巨大亀の攻略法
「久しぶりだなぁ…こうやってみんなで冒険するの」
「仕方ないさ、この前の冬はカイが魔法も戦闘も禁止されていたんだからな。」
そうなのだ。本当は年が明けるまでということになっていたが、お祖父様がお怒りになって禁止期間が延びたのだ。それに納得はできなかったが僕にも思うところがあったのできちんと約束は守った。
僕が無茶をしたことへの怒りよりも心配の方が大きく、休暇期間中にいろいろと叩き込まれたので魔法については13歳の子供の中で誰よりも詳しくなった。
「でも驚いたなぁ、まさかユウリが乗馬できるとは思ってなかったよ。」
「もともと商人の家なので少しは乗れたんです。走れるようになったのはルークスさんに何度も教えてもらったので、、それで。」
「お祖父様が?てっきりアランさんだと思ったよ。」
覚えている人もいるだろう。アラン・シェールは公爵家の騎士団長である。
「アランさんは最近忙しそうだから会ってないな。」
「お祖父様の方が忙しいと思うんだけど…」
「いや、最近はクレイン様がほとんどの仕事をしているみたいだから忙しくないと思うぞ。」
そっか……動き出したんだね…タイムリミットは僕の卒業までだから急いで引継ぎしてくれているお祖父様には感謝しないと…
「あっ、カイさん!あれ見てください!!思ってたよりも大きいです!!僕初めて見ました。」
「あれは今回の依頼内容にあった巨大亀だよ。」
まあ亀といっても日本の亀とは全然違う。もはや背中に甲羅をのせた別の動物である。見た目は甲羅の要素を除けばネッシーである。大きさはベッドほどで首が少し長いのが特徴的である。
「甲羅10枚もとらなあかんの?俺らやったら魔法鞄持ってるから容易く納品できるけど他の奴らは無理ちゃう?」
「いや、巨大亀の甲羅は体と切り離すと萎んでだいぶ小さくなるから心配はいらない。」
さすが魔物博士だ、よく知っているな
「でもどうやって取るんだ?1度殺してからじゃないとダメだよな?」
「ああ、もちろんだ。甲羅は身体の一部だからな。」
もし体の一部でなかったら隠されている部分をぜひとも見てみたいものだ。
「ちなみにこの亀美味しいの?」
「さあ?でも食べてるやつは見たことないから美味しくないんじゃないか?」
「ふーん、じゃあいいや。」
日本だと亀食べる人もいるから美味しいのかと思ったけどそうじゃないのか…
「甲羅のまめだけに殺さないといけないのか…」
今まで戦ってきたのは人に危害を加える魔物か美味しく頂ける魔物ばかりだった。巨大亀は基本的に人は襲わない。しかも肉は美味しくないときた。ためらうのも無理はないだろう。
「イリアスは優しいね。ただ、巨大亀の甲羅って何に使われているか知ってる?」
「防具に使われているのは見たことがある。」
「うん、それもあるけど防具以上に大事なものに使われているんだ。ね、ユウリ。」
「はい。巨大亀の甲羅はいろいろな薬に使うことが出来るんです。」
なぜならこの亀、甲羅に栄養を溜めるのだ。所謂ラクダのこぶこようなものである。
「僕らがこれを持って帰ることで救われる人もいる。」
だから気にする必要はない、と言外で言う
「ところでエレン、これどうやって倒せばいいの?」
川のだいぶ向こう側にいるそれを指さす。
「…俺は別に魔物討伐の専門家じゃないんだが。首は甲羅よりも柔らかいから首狙えばいけるんじゃないか?」
いや、そういうことじゃない。
「どうやってこの距離を埋めたらいいかを聞いてるんだよ。僕だけなら氷魔法で水の上を歩けるけどみんなは無理でしょ?かといって僕一人だけで倒せる魔物じゃないし…」
「一人だけならウィンが巨大亀の近くまで連れていけると思う。」
「いや、ウィンには倒した後の死体を岸に運んでもらいたいんだ。」
「たしか巨大亀は口から水を出して攻撃するんですよね?」
「そうだよ。水の上では速く動くことができないから一人が囮役になって陽動してもう一人が後ろに回ってとどめをさす、って感じで考えているんだけど、それだと最低二人いるんだ。シーフの僕がとどめをさす役に適任だから囮役を誰かにやってほしいんだけどなんかいい方法はないものかな…」
アクアは下級精霊だからそこまで上手く水を操れないだろうし…コウやエレンの魔法もこの距離じゃ届かないだろう…
「僕が弓を飛ばして巨大亀の注意をひくのはどうでしょうか?」
「あの距離は届かないと思うけど…」
「兄さんの風魔法でスピードをあげるので大丈夫です!一応自衛できるくらいには弓を使えるようになったんですよ。」
「それならユウリに任せるよ。彼らの水魔法を避けながらになるからレインかルーンに乗ったらいいさ。どっちがいい?」
「いつもレインに乗って練習しているのでレインにします!」
「そう、分かった。エレンとイリアス、そしてコウは少し離れてといてね。やばくなったらユウリを後退させてね。ルーン、お前は吠える役ね。」
「クゥーン(泣)」
明らかにがっかりしている気がする
「ハイゴブリン討伐の時に頼るから機嫌なおしてよ。…じゃあ僕が合図したらよろしくね。」
そう言って僕は水の上に足をのせた




