逆境に逆らう2つの花
目が覚めたら川岸にいた。近くの街まで行くと、ここがハールーン帝国の最西の街であることがわかった。ここでは赤眼に対して否定的な眼も多いが、自分の村よりも全然マシだった。集団リンチなんてほとんどないし嫌みを言われて勝手に蔑まれるだけだから。
ステータスを見ることができるようになる12歳までの辛抱だと思って耐えてきた。
暴力から逃げ回って戦って、残飯を食べて路地裏で寝る。そんな生活を毎日繰り返した。
だが、ある日そんな俺の生活が一変した。
「おい、お前!キレイな身なりをしてんなぁ!死にたくなかったら有り金全部置いていきな!」
いつも俺にちょっかい出すアホどもの声がしたので振り向くとそこにはソイツらの目の前には俺と同じくらいの年をした小綺麗な格好の少年がいた。
俺と同じ黒髪でエメラルドをはめ込んだような綺麗な眼をしていた。俺はなぜだかその眼に強く惹き付けられた。…それは昔の俺と同じ眼をしていたからだろう。
「やだよ。なんで君らに渡さないといけないんだ?」
強気なんはエエけど、そんなこと言ったら逆上すんで…
「ちっ、こうなりゃ力ずくて奪うまで!いけ、お前ら」
ほら、言わんこっちゃない…
そう思った次の瞬間には自分の体は意思と関係なく少年の元に行こうとしていた。
「おい、お前らなにやっとんねん!」
あ、思わず出てきてしまった…
「おい、あいつってたしか」
「悪魔だ!逃げろ!!」
孤児達は我先にと逃げていった。
アイツら、ちょっかい出す割には弱いよな…
「君、大丈夫か?アイツらは最近良くない噂聞くから、次見たら逃げるんやで。」
そう言いながら少し眼を反らす。長居は無用だ。この少年もどうせ赤眼をよく思っていないのだから。
「大丈夫だよ。それにもう少ししたら衛兵の巡回時間になるし。それより眼、キレイだね。」
キレイ?そんなわけない
「お世辞はええで。この眼、悪魔のようやって言われて村も追い出されたんや。」
そう少し嘘をまぜながら言うと少年は興味なさげに言葉を続けた。
「へー、そうなんだ。その人達悪魔を見たことあるの?」
その返しは予想してへんかったな…
「さすがに無いやろ。悪魔は神話におる生き物やし。」
「その村の人、頭おかしいんじゃないの?存在してるかも怪しい悪魔なんてものを信じて、かってに恐れて子供を追い出すなんて。」
そう言って自分もそんな目に合ったことがあるかのように顔を歪ませたと思ったらハッとしたような顔をした。
「それに君のそれは悪魔のものじゃない。それだけは確かだよ。こんなキレイな赤色、僕は初めて見たからね。じゃあ、僕は行くね。さっきは助けてくれてありがとう。」
本当に兄さんみたいなことを言うな、この少年は…
「あ、ああ。気をつけてな…。キレイ、か。ありがとうな。」
久々に「眼が綺麗だ」と言われたけどそんなに悪いものやないな…
あの少年、裕福な家の子供やと思うけど俺と同じやったな。
両親からの愛を受けず、周りの人間にも罵倒されて暴力を振るわれる。そんな人生を送ってたんやろう。人生に絶望し誰も信用できず何にもすがれないためにできる、どうなっても構わないという自暴自棄の瞳。
それでも彼の眼の奥には生きることを諦めない小さいながらも強い光があった。なんでかは分からへんけど…
俺はその瞳に強く惹かれたんやろな。俺はどこか生きることを諦めてた気がする。復讐してそれで終わり、復讐が終われば自分には生きる価値すらもないと…
彼なら俺を変えてくれるかもしれへんな…




