自分の心に嘘はつけない
それから1年ほどたった。俺は丘の上でカイに文字や計算を教えてもらっていた。
もちろん教えられてばっかりではない。俺はカイに魚の捕まえ方とか罠の作り方とか、生きるために習得せざるをえなかった技術を教えた。
「ずっと思ってたんだけど、コウって商人にでもなりたいの?」
「え、違うけど、なんで?」
商人って俺に向いてない職業No.1やとおもうねんけど…
「この国では商人と富裕層以外で文字を学びたいって思ってる人のほとんどは商人志望だから。」
あぁなるほど、そういうことか…
「たしかにそうやけど、俺は冒険者になりたいねん。冒険者になったら身分証も発行できるし舐められへんやろ?文字を学べば赤い眼が悪魔の象徴やないって書かれてある本をいつか読めるやろ?」
…それに、腕っぷしさえ有れば稼げる職業やしな
「えっ…。コウも冒険者になりたいの?」
「「も」ってことはカイもか!」
「うん。くそったれな家から出ていくためにね。」
「そうなんか。でも、なんで冒険者なんや?お前は賢いから商人でもやっていけると思うけど。」
てゆうか、剣の使い方教えたのに一向に上達しない人間が冒険者って…。これは止めた方がいいのでは?
いや、まあ、本人が楽しそうならそれでええか…
「嫌だよ、商人なんか。ただたんに金稼ぐだけとかつまらないでしょ。僕はこの世界を見てまわりたいんだ。ま、それなら旅商人になればいい話なんだけどね。」
「なるほどな、自分は頭いいから金稼ぐんは楽勝でおもろないと。」
「よくわかったね…。わからないように言ったつもりなんだけど。」
1年の付き合いやからって何も分からへんわけやないで。
「ゆうて長い付き合いやからな。カイの考えてることはちょっとくらいならわかるで。」
「さすがだね。じゃ今日はこれでおしまい。」
「おお!ありがとうな。そんじゃまたな!」
俺がそう告げるとカイは少し難しそうな顔をした。
「ああ、今日は嫌な予感がするから君も気をつけてね。」
嫌な予感?当たりそうで怖いねんけど…最近感じる視線が関係してるんかな?
「ああ」
聞いても答えてくれそうになかったので
そう言って俺は町に戻った。
それは、いつもの場所に戻る途中の屋台街を通っていた時だった。
急に背後から殴られたのだ。そこには数人の男達がいて自分のことを睨んでいた。
そして突然やってもいない罪を被せられ殴られた。
当然周りには人だかりができる。ふとその人だかりを見ると見知った顔がこちらを見ていることに気づいた。
「やっと見つけたぞ!こんのクソガキが!何度盗めばいいんだ!」
いや、だからホンマなんなん??やってへん言うてるやろ!!
「だからオレちゃうって!アイツらがやったっていってるやろ!」
アイツらとはもちろんスリや万引きの常習犯だ。
「この街で眼が赤いのはお前だけだろうが!」
もしかしたら俺以外にもおるかもしらんやろ、決めつけんなや、このクソジ「どうしたの?串焼きのおじさん。何かあった?」
なんで、、?
アカン、今助けを求めたら巻き込んでしまう。
「うん?おお、坊主。こいつがウチの商品を盗んでな。」
「ふーん。いつ盗まれたの?」
「いっつも夕方の忙しいときだな。」
夕方は俺とカイが別れる時間帯。俺じゃないという証拠は何一つないちゅうことか…
「顔も見たの?」
「いや?顔は布で隠れていたから見えたのは赤い瞳と黒い髪ぐらいだ」
するとカイは数秒考えるそぶりをしたあと周囲をぐるりと見渡してこう言った。
「ふーん。でもその人犯人じゃないよ。」
「どういうことだ?」
「ちょっと待ってて。」
そしてカイはいかにも不良ですと言わんばかりの人達に近づいた
「やあ。久しぶりだね、犯人さん。」
すると青年達の顔がみるみるまに赤くなっていった。
「はぁ!俺たちは何があったのか確認するためにここに来ただけで関係ねぇよ。なぁ、お前ら」
「そうだ、そうだ!罪を押し付けんじゃねぇ!」
人に罪を押し付けといてよく言うわ。俺、お前がこの前犯行を手下に押し付けとったん知ってんねんで?カイが不利になった時に言ったろ…
「自分のことを棚にあげてよくそんな事言えるね?」
「じゃあ赤い眼はどう説明すんだよ!」
それは俺も聞きたいわ
「自首する気がなさそうだから説明してあげるよ。まず君たちはホォード商店の倉庫にこっそり入った。そして眼の色を変える薬品を盗んだ。あれは、染料を入れればどんな色にも変えれるからね。」
カイは自信ありげにそう告げた。
「なんでガキがそんなこと知ってんだよ!」
それはごもっともな質問やな
「実は僕の父親はホォード商店の最高責任者でね、最近大事な商品を盗まれたって怒っていてね。詳しく聞くと、それは貴族達に売りさばく魔法薬で眼の色を変える効果があるらしい。」
嘘、、やな。家族とは仲悪いって言っとったし。カイお得意の揺さぶりってやつか?
「でも、俺たちがやったって証拠はどこにあんだよ!」
「その服だよ。端っこの方少し赤いよね?それはこの辺に咲いているタールの花から取った染料だよね。タールの花は贈り物に向かないから、その辺に咲いてるのを取る時は染料として使うときだけなんだ。それにタールの染料は水にあてると少し光るんだ。こんなふうにね。」
そしてカイは懐にあった竹筒の中の水をかけた。
大胆なことするなぁ、ホンマ。
「なにしやがる!くっそ!こ、これはたまたまタールの花がくっついて取ろうとした時についちまったものだ!」
「見苦しいね。おおかた、昔コウが僕に対してのカツアゲを咎めたのを根に持ったんだろうけど。わざわざ僕達を尾行してコウのアリバイがない時を狙ってこんなことをするなんて、ほんと卑怯くさい。言い逃れしても無駄だよ。使用人が盗人の顔を見たらしいんだ。衛兵さん後はよろしくね。」
あれから1年以上たったっていうのにまだ根に持っとったんかいな…
「ああ、坊主ありがとな。おいお前らおとなしくしろ!」
「ふん、悪かったな兄ちゃん。迷惑料としてこれ持っててくんねぇか?」
建前、か
「まあ、悪いのはアイツらやから気にせんとって。貰えるもんは貰っとくけど。あ、カイもありがとうな。」
「いいよ。僕達友達でしょ(照)」
そう言ったカイの口元は初めて弧をつくった。
「ふっ、そうやな!!俺たちは友達や!」
「じゃあまた明日。」
「おう!気をつけて帰りや!」
「なあ、兄さん。俺、復讐よりもやりたいこと見つけてしもたわ。
カイといろんな所に行ってみたい。でも、アイツらを許したわけやない。復讐もせなアカンと思うねん。でも、俺のことにカイを巻き込むわけにはいかん。そうしたらさ、俺はどうしたらいいん?」
微かに、ほんの微かにだが
コウがしたいことをしたらいい
そう聞こえた気がした。
そっと空を見ると雲1つない星の降り注ぐ夜空が見えた。




