俺とガキ
ーーみずたまりの中はどうなってるの?ーー
幼い頃、みずたまりを見る度、思った。
だが、現実のみずたまりはただ濁っていて、特別変わった事はない。
俺は、何でも知りたかった。
例えば、こんな質問をした事があった。
ーーどうしてライオンさんだけマフラーしているの?ずるいよ、かばさんとかキリンさんはしてないのにーー
マフラーとは、鬣のことだ。
今、俺がガキにそんな事を聞かれたら、そいつの頭をぶっ叩いて、
「そんな事も分からねえのか!馬鹿」
と、罵った事だろう。
だが、今は亡きおふくろは、俺が納得するまで、説明してくれた。
おふくろは、生物学者だった。
そして、親父は哲学者だったので、おかげで俺は生物学者と哲学者になれるほど,知識が豊富だ。
だが、俺は今、無職で、公園にいる。
講演じゃなくて、公園だ。
平日の昼の公園で、ベンチに座って項垂れている。
近くには、幼稚園児が先生と一緒に砂遊びをしていた。
あぁ、うるせえ・・・。
だから、子どもは嫌いなんだ。
うるさいし、すぐ泣くし、泣いたら泣きやまねぇし。
「おっちゃん」
幼い女の子が話しかけて来た。
俺は、項垂れたまま動かない。
面倒くせえから、話しかけてくんな。
「おっちゃんってばぁ!」
ガキは、俺の肩を持って、揺らしやがった。
ぁああぁあああ!!!うぜえぇええぇっ。
二日酔いなんだよ・・・! 揺らすなっ。
「おっちゃん!起きてよ、冒険しようよ」
この見慣れた街のどこに冒険する所があるんだよ。
「おっちゃん、おっちゃん」
あまりにもしつこいから、叱ってやろうと顔を上げる。
ボーイッシュなガキが、にこっと笑った。
笑顔なんて見たのは、何年ぶりだろうか・・・。
叱る気持ちも、しぼんでしまった。
「おっちゃん、おきた?冒険いこっ?」
「おっちゃんは、無気力なんだ・・・」
「ムキリョクってなに?」
ガキが首を傾げた。
「おっちゃんは行けないんだよ」
「なんで?」
「しんどいんだ」
「どうでもいいよ」
どうでもいいって、俺がよくねぇ!!
「取り敢えず、いかねぇんだ。分かったか」
「分かんない」
そういうので、俺はばしっとそいつの頭を叩いてやった。
すると、そいつは「うぎゃああああああ」と鼓膜が破れてしまいそうなほど泣き叫んだ。
目からは、大粒の雫が流れ落ちる。
ぁあ!!もうっ。
『どうかしましたか?!」
先生が、慌ててやって来た。
「いや・・・ちょっと」
先生は、しゃがみこんでガキの顔を覗き込んだ。「おっ・・・ちゃんが・・・冒険いかない・・・ってゆった・・・」
ガキは、しゃっくりをしながらしゃべった。
「あのね、だれもが暇だったりげんきだったりって事はないのよ?」
先生がガキの頭をなでながら、言い聞かせた。「ほら、先生と行こう」先生がガキの手をひっぱった。
「いや、いや、いやぁ」
ガキが泣きながら、先生の手を振り払う。
さすがの先生も、困った顔をした。
「おっちゃんとみずたまりの世界にいくの!」
みずたまり・・・?
「なにいってんの?ほら、帰ろう?」
普通の大人は、こんな子供の戯れ言信じないのだろうが・・・オレは子供の頃、思ったことを思い出した。
「それ、なんだ・・・?」「あのね、あのね」
ガキは袖で、涙を拭いながら説明をしはじめた。
「みずたまりのなかには、世界があるの!おじいちゃんが言ってた」
「エマちゃん!」
先生が、話すのを止めた。「すみません」
先生が、頭を下げる。
「いえ・・・」
正直もっと詳しく聞きたかったのだが・・・。
俺は、またねころんで、 目は閉じた。
きがつくと、ガキたちの声は、いつしか消えていた。不意に顔を上げる。
目の前には、夕日に染まったブランコがむなしく揺れている。いつのまに寝てしまったのか・・・。
俺は立ち上がって、大きく、のびをした。
帰ろう。
俺は、公園を出て家路についた。
おんぼろアパートを見上げる。いまにも、くずれそうなアパートだ。
これが、俺のすみかである。
階段を上って部屋に入る。
俺は、かえるなりビールを鷲掴みして、ねむるまで、飲んだ。
ども。草薙若葉です。 みずたまりの世界をよんでくださってありがとうございます。
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