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異世界で幸せに~運命?そんなものはありません~  作者: 存在証明
アルバード王立高等学院~隣国からの客人~

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記憶の一片

真っ暗な世界でライはふと思った。


はじまりはいつだって残酷だ。


終わりのない地獄に落とされ、それでもなおがむしゃらに生き抜いてきた者に与えられる救済は『死』のみ。そう思っていた。あの時までは…


一日に23時間も暗闇にいると昔のことを嫌というほど思いだす。楽しかった記憶も、苦しかった記憶も。


俺の家は普通の家と違って、虐待やネグレクトなどが頻繁に起こっていた。もとから望まれて生まれてきたわけではなかったらしい。


裕福な家庭ではあったが俺の服や持ち物はいつもボロボロだった。だから虐められるのにそう時間はかからなかった。


加えて、俺には感情というものが欠けていた。どんなことがあっても何も感じなかった。いくら殴られても『恐怖』を感じなかった。たまに餌をやっていた野良猫が車に轢かれて死んだときも何も感じなかった。


小学校に入った時あたりでは痛みを感じなくなった。


はじめは仲間外れにされるとかそんな小さいなことだった。それが上級生も加わりどんどんエスカレートした。


あの日も路地裏で暴行を受けていた。だが、突然雨が降ってきたので解放された。ボロボロになった体でランドセルを背負いながら傘もささずに歩いていると…あぁ、そうだ、、ここで声をかけられたのだ。




「…そこの坊や、大丈夫か?」


男が少年と目を合わせて尋ねる。聞かれた少年は黙ったまま何も言わなかった。

男が不審に思い、頬が赤い少年のおでこに手を伸ばした。


「あつっ!!これは相当熱があるな…坊や、家はどこだ?」


男がそう聞くと少年は黙ったまま指を指した。


「親は今家にいるのか?」


少年はフルフルと首を振った。


「そうか…って、よく見れば傷だらけじゃないか!これは一体誰にやられたんだ?」


「……」


「とりあえずこの近くに私の家があるからそこに行こう。」


本当は警察やら児童相談所やらに連れて行かなければならないのだろうが、この国のそういった機関はあてにならないと男は思った。


だから男は返事も聞かず少年を抱き上げてどこかに電話をかけた。


「……これで誘拐にはならないな。もう少しの辛抱だ。すぐに痛いのは無くなるはずだ。」


それから、男は少年を大きな和風の家に連れて行った。


「ここで私は子供たちに武術を教えているんだ。この家のどこにも鍵はかかっていないから嫌になったらすぐに出てくれて構わないからな。」


熱でぐだっとしている少年の服をまくるとおびただしい傷の痕が見え、男は怒りを抑えながら薬を塗った。


「坊や、しばらくここで寝ているといい。少しは楽になるだろう。」


それから一晩たち、少年が目を覚ました時には熱はなかった。


「坊や、名前を言えるか?」


「……………………か…………………い………」


少年は10秒ほどの沈黙をえて答えた。


「かい、か。いい名前だな。かい、君の両親はしばらく家に帰れないそうだから私が預かることになったんだ。これからよろしくな。…カイの心は今、とても傷ついているんだ。私と一緒に少しずづ治していこうか。」


男には家族がいなかった。ただ、大昔に生き別れとなった弟にカイが少し似ていたからなのか、()()()()の伝手を使ってでもカイを助けようと思ったことには男自身も驚くことだった。



「…ラ……い…ライ!」


はっとライが目を覚ますとそこは白い世界が広がっていた。


「ライ、…どうしたの?」


「いや…わからん、、なんか夢を見ていたような気がするんだが…魂が彷徨っている間は変なものを見るんだよな…まあいいや、、で?何の用だ?何かあったのか?」


「いや、僕にもわからないんだ。部屋で寝たはずなんだけど気づいたらここにいたんだ。今日はあのペンダントをしてないから来れないはずなんだけど…」


「神の思し召しかもな。ハルシャ家は半神だからそういうこともあるだろう。」


「半神だからってなに?」


「知らないのか?半神は神にコントロールされる存在なんだ。神が死ねと命じれば死ぬ。体が勝手に動いてな。まあ、万物神のお気に入りならば話は別だが。ちらとでも耳にしたことないか?予知眼を開眼させた者はたまに無意識で行動することがあると。」


「…学院長が前にちらっと言っていたのは覚えてるよ。」


「予知というか…時間というもの操るのは人間の限界を超えている。この地に降り立った初代ハルシャ家の当主は時空神カイロスの部下の『時の神レス』。時空神と同じく黒色の髪に緑色の瞳の男神だ。そいつと現地の『神の愛し子』の間にできた子供がハルシャ家の二代目だ。その象徴的な緑色の瞳がお前の一族のカラーとなったのも、初代が緑色の瞳を持っていたからだ。予知眼を受け継ぐのも必ず黒髪緑眼の者だったこともあるだろうがな。」


「予知眼って未来を予知するだけじゃないらしいんだけど、なにか知ってる?」


「…見えるのは未来だけじゃない。神が見せたいものであれば過去も見ることができる。自分以外の過去であっても同様にだ。まあ人間の体で神の力を使うのはかなり負担がかかるから、長生きしたいのなら意識的に使うのはおすすめはしないがな。」


「…どういうこと?寿命が縮まるの?」


「ああ。今の当主はかなり長生きしている部類に入る。大体は40~50の間に皆死ぬ。まあ半神だから死んでも無に返ることはないが。体が壊れるという意味では死ぬ。あの年で体に負荷をおいながらあそこまで動けるなんて、俺の方が驚いたよ。」


「あそこまで動ける?戦ったの?」


「…いや、今のは失言だ。追及してくれるな。そろそろ時間切れだ。もう戻れ。」


そう言ってライはカイを夢の中から追い出したのだった。

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