迷い鳥
「てめぇらみたいなクソみたいな連中、姉さんは眼中にねぇんだよっ!!」
「おいおい、立場分かっていってんのか?泣いてもわめいてもここには誰も来ないんだ。1体4のこの状況でどうやって俺達に勝てるんだよ、ああ"?」
コイツら、あれだな…フローレス家の迷惑な親戚一族の息子達だな。
たしか、今年で上級クラスなはず、、てことはコイツらも同じ特別試験を受けるのか…めんどくさくなりそうだ
「はいはーい!ちゅーもーく!!」
そう言って視線を集める。この心底驚いた表情はとてもおもしろい。
『性格悪っ』
うるさいよ、そこの居候。
「お前はカイ・ハルシャ!!なんでここに?!」
「それはこっちのセリフだよ。新入生を4人で取り囲んで何してるの?」
「お前には関係ないだろ!とっとと消えろ!!」
「酷い言いぐさだなぁ。彼、僕の寮の子なんだよね。僕は自分の寮の人間が理不尽な理由で他寮の人間に傷つけられた時、一度だって報復しなかったことはない。そして、僕に報復された人たちがどんなめにあったか、まさか知らないとは言わせないよ。」
「…っ、、」
「怯むな!あんなものはただの噂に過ぎない!」
あんなものってどんなものだよ…
「まあ信じて貰えなくてもいいけど、ほらっ…かかってきなよ。全員まとめて襲ってきても構わないよ。」
「自分の実力を過信しすぎだな。1体4で勝てると思ってるのか?」
「あのさ、君たちバカなの?僕がいつ一人で来たなんて言った?…おっ、間に合ったね。」
そう言って視線を意味ありげにずらし、手を振る。
「まさかっ!」
そう言って4人全員が後ろを振り返った瞬間に近づいて首に手刀を落とす。
バタバタバタと倒れていく様子に少し笑う。
「一人で来たとも二人で来たとも、僕は言ってないんだけどね。ところで、大丈夫?フローレス卿。」
そう言って手を差しのべる。少し戸惑いながらもフローレス卿はその手を取ってくれた。
「大丈夫です…ありがとう、、ございます。」
ったく素直じゃないんだから...
「にしても上手かったね。風魔法のウィンドヴォーチェをその年で使えるなんて、才能あるよ。」
「でも、攻撃魔法が、、、使えないので…」
「あーそういうことか…」
稀にいるのだ、攻撃魔法が一切使えない人が。
「ハルシャ卿は特別試験で俺とペアですよね?すみません、俺、役にはたてません。」
ああそうか、この少年が自己紹介で誰を警戒していたのか、そしてなぜ僕には丁寧な対応をしているのかが分かった。
「…君はリース・ロティファーを警戒していたんだね。ロティファー家はフローレス家と親戚関係にあるから。リースは長男だから君のお姉さんと結ばれてもおかしくはないしね。」
まっ、一応の婚約者はいるけれど、後々破棄されて行き場の失ったアイリスを貰ってやろうと企んでいるヤツがいてもおかしくはない。
「…ええ、そうです。姉さんは寮の人達に心を許していましたから、俺が釘を刺さないとダメだと思って…」
「まあ分からなくもないけど、リースは心根の腐ったコイツらとは別だと思うよ。自分の良心に反することは死んでもやらない性格だしね。まあそれは自分で見極めてくれ。…それと、僕に対して猫を被ったような話し方をするのは、ハルシャ家がクローズ家の敵だから。違う?」
「…そうです。敵の敵は味方なので。」
「敬語、やめてもらえる?本来の君と話したい。それになんか気持ち悪いからヤダ。」
「…分かった。」
「そうそうそれそれ。ていうか本当にびっくりしたよ。フローレス嬢からは、口が悪くて誰に対しても突っかかる、そしてじっとしていられない少年だって聞いていたから...てっきり初手からタメ口で話されるかと...」
「さすがにそれはやらねえよ。俺は伯爵家の人間だが、アンタは公爵家。格が違う。貴族のマナーやルールについてはある程度知っているつもりだ。…この学院は一応身分関係ないって言ってるけど、そんなわけないしな…」
「まあね。あっ、そうそう、会ったら言おうと思っていたんだけど、君のお姉さんそろそろ飛び級試験に落ちる頃だと思うんだよね。だから…「そんなわけない。」…一応理由を聞こうか。」
「姉さんは今までの飛び級試験に全て余裕で受かっているんだ。」
「でも、この前の飛び級試験は満点じゃなかったね。」
「8割取れたら合格だろ?姉さんは9割あったんだから余裕で合格した内に入る。」
「ああ、そうだね。それに不正がなければ。」
「どういうことだ?」
「あったんだよ、不正が。僕もそのテストを受けたんだけど、全て教科書の内容からだった。それなのにいつも満点を取っていたフローレス嬢が90点を取るはずがない。そのテストの大問1の12問はどれも各6点。大問2は全問正解で13点。大問3の3問は各5点。アイリスが90点を取るには大問3を2つ間違える必要がある。…大問3はアイリスが一番得意としている植物学の問題だった。専門書さえも読みこみ記憶している彼女が間違えるわけがない。ケアレスミスの可能性も考えたが、やはり植物学の問題の2/3も間違えるとは思えない。」
「だが、なんのメリットがあって…」
「採点官の誰かがフローレス家の者だったり、彼らから賄賂を貰っていたら?もしそうだとしたら、動くのは次の飛び級試験の時になる。前回から試験の成績が落ちていると言われれば皆納得する。上級から特級クラスへの飛び級は難しいと思われているからね。」
「じゃあいったいどうすれば…」
「特別試験の賞罰に飛び級試験の再試験が入ってるからそれを狙えばいい。フローレス嬢ももちろん狙うだろうけど、邪魔されるのは目に見えているから僕らが動くべきだろうね。」
そう言って僕は、それ以上何も口にせずその場を立ち去ったのだった。




