本当の黒幕
あれは…コウが危ない!
担いでいた男をおもいきりぶん投げ、コウの背後に忍び寄っていた盗賊にぶつける。
「グァ!!」
「危ない、あぶない。ちょっと疲れてきてんじゃない?コウ。」
「そんなことないで。それより、遅かったな!」
背中を合わせながら残りの人数を確認する。…あと2、3人か…
「ちょっとてこずってるね。僕が来たんだから、コウはもう休憩してもいいんだよ。」
そう言ってニヤニヤと笑う。
「まさか。こんなおもろいとこで終われるわけないやんっ!」
後ろから気配が消える。それじゃこっちも!
「遅い!遅すぎる!それで盗賊名乗ってんの?いろいろと哀れだね。」
「クソガキが!!光を奪え、堕光」
一瞬のうちに視界が暗くなり光を一切通さなくなった。…ああ…これは予想外だ…だが、対応できないわけじゃない。感じ取れ、視覚以外の感覚から。気配をよめ、そして確実にその首を切る。
生暖かいものが僕に降りかかる。これは当たったな。
術者が死んだことで魔法が解かれ視界が元に戻る。
「…コウに一回喰らわされてなかったらやばかったかも…闇魔法なんて滅多に使われないからってあんまり対策してこなかったから...」
「おーい!カーイ!こっちは終わったで!」
少し離れたところからコウがブンブンと手を振ってくる。それに応えながらチラッとさっきぶん投げた男の方に目をやる。
「こっちも終わったよ。それじゃあ本来の目的を果たそうか。」
「尋問するん?それやったら俺が…」
コウがなぜだか『絶対にやめてくれ』とでもいいそうな顔で僕を見てくる。いや、ほんとなぜ??
「いや、尋問するのは僕の仕事じゃない。…出てきて。」
僕がそう言うと影が2人どこからともなく降りてきた。
「この盗賊の棟梁らしきおじさん、ハルシャ家の方に連れて行ってくれる?なにやら恨みごとがあるらしいから。…それに、胸に刻まれた奴隷紋、誰にやられたかも…あーいや、兄さんに任せればいいや。あとはあの人に指示をもらって。」
兄さんならこういった場合の適切な処理の仕方を知っているだろう。
「「御意」」
「ちなみに、コイツらの拠点がどこにあるか知ってる?」
「…はい。ここから少し先に行ったところにございます。」
影ぐらい強くなったら分かるんだろうか、そんなこと。それとも事前に知っていた?
「分かった、ありがとう。それじゃあもう行っていいよ。」
次に瞬きした時には彼らの姿を確認することは叶わなかった。
♢
その夜
「それでカイ達は無事に少女を助けることに成功したんだな?少しは戦えるようになったということか…」
そう言って目の前の扉を開く。その部屋にはカイを殺そうとしたらしい盗賊の棟梁が縛り付けられていた。
「おっ、俺はアンタの言った通りにした!だからこr…ぐぁあああああ!!!」
無表情で男の手を切り落とす。
「…虫がうるさいから黙らせろ。」
私のその一言で影が男の首を切る。体から切り離された首はテンッテンッと地面に転がり落ちる。
それを私は無表情で見下ろした。
「よろしかったので?」
「ああ。その男はもう用済みだ。カイには尋問中に舌を噛んで自殺したと伝えてくれ。」
「…怪しまれるかと。」
「それでいい。それぐらいがちょうどいい。あの家を本気で潰すには、これぐらいの犠牲はやむを得ない。私が直接手を下すわけにはいかないからな。」
カイだとちょうどいい目くらましになるだろう。そのためには適切なタイミングで誘導する必要がある。…はあ…面倒くさい…一日中ゴロゴロしていたい。
「ああそうだ、奴隷紋を体に残しままなのはまずいからちゃんと処理しておくように。」
そう言って私は血にまみれた部屋から出た。怠けていたいのは事実だが、私にも譲れないものがある。
それは…
「あっ、ルシアン様!」
「リリ、こんな夜遅くに何してるだ?」
「眠れなかったので散歩を。そういうルシアン様こそ何をなさっていたんです?」
「私か?私は…掃除をしていたんだ。」
…用済みという名のゴミをだけどな
「掃除、ですか?ルシアン様にも意外な一面があるんですね。よろしければ今から私の散歩にお付き合いいただけませんか?」
そう言ってリリは照れくさそうに微笑んだ。
「もちろん構わない。私から言おうとしていたとこだ。」
…ああ、この笑顔を守りたい、そう本気で思ったんだ。
だから、絶対に許せない。リリを侮辱したアイツだけは。たとえどんな手段を使っても地獄に叩き落としてやる。
そんな気持ちがバレないよう、私はいつもと同じように微笑んだ。
さあ、首を洗って待っていろ、ブルース・クロード。私を怒らせたことを後悔するがいい。あの世でな。




