出発
「アルクィンはいい街だったね」
食事も美味しかったし皆優しかったし...
「だよな。気さくな人が多いし、みんな見た目に囚われずに接してくれる最高な街だったよ。」
「そうやな。滞在期間は短かったけど楽しかったわ」
あんなことが起こらなかったらもっと滞在していただろう。
「うん。街の人も優しかったし領主様もいい人そうだったからまた来たいな。」
僕がそう言うとコウがキョトンとして首をかしげた。
「領主様?えっ、いつ会ったん?ヴォルガさんが俺らを屋敷に匿ってくれた時に一回も姿を見せてないと思うねんけど」
「…え?みんなも一緒に会ったし話もしたじゃないか」
「…え?どゆこと?イリアス、なんか知ってる?」
「……。知ってるけど言っていいのかわからないな。」
そう告げるイリアスは少し戸惑っているように見えた。そらそうか…
「ええ~、俺仲間はずれやん!教えてや!」
「そんなに知りたいの?」
「そら気になるやん。」
「まあ…口止めされてないしいいか…。…神父様だよ。」
「…まじで?」
「うん。ヴォルガさんと顔結構似てると思うんだけど…」
「いつから気づいていたんだ?」
「イリアスを追い払った後に赤眼殺人事件の容疑者が持ってたものを見せてくれたんだ。ヴォルガさんに頼まれたって言ってたけど、さすがにそれは無理があるなぁと思ってそこからずっと観察してたんだ。顔立ちが結構似てるし髪も服装もみな綺麗で食べる時の所作も貴族のそれだったから6割ぐらい領主だろうなと思ったんだ。でも確信したのは今だよ。イリアスなら知ってるかもしれないと思って鎌かけたんだ。」
そう言ってニッと笑って見せる。
「マジかよ、やられたな…。でも、どうして僕が知ってると思ったんだ?」
「イリアスはあまり人を信じないタイプでしょ?特に大人は。僕だってそうだ。…あまり人を信用しない人は相手が自分の手札を見せない限りは信用しないという傾向がある。イリアスは神父様をかなり信用していたから神父様が自分の正体を明かしたんじゃないかと思っただけだよ。これは僕の勘みたいなものだから外れているかもしれないけど」
「いや、当たってる。でも、何でそこまでして俺に信用してほしかったのか今でもよくわからないんだがな。」
「そうだね、こっから本当に僕の推測のみになるんだけど、神父様、いや領主様は本当にアルクィンとその街に住んでいる人が好きなんじゃないかな。イリアスはアルクィンに来たその瞬間から領主様の守護対象となったんだ。『来るもの拒まず去るもの追わず』っていうのがこの街の方針みたいだし。できるだけ悪の手から君を遠ざけたかったんじゃないかな?」
「カイがそういうのならそうなのかもしれないな」
領主邸のある一室
「お久しぶりですね。アルクィン領主のフィール・レイモンです。」
と男が水晶に向かって話しかけた。
「おお、久しいな、フィール。何かあったのか?」
と水晶から声がした。
「あなたの孫を見つけましたよ。あなたに似ておらずとても聡明な少年でしたよ。私の正体にも気づいていましたし将来有望かと。」
「本当か?!てか、お前失礼だろ!…それで、カイはどこにいるんだ?」
「今ちょうどルーヴルに向かっています。おそらくあなたの治めるライズも通ることでしょう」
「そうか、それならちょうどいい。こっちはいつでも迎える準備はできている。ハールーン帝国にいた時は迂闊に手を出せなかったが、シェナード王国にいるのであればなんとかなる。それで、何が望みなんだ?」
「望み、とは?」
「お前が素直に情報を教えてくれた試しがないんでな。なにか頼みたいことがあったんだろう?」
「ええ、まあ。あなたのお孫さんと共に赤眼の少年が2人そちらに向かいますので少々気にかけてやってほしいんです。最近物騒なことが多いので。」
「まったく、お前は本当にお人好しだな。…いいだろう、領地内とは言わず道中でも全力をかけてその少年達を守ってやろうじゃないか。」
「ありがとうございます。」
「1つ聞いていいか?」
「構いませんよ。答えるかどうかは別ですが」
「お前、いつまで神父の真似事をしてるんだ?」
「いつまでもと言いたいところですが、そろそろ息子に爵位を継承させて真似事ではなく本当の神父になろうかと思っています。」
「何でそこまで神父にこだわるんだ?」
「街の住民に一番関われるのは神父ですし、信用の無い者に子供達を託せられないので。」
「お前が昔から変わっていないようで良かったよ。それじゃあ何かあったらこちらからも連絡する。」
そして水晶から音が聞こえなくなった
「彼らの旅路に幸あらんことを」
そう告げて男は部屋を出た




