か悪さしたら、成美さんにクチャクチャにされて、望さんに呪われるだろうから、さすがに浮気はしないと思うよ。わたしたちの彼氏全員ね」

「そっか、そうだよね。アタクシも許さないし」

「リアルエルフなリリーナを裏切るなんて、人間風情には無理だから、うん」

わたしは腕組みをしつつ言った。

「マコトみたいな美少女に褒められるのは、やっぱり嬉しいね。アタクシの評価高すぎだと思うけど」

「ううん、リリーナは可愛いよ」

「Thank you、マコト!」

と、リリーナに抱き着かれて頬にキスまでされちゃった。

「ふーん、麻琴はリリーナとは百合百合するのに、私とはしてくれないんだ。意地悪」

突如背後に望さん出現。

「ニャ、な、いつの間に」

「隠形の術くらい、使えるよ」

使えるのはいいけど、風呂で使わないでほしい。

「で、未来さんと成美さんも隠形の術、使ってるの?」

「成美さんは武術的要素で使えそうだけど…年長者二人はまだ露天風呂で性的な会話を続けてるだけ」

続けないでほしいけど、未来さん、真剣に悩んでるのかな。

「麻琴の悩みは、私が聞くから大丈夫」

「あ、アタクシも相談に乗るよ」

そういえば、二人とも1個上の先輩なのだった。

「あ、結構です」

と断る勇気くらいは、わたしにもある。

「えー、ほら、性的なのじゃなくていいから。先輩後輩として、ね」

「アタクシも9月からは正式にマコトの先輩、だから、ね」

組まないでほしいな。リリーナに悪影響与えないでほしいな。



「うーん、焦っても良いことないよ」

「でも、崇がつまらないんじゃないかなって思っちゃう」

下級生組がいないと、ホントに可愛い妹キャラになるね、未来ちゃんは。

ボク、たまんない。

「でも、そんな余裕あるの?崇くんは」

「え?うん、頑張ってリードしようとはしてくれる」

「さすが和尚。サルになることへの自制心が働くんだ。愛されてるねぇ、未来ちゃんは」

「そう、思って、いいの、かな」

「合宿の時も言ったでしょ?相手を自分に溺れさせなさいって」

「う、うん」

「結果的に溺れてるんじゃない?お互いに、かもだけど。イヤじゃないんでしょ?行為自体は」

「それは、まぁ、うん」

「終わった後に背中向けて寝たり、ベッドから出て行ってスマホ弄り始めたり、さっさと服着て帰ったりしなければ、大丈夫」

「成美さん、男運悪い?」

「幸次は、そんなことしないから」

「そ、そうなんだ」

それまでは、悪かったんだ…

「とにかく、お互い初めて同志だったんでしょ?そんなすぐには進化出来ないよ。あとで麻琴ちゃんにこっそり聞いてみなさい。合宿の時より、女っぽさ増してるし」

「やっぱり?」

「謙一くんの技と麻琴ちゃんの好奇心の組み合わせがいいのかもね…知らんけど」

この辺りで、この話を終わらせないとね。周りが聞き耳立ててるの凄い感じるし。

「ほら、望ちゃんも呆れて中行っちゃったし、ボクたちも行こ」

「う、うん」

湯船から立ち上がる未来ちゃんは、チビのボクと比べて、マジのモデル体型で…ボクがあれこれアドバイスするのが烏滸がましいくらい、イイ女、なのよね。

スペシャルテクニックとかしか教えられないな、もう。



「麻琴、ケンチってやっぱり謙えっちなんだよね?」

「わたしの彼氏を貶めるような発言に回答する義務があるとでも?」

と、わたしは望さんを睨みつけた。

「…ごめんなさい」

時々、望さんは叱らないと暴走がひどいから。

「お、年少組、ここにいたか」

と、成美さんと未来さんも合流。

ん?年少組?

「ネンショウ…マンガで読んだことある!少年院のことでしょ?」

リリーナが大き目な声で言うもんだから、何人か湯船から出て行った。

「リリーナちゃん、年下っていう意味で、言ってるの。物騒な経歴の話じゃなくて」

「そっか」

日本語は難しいと思うけど、妙にオタク知識があるせいで少々方向性がね。

「わたし、ちょっと休憩」

と、湯船から出て、デッキチェアが置いてあるサンルームみたいになってるコーナーへ移動。

何か逃げ回ってるなぁ、今日。

少し悩んだけど、女風呂だしと思って、下半身にだけタオルをかけて、デッキチェアに身体をゆだねる。

「ふぃぃぃぃ」

下ネタで茹っちゃうよ、あのままだったら。

こんな恰好、謙一には見せられない…かな。

弱めの空調の風が当たって気持ちいい。家じゃできない贅沢。

サウナと水風呂で整うとかあるみたいだけど、何か身体に悪そうなやり方だし、わたしはこれで十分、フニャれる。

「麻琴?ちょっといいかな?」

と未来さんが来た。

さっきまでと違う、大人し目。

「うん」

すると、未来さんがザリザリとデッキチェアを引きずってきた、横に座った。

ちなみにタオルは首にかけてるだけで、何も隠していない。でもファッションモデルっぽくていやらしくないのが凄い。

「どしたの?」

「麻琴に、ちょっと相談というか…あの…」

と、言いだしてから、未来さんは私に耳打ちしてきた。

「あの時って、気持ちよくて変になっちゃったこと、ある?」

「へ?」

と私は固まり、そのまま全身真っ赤に。

さっきの続き?しかも真剣に?

「しょ、しょんなこと…未来さん、真剣?」

「ん」

ふざける様子は無さそうなので、わたしも真剣に答え…たい。

「わたしだって、謙一しか知らないし、最初の時から、そんな何回もしてないし、何がどうとか、比較対象にはならないよ?」

「成美さんがね、麻琴の好奇心とケンチの技の賜物だって」

あの人は、わたしをどういう目で見てるんだ?

「ぎゅっと抱きしめられたり、その、キスしたりするだけで、幸せなのとビビっと来るのでふにゃふにゃになるの、未来さんもある?」

「それは…ある」

「今はそれが少しずつ強くなってる、くらい?マンガで読んだりするような事には、ならない、かな」

「そのマンガ詳しく」

「ふざけるならもう、話さない」

「ごめん、つい」

「もう!…とにかく、焦ったってしょうがないと思うよ。好きな人の好きな気持ちを感じるのが一番幸せだもん」

「麻琴、あなた、本当にすごいわ、うん。師匠だわ」

「や・め・て」

なんか、みんなでわたしをエッチな子にしたがってる気がする。



もう一度湯船に入るか悩んだけど、疲れちゃいそうだから、このまま上がることにした。

他の皆も、ぞろぞろと付いてきた。

「なにも出るタイミングは合わせなくてもいいと思うんだけど」

「ん?このあとのお楽しみがあるから、ね」

「お楽しみ?」

未来さんは言うだけ言って、自分のロッカーに行っちゃうし…何を企んでる?

そういえば、下の食堂が有名だったなぁなんて思いつつ、服を着始める。

髪の毛乾かすの時間かかるから、ちゃっちゃとね、うん。

「あれ、麻琴。合宿で買った下着は?」

「あんなの、ここで着るもんじゃないでしょ!」

「あぁ、ケンチいないもんね」

もう、言い返さない。キリがないし。

そりゃ、謙一には着て見せたけど。

結果、えらいことになったけど。

「麻琴ちゃん、ボクはショートだし、自然乾燥で平気なんで、ドライヤーやってあげるからおいで」

「はーい」

成美さんの申し出にありがたく乗る。

「リリーナ、あたしがドライヤーしてあげる」

「Thank Youミキ」

「ねぇ、私は?」

「望ちゃんは、そこまで長くないでしょうが」

「望、なんかそういう術ないの?」

「あるけど」

「「「「あるんかい!」」」」



なぜか、成美さんに縦ロールで仕上げられました。

「姫度ましまし」

と、成美さんは笑ってる。

「わたし、このまま帰るの?ねぇ?」

「マコト、すてき!」

と、リリーナは目を輝かせてるし、未来さんと望さんは黙って深くうなづいてる。

「ほら、食堂でご飯だよ麻琴」

と、未来さんに手を引かれた。直す隙を与えない気だとわかる。

仕方がないから、行くしかない。特にスプレーとかで固めたわけじゃないから、ゆるゆるしてるし、自然に戻る、よね。

食堂へと行くと、望さんが小走りで奥にある座敷コーナーを確保してる。

「ほら、麻琴は上座ね」

「上座?え?何?」

「今日の主役だから」

「しゅやく?」

「「「「ハッピーバースデー!麻琴!」」」」

と上座とやらに座った途端、皆に祝福された。

「え?わたしの誕生日?先週…」

「当日はケンチとハレンチなパーティーしたのかもしれないけど、女子は女子で祝いたいから、今日、ね」

「ノゾミ、ハレンチなって、どういう意味?」

「Adulty & Sexual」

「Wow」

「してないからね、そんなの」

「主観と客観は違うよ、麻琴」

「未来さん、見てたの?ねぇ?」

「その焦り、自白したも同然」

「焦ってない」

謙一。今日、わたしは生贄のようです。助けて。とメール打ちたい。

「ほら、あんたらもう、ここは合宿所じゃないから」

成美さんのとりなし方も…まぁ、うん。

「帰っていい?」

「ほら、麻琴ちゃんも落ち着いて。仕切りなおすから」

渋々、座りなおすわたし。

「未来ちゃん、望ちゃん、少し自嘲しなさい。停止スイッチ押すよ?」

「「はい」」

「テイシ、スイッチ?」

「生物部のスラング。胸のこと」

と望さん。

「元々は成美さんの持ちネタだよ」

と未来さん。

「持ちネタちゃう!」

これはコージさんが後で謂れなき攻めにあう流れ。

そして仕切りなおせてない。



「とにかく、今日は麻琴ちゃんのバースデーを祝うので、好きなメニュー頼んでいいよ。ボクたちの奢りだから」

「ホント?」

そこで身を乗り出すのが麻琴ちゃんの可愛さよね。

「じゃあ、この特製チョモランマ炒飯と、名物スペアリブのマグマ焼きとラムネをジョッキで」

頼むメニューは可愛くないのがね、うん。

合宿中の傾向から、大きいものを頼んでシェアするという文化が欠落している娘なので(主に謙一くんが甘やかしているせい)、みな、好きに頼むことに。

注文のタブレットを順繰りに回してる…恐ろしいことにならなきゃいいけど。

「高いエンゲル、低い体重」

「望さん、聞こえてるよ」

「えー?うらやましいんだけど」

「ほら、望ちゃん、すぐ悪乗りしないの」

「はーい」

で、回ってきたタブレットを確認すると、麻琴ちゃんのオーダーが突出しているだけで、他のメンバーは普通だった。ま、そりゃそうだよね。

「はい、オーダー完了!っと」

タブレットを元の位置に戻しまして、改めて

「「「「ハッピーバースデー!麻琴!」」」」

「あ、ありがとうございます」

麻琴ちゃん、まだ警戒を解かないなぁ。姫ロールしてる小動物だなぁ。

「それでは、皆からプレゼントがあります」

未来ちゃんがドヤ顔で紙袋を麻琴ちゃんに差し出した。

「私たちで各々一つずつ、何かを買って、中に入れました。お互いに何を買ったか知りません」

「そこは相談して決めてほしい気が」

「Surpriseだよ、マコト」

「そ、そっか、うん」

困ってる麻琴ちゃん、可愛い。

「ほら、食事来る前に開けてみて、ね?」

と、促すボク。

「う、うん」



まず、わたしが取り出したのは細長い箱。ちょっと重い。

包みを開けると、ヘアアイロンだ。

「すごい!ありがとう!これは誰の?」

「ボクのだよ」

と成美さん。

「さっきの巻き髪作戦はコレの前振り?」

「うん。巻き髪続けてね」

「ありがとう、成美さん」

続けるとは言わない。

で、次は、手の平サイズの小さい箱。

開けてみると、ピンク色の可愛い革製の…小銭入れ、にしては余裕がないし…ん?

「あ、私のやつね。コンドーさん入れるやつよ。ケンチ任せじゃなく、自分でも」

そこまで言ったところで、成美さんに口を押さえられた。

「親に見せられないものを渡さないでほしい」

ホントに、この先輩は。

未来さんがリリーナに耳打ちで説明。リリーナはひたすら感心している。

で、次いこ。

手の平サイズだけど、厚みと重みのある箱。

開けてみると、木製の可愛らしいリングケース。

「可愛い!」

「ケンイチにリングもらったんだよね?それに入れておくといいかな?って。これからも貰う分も一緒に」

「ありがと、リリーナ。とっても素敵」

「私もそれくらい褒めてほしい」

軽く睨んで望さんは黙らせた。

さて、次いこ、もう。

袋いっぱいサイズの平たい箱。うん、A3くらい?

ふと、合宿の写真パネルの仕返しを、わたしに?と不安がよぎる。残るは未来さんの分だし。

不安いっぱいのまま開けてみる。

「え?」

別の意味で爆弾だ。

白いビスチェと紐パンとガーターベルトとストッキングのセット。重ね着用のビスチェじゃなく、下着としてのビスチェ。

「未来さん…」

「あはは、実はあたしも似たようなの持っててね、崇が褒めてくれたから、麻琴もケンチに、さ」

先輩二人から性的な誕生日プレゼントもらう気持ち…。

「いいなぁ。私も買って、並んで写真撮らない?」

「なんのために?」

「ん?写真集」

「R18!」

「麻琴、全部ちゃんと着けておけば、大事なとこは何も見えないから、R18じゃないよ?ランジェリーエルフやろうよ!」

わたしは、そのまま座敷に倒れ伏した。うん、お風呂入る前より疲れた。

「心行院って、エッチな娘しかいないのかな?とボクは恐怖しているよ」

「え?アタクシも、こうなるの?」

「リリーナ。あの二人がおかしいだけなんだよ。わたしたちは大丈夫なんだよ」

「「麻琴が大丈夫なら、こっちも大丈夫」」

駄目だ。言い返す気力も、ない。

と、そこへ注文したものが運ばれてきたので、わたしは慌てて、箱のふたを閉じた。

家族には、皆からリングケースとヘアアイロンを貰ったと言っておこう。

後は封印…の前に謙一にはね、うん。



麻琴が、ぐれたチワワのような目で私と未来を見ながら、フードファイトを開始している。

結局は両方使うって事はバレバレなのに、麻琴は可愛いったらもう。



麻琴が、無謀な戦いを挑もうとするウサギのような目であたしと望を見ながら、目の前の山を切り崩している。もう少し麻琴も明け透けになれば、ツップリ仕事も減る気がするんだけど、可愛いから仕方ない。



マコトがカラスに挑むスズメみたいなオーラを発しつつ、すごいスピードでご飯を食べながら、ミキとノゾミを見てる。この半月ぐらいであたくしはわかった。マコトはすごく可愛い、みんなのマスコットだって。



麻琴ちゃん、そんな追い詰められたシマリスみたいなお顔で、ほお袋パンパンにしつつセクハラ先輩を睨んでも効き目ないよ。

もっと強くおなり。謙一くんじゃ彼女たちには敵わないんだから。



なんだか、みんながわたしを見る目が小動物を見ているような目になってる気がする。

いいもん。謙一に電話して慰めてもらうもん。

ふと、誕生日当日のことも思い出し、頬が緩む。

そして、みんながわたしを見る目が「やれやれ」という感じに。

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