特別試験1日目~仲間とは何か~
「それじゃあブライアン卿、ここら辺が今日の野宿場所になるだろうからこの近くで薪や食べ物を探したいんだけど鑑定は使える?」
キノコなんかは毒があったりするから危険なんだよね…でも魔物を狩りに行くわけにはいかないし…
「残念ながら使えません。ハルシャ卿は使えるのですか?」
「うん、一応ね。」
と僕が言うとブライアン卿は少し困った顔をした。
「…反応的に知らないのだと思いますが鑑定は裕福な家庭で育った者が得ることのできるスキルです。しかし、この国では侯爵家ぐらい裕福でなければ貴族であろうとそのスキルを得ることはできないんです。そのため鑑定スキルの有無を人に聞くのは避けた方がよろしいかと思います。私は気にしないのですが他の方はどうか分かりませんので。」
ああ、なるほど…
「そうなんだ…教えてくれてありがとう。後出しになってしまうけどさっきの発言は失礼だった。申し訳ない。」
全面的に僕が悪いのですぐに謝る
「いっ、いえ、謝らなくても結構ですよ?知らなかったのですし仕方ありませんよ。」
「いや、そんなことはないよ。よく、知らないことは罪ではないとは言うが、僕は無知であることこそ最悪な罪であると思っている。」
ソクラテスの名言である『無知の知』。これは自分が何も知らないのだということを知るという意味だ。しかし、それはとても難しい。前世の僕は自分は何でも知っていると思って生きてきた。
死ぬ直前ですら無知で愚かなのは世間一般の人間でその中に自分がいるということを考えもしなかった。
そんな昔の自分が嫌いで仕方なかった。
いろいろなことをもっと知っていればあんな選択はしなかっただろうな…
そう思ってもどうしようもないことであるし過去は変えれないのだ。
そして僕が何かを言おうとしたその時妙な気配を感じた。
「そのような考え方をする人を初めて見ました。よければ「しっ!魔物がいる」っ」
“索敵”によれば敵は恐らくホーンラビット3体。いつもならば余裕だがブライアン卿は戦闘の類いが一切できない。イリアスの方が100倍ましってぐらいには運動音痴だ。
庇いながらできるか?アイツらはすばしっこいからな…まあ…行けるか
「ブライアン卿、そこから10歩下がって欲しい。」
僕がそう言うとブライアン卿は素直に10歩下がってくれた。
「安心して、ただのホーンラビットだから。ただ、絶対そこから動かないでね」
そう言って草むらに向かってナイフを投げる。食事中だったのだろう、あまり動いていなかったので簡単に首に刺さった。
横たわったウサギの側にいた2匹が僕らに気付き威嚇する、と思いきや突進してきた。
角を剣で受け止める。そして剣を持っていない左手でナイフを握り首を切る。
その間にもう一匹のウサギは逃げたようだ。命の危機に陥った者の逃げ足の速さは想像を超える。もう姿が見えない。
「もういいよ。…やっぱり誰かが一緒に残ることにして正解だった。」
「そうですね。私1人では今頃死んでいました。ありがとうございます。」
「全然問題ないよ。同じグループだから助け合うのは当たり前だ。それじゃあ昼食のメインメニューが決まったことだしこれを解体しようか。やったことはある?」
「ええ、何度か。一応これでもハルシャ卿より二歳年上なんですよ?サバイバルをする特別試験はこれまで何度か経験済みです。」
「それは心強い。それじゃあそのウサギは頼んだよ。僕はこっちをするから。」
そう言ってお互い解体作業をする。
「…うん?これは……ハルシャ卿、これを見てもらえます?」
そう言われたので振り替えるとブライアン卿が何かを持っていた。近付いて見てみると星の絵柄が書いてあるコインだった。
「それ、例のコインだよね?」
「ええ。まさかこんなところにあるとは…」
ウサギの腹の中にはさすがに見つけづらくないか?いや、ウサギが勝手に食べた説が濃厚か…
「ブライアン卿は召喚術以外に得意な術はある?」
「そうですね、草魔法は人よりも上手くできますがあれは戦闘向きではありませんからね…」
ブライアン卿はそう苦笑いする。
「殿下ってどんな人?」
独り言のように呟やかれたその言葉は二人の間を通り抜けた。
言うつもりはなかった。言い訳のように思えるかもしれないが気がつけば声に出していたのだ。
ブライアン卿の顔をそっと見ると眼を丸くしていた。
「ノエル、ですか…。そういえばそのようなことはあまり考えたことがありませんでしたね。彼は、何というか一言で言うととても面白い人、ですかね。私たちをただの駒でなく1人の人として見てくれる。自身でさえ短所だと思う所すらも好きだと言ってくれる。たかが2年の付き合いですが何度も彼に助けられました。…無理にとは言いませんがハルシャ卿も少し歩み寄ってはいかがですか?きっと彼は貴方に違う景色を見せてくれるでしょう。」
「どうしてそんな確信のないことを自信に満ち溢れたような顔で言えるの?」
「それは彼が私の友人であり仲間であり、忠誠を誓った主君でありますから。」
そう言ってにこりと微笑むブライアン卿の瞳はこれまで見たこともないほど透き通っていた。
なぜだか分からないが彼らの関係をほんの少しだけ羨ましいと思ってしまった。




