いざダンジョンへ
ガタンという大きな音とともに扉が開く。
「おお…こんな感じなのか…」
横幅は5mぐらいか。壁になんの特徴もないから迷ったら終わりだな…
「まあ学院のダンジョンはあんまり強くないから心配しなくても大丈夫だ。スライムやゴブリン程度の魔物しか出てこないからな。」
といっても、大したことない魔物であっても群れると厄介なことになることもある。昔ホーンバードに追いかけまわされたときはホントにしんどかった。
「カール達はボスを倒したことはあるの?」
「いや、ないな。そもそも、まだ8層までしか行ったことない。」
なるほど、、カールで8層か…
「あれって狼?」
「このダンジョンで最弱の弱い狼だよ。アタシがやるね!」
ガコンという音とともにシドさんの拳が狼の頭蓋骨をたたき割る。
そして音もなく狼の体が消え、狼の牙が二つその場に散らばった。
「なるほどね。そういう感じなんだ。」
「血も消えるから、返り血を考えずに攻撃できるんだよ。」
それはものすごく戦いやすいな…。コウとか何も考えずに攻撃するからいつも後ろにいた僕が血まみれになるんだよね。
「ちなみに君たち、道分かって歩いてるの?」
「いや、分かってない。カイは知らないかもしれないが、ダンジョンは入るたびに姿を変えるんだ。だから下の階層に繋がっている階段の場所なんて誰も知らない。」
「…じゃあいっつも迷いながら探索してるの?」
「ああ。」
アホなのかな?そんなんじゃ体力を無駄に消費して、下層にたどり着く前に魔物にやられてしまう。
ダンジョンの大まかな形は多分変わらない。壁が移動したりするから変わっているように見えるだけだ。そして、その移動にはおそらく法則がある。
「僕が道覚えるよ。」
「そうか?助かる。」
※
※
※
数時間後
「やっと9層か…意外とかかったな」
「いや、いつもよりペース速いぞ。」
そりゃあいつも迷子になっているからだろう。
「シドさん、そっちじゃないよ。そっちに行ったらもとに戻っちゃう。今度は左に行かないと。」
おそらくこのダンジョンの法則は、奇数回左に曲がったら近くの壁が動くということらしい。どういう仕組みでそうなっているのか、なぜ僕ら以外のこの階層にいる人たちが左に曲がってもそれが換算されないのかは分からないが…
「カイくんはほんとにすごいね。なんでもできちゃう。ほんと、うらやましいな。」
そう言ってシドさんは少し悲しそうにうつむいた。上が優秀だと下は苦労すると誰かが言ってたっけ…。まあたしかに、姉が100年に一人の天才魔法剣士だと、妹が苦労することは容易に想像できる。周囲から何か言われたり比べられたりすることもあっただろう。シドさんも天才の域に入っているだろうけどあの人は別格だからなぁ…
「僕になくてシドさんにあるものはきっとたくさんある。例えば、困っている人に迷わず手を差し伸べる優しさや、いるだけで場を明るくするその笑顔。多分、本当に必要なのはそういったものだと思うよ。強さや賢さは、君というものを表した単なる指標の一つに過ぎないし、そんなもので人ははかれない。だから、シドさん自身がそれに囚われる必要もないんだよ。それに、」
僕がそう言いかけたとき、後ろから誰かが走ってくるような音がした。
「誰だ?」
ものすごいスピードで僕らの横を通りすぎるのはスピネル寮の生徒だった。
「すまん!あとは頼んだ!」
「はぁ?どういう…」
前を見るとでかい鶏が7体ほどすごい剣幕で迫ってきているのが見えた。
「まじかよあいつら、、逃げるぞ!」
カールに言われ、何が何だか分からずとりあえず足を動かす。
「倒さないの?」
「無理だ!あの魔物は何もしなかったら大人しいんだが、一度怒らせたら手が付けられなくなるんだ。」
「いや、そんなことより前の分かれ道どっちに行くか決めないと!!カイくん、どっちにしたらいい??」
「左に曲がって!!そっちの方が上の階層に行く階段に近い!」
僕がそう言った瞬間、左側からぬっと何かが顔を出した。
「リーリエ先輩?!」
「お姉ちゃん!!どうしてここに…」
「よっ!カイ、カール、そして、シド。」
「お一人ですか?ここは一人で行ってはダメだと聞いたんですけど…」
「私は特別なんだ。」
この人が言うとなんか説得力ある…
「にしてもなんでこんなところに…」
「シドがダンジョンに行くって聞いたから追ってきたんだ。どれだけ成長したか見たかっただけなんだが、まさかこんな胸糞悪い現場に遭遇するとは思ってもみなかった。」
そう言ってさっき僕らとすれ違った三人を放り投げたのだった。




