複雑な心
「まず、最初に自己紹介をしないか?俺の名前はアデル・ラシード。得意なことは剣術だ。よろしく。」
そう言ってラシード卿は僕の方をちらりと見た。
…あぁ…自己紹介しろってことね…これだから陽キャは…
「僕の名前はカイ・ハルシャ。得意なことは…剣と魔法。よろしく。」
それだけ言って隣にいたアイリスにバトンを渡す。
「私の名前はアイリス・フローレスです。得意なことは氷魔法で接近戦は苦手です。よろしくお願いします。」
それから残りの12名が順に自己紹介をしていった。
「これで一通り回ったな。…にしても戦闘できる人間が10人って…不安だな。」
自己紹介で分かったことは、剣4人(僕含め)、魔法3人、弓2人、拳1人、錬金術5人、という内訳であることだ。錬金術が多いのは、今回のメンバーの中にギリギリ卒業する錬金術オタクが多いからである。彼ら彼女らは一緒に卒論を書いていたらしく、その人数が5人だったというわけだ。
「錬金術をバカにしないでくれます?回復ポーションだって作れますし、煙玉や毒消し、へんてこな薬だって私達にかかれば余裕のよっちゃんなのですよ!」
へんてこな薬?なんだそれ…
「わっ、悪かった。悪かったからちょっと落ち着けって。俺が言いたかったのはそういうことでなくて、戦える人が少なかったら最悪三日間の間、一睡もできないなと思っただけなんだ。」
「それなら、このエナジーポーションはどうでしょう?飲んだら最後、三日は眠くなりません!…まあ四日目が地獄だけど。」
「いや、今さらっとやばいこと言わなかったか?絶対飲みたくないんだが?」
左に深く同意だ。
「アデル、俺はこんな無駄な会話をするためにここにいるんじゃないからな。さっさと進めてくれ。」
…顔を見ただけで分かる。あれは三日寝ていない人だ。目の下の隈もそうだけど、顔色全体がだいぶ酷いことになっている。
「分かった。そう怒るなよ、リーリス。じゃあ皆、この紙に聞いておかないいけないリストを書いたからなるべく細かく書いていってほしい。たとえば、得意なことは?という問いが最初にあるけど『どこでも三秒で寝れる』とかそんなどうでもいいことでも構わないからたくさん書いてくれると助かる。」
そう言って紙を手渡される。
誰かに自分の強みや弱みを知られることは危険だ。僕は昔からそう思っていた。
弱さは隠し、強さを全面に出す。いつもそうやって生きてきた。
でも、、それじゃあダメなんだ。
本当に大事なのは、弱さを見せても支えてくれる仲間を見つけること。そして、その仲間の弱さを受け止められる自分であることだ。
…とは思ってはいるけど、さすがに項目多すぎないか?何個あるんだ?アンケートで100問以上あるって一時間で終わらなさそう…
そう思いながら手を動かしたのだった。
♢
二時間後
「やっと終わったね。にしてもあれだけの数の問いに誰一人として文句言わなかったのはなんでだろ…」
「あれ、ハルシャ卿は知らないんですか?ラシード卿は戦略家として有名なんです。なんでも、ルシアン様のところで戦略を学んだとか。」
たしかにラシード卿はあの人と同じ寮だ。
でも、あの兄さんが、、ねぇ…何かの間違いだと思いたくなるな。
「今回ハルシャ卿はどう動く予定ですか?」
「そうだね、今回はラシード卿に従ってみるよ。この卒業試験は戦争やスタンピードにおもむく貴族を鍛えるためにしているんだろうし、もし仮にそういったことが起こったら、間違いなく僕らは前線に放り込まれるはずだよ。戦力になるから。誰かに従うことに慣れておかないと。」
半神なら死なないだろうという想いもあるのだろうけど。
「誰かに従うことになれるって、聞きなれない言葉ですね。」
「そう?アイリス、僕はね。誰かに命令されるの、大嫌いなんだ。本当に嫌いなんだよ。だからそれが嫌でなくなるように慣れておかないと…」
「…それ、慣れる必要はないと思いますよ。カイくんが誰かに命令されるのが嫌いな理由は、慣れることで無くなるような単純なものではないでしょう?」
…どうしてアイリスは時々僕の心を見透かしたようなことを言うんだろうか?
「…たしかにこの問題は大分複雑だよ。でも、それを理由にして逃げるのは違うんじゃないかな?」
「逃げるのも悪くないと思いますよ。いつか絶対向き合わなければいけない時が出てくるんです。その時考えて向き合えばいい。まだその時じゃないと私は思いますよ。」
「その時っていつのこと?」
「いつかカイ君が誰かに仕えたいと本気で思ったときですよ。」
そう言ってアイリスは意味ありげに笑った。
僕がアイリスの言葉の本当の意味を知るのはもう少し先であった。




