うらのウラの裏
連れていかれたのは真新しい倉庫のような所だった。
こんなところで何をしようというのだろうか?
「それで?何で僕だけ呼ばれたの?」
そう少し、いやだいぶ警戒しながら聞く。
「盗賊の頭かなんかを集めていたようだかそこら辺に出してくれないか?私が責任をもってギルドに渡し報酬を君達に与えると約束しよう。」
僕らの行動はお祖父様には筒抜けだと考えた方がいいようだな…
「…やっぱり見てたんだね。それじゃあコウが見たっていう怪しい人もお祖父様の暗殺部隊かなんかなの?」
“影”なんていう存在がいたのだからその他にも非合法の組織がいても不思議じゃない。
「そうだ。残念ながらコウくんの状態がかなり酷かったから彼に暴力をふるった男を捕まえることは叶わなかったがな。」
たしかにあの怪我なら仲間に発見させることの方が重要だろう。
「そこに置けばいいの?高そうな床だけど…」
屋敷の床の方が高価だろうがこの倉庫の床も高そうに見える。
間違っても人間の死体を置いていい場所ではないだろう。
「問題ない。ここはそういうものを置く専用の倉庫だからな。カイをここへ呼ぶために残虐な感じは見せないよう入念に掃除をさせただけだ。」
それ言ったら意味なくない?てゆうか頭置く専用の倉庫って……いや、考えるのはやめよう。豊かな国にも裏があるのは当たり前だ。
「でもまあ、僕だけを呼んで正解だったよ。あの二人をよんでしまうときっと思い出したくないことを思い出すだろうから」
そう言いながらドサドサとイロイロ置いていく。回収したのは例の放火の時にできた死体と棟梁らしき人の首だけだ。
他のものは燃やして乱雑に埋めておいた。
ちなみにエレンとユウリの父親の死体は近くにあった花畑に丁寧に埋葬した。
これで2人の心が少し整理されるといいのだが…
「…さすが私の孫だ。なるほどそういう戦いをしたのか…」
そう言ってお祖父様は死体を凝視して色々な角度から眺めはじめた。
傷口だけを見て戦い方を想定できるってどんなのだよ…
「それじゃあ僕は彼らの元へ戻るから。」
そう言って戻ろうとすると後ろからお祖父様の引き留める声が聞こえた。
「まあ待て。そう急ぐな。…カイは、自分の心が深く傷ついているのに気づいているか?」
どうして僕にそんなことをきくのだろうか?聞いたところで何も変わらないだろうに…
そう思ったが無視するのは良心が痛むので少し立ち止まって応じる。
「……そんなこと、、僕が誰よりもわかってるよ、お祖父様。でも、いつまでたっても治らないんだ。」
あなたに、、これが治せるのか?治せないならもう放っておいてほしい、、そう思ったが口にすることははばかられた。
「それは焦りすぎだからだ。カイはもう少し大人を頼りなさい。心の傷を治すことは体の傷を治すことよりも何倍もの時間がかかる。」
そんなことを頼むから言わないでほしい。僕の心についた傷を抉るのはいつだって大人だ。何も知らないくせに無責任なことを言うのもいつだってあなたがた大人なんだ!!
あなたには恨みに満ちた眼を向けたくない。
そう思ってそっぽを向き黙っているとお祖父様から少し悲しそうなオーラを感じた。
それからお祖父様は僕の肩に手をおいてこう言った。
「…少しチェスをしないか?」
チェス?
「…?別にいいけど…なんで?」
用意周到に机と椅子とチェス盤が置かれている。
「相手の心を探るにはこれが一番だと思わないか?」
たしかこの世界のチェスもルールは前世のものと一緒だったな…ここでは初めてやるが腕は衰えてはいないだろう。
「まあ、、確かにね。でもいいの?僕、強いよ」
意味はないが少し牽制しておこう。勝負を降りてくれるかもしれない。
「心配には及ばない。私も元騎士団長というだけあってこの手の戦略ゲームは得意なんだ。」
自信満々に告げるお祖父様が嘘をついているようには見えない。
「じゃあ遠慮はいらないね。本気でいかして貰うよ。」
口ではそう言うが
こんなお遊びに本気を出すわけがないとだけは言っておこうか…なんせメリットがないんでね。
勝負も終盤になり僕は深く考えることなく駒を操った。それにしてもこの人確かに強い。レイの次くらいに強いんじゃないか?
元騎士団長というのは肩書きだけではなかったようだ。
脳筋にはできない芸当を何度もしている。
「あのタイミングで呼ばなくてもよかったと思うんだけど…」
そう言いながらキングを動かす。
「思い出したタイミングで呼ばないと忘れてしまうだろう?」
なんか、、怪しいな…
「忘れてしまう、ねぇ…。まあいいけど。僕もお祖父様の考え方を知りたかったから丁度いいしね。」
「そうか。……チェックメイトだ。」
そう言われ僕は思わず少しだけ口角を上げた。
思った通りにことが進んだことに少し安堵する。
「僕の負けだね。それじゃあ僕は本当にもう行くから。」
そう言って早歩きをして倉庫から踵を返した。
その後
「いい勝負でしたね。公爵様。」
そう言って執事がコーヒーをいれる。
「なに言ってんだ?俺の負けだろ」
公爵はそう言って悔しそうにいれられたコーヒー
を喉に一気に流し込む。
「どうしてです?チェックメイトなさったじゃありませんか。」
「…そういえばお前はチェスを嗜んでいなかったな。アイツは全く本気をだしてない。まあ、素人にはわからんだろうからお前が気づけなくても仕方ないが。アイツが駒を出す速さは1秒程。その時に無意識だったんだろうが一瞬全く別の駒に視線がいくんだよ。まあそのお陰でアイツの考え方がわかったがな。」
「考え方、ですか」
「ああ。アイツは囮戦が得意のようだ。強い駒を囮にして戦おうとしていた。それにどの手でもわざわざ俺がキングを倒した後の次の一手で俺のキングを倒すことが出来るように仕組んでやがった。これが何を表すかわかるか?」
「死んでからが勝負ということですか。」
「そうだ。"死"に何の恐れも抱いていないからこそなんだろうな。"死"の後のことを常に考えて行動している。まだ12歳だというのに末恐ろしいヤツだ。」
「…公爵様は最初からカイ様が本気を出さないと思っておられましたか?」
「ああ、もちろん。信頼していない相手に力量を悟らせることほど愚かなことはないからな。だが、いつか信頼してくれる日が来る。そこまで気長に待つさ。」
そう言って公爵はキングを持ちルークを守るように盤上に置いた。
「…もしかして見られたのですか?」
執事はそう遠慮がちに聞く。
「ああ。我が家の家系能力"未来予知"をここまで称賛しようと思ったのははじめてだ。あまり使い物にならなかったからな。」
そう言って公爵は不敵に笑ったのだった。




