建国神話の秘密
「皆さんお揃いですね。はじめましての人もいるようなので自己紹介をしておきましょう。私はカーティスと申します。平民ですので敬語でなくても構いませんよ。今回は授業の前に少し特別な話しがありますのでよく聞いておいてくださいね。」
そう言って先生は窓を閉めた。
「まず初めに4つの公爵家の中で一番権力のある公爵家がどこかわかりますか?」
「はーい!ハルシャ家やろ?」
なんでそんなに食いぎみなんだろう…
「正解です。それではなぜハルシャ家が一番権力を持っていってるかわかる人はいますか?」
その問いかけにアイリスが控えめに手を上げる。
「はい。ハルシャ家は王家とともにこの国を建国した英雄だからです。」
「ええ。一般的にはそう言われています。」
「一般的には、ということは本当は違うということですか?」
「半分正解で半分違うと言ったところでしょうか。皆さん、建国神話はご存じですか?」
今度はユウリが手を挙げた。
「知ってます!初代の国王陛下とハルシャ家の初代当主が神様から特別な力を手に入れて悪魔を倒す話ですよね?」
…ああ…確かにあったな…面白くなかったからあんまり覚えてないけど…
「そうです。しかし、実際は違います。ハルシャ家の初代当主は創造主の命によって下界に降り立った神族で、彼が特別な力を現王家などに渡したのです。」
…あっ、そういうこと?…だからハルシャ家の者は皆黒色の髪なのか…
「えっ、そうなん?なんでそのことを隠してんの?」
それは気になるな
「本人が拒否したからだと言われています。彼は目立つのが好きではなかったようですしね。初代国王の手記がいくつか残っていますがそのほとんどが違和感ないように作った偽の話だとか…。」
「僕、“始まりの音”っていう初代国王が書いたであろう本を学院の図書室で見たんだけどあれも偽の話なの?」
「“始まりの音”?もしかしかして第1章の話をしていますか?!」
そう言って先生は物凄い眼力でこちらを見てくる。なんか怖い…
「第1章って書いてあった気はするけど…それがなに?」
「初代国王が残された手記は計7つで第1章から第7章まであります。1冊の本をバラバラにして小冊子にしたと考えてください。…それで、その内の第1章がまだ見つかっていないのです。」
「でも途中破れていて読めなかったよ。」
「破れていて読めなかった?!…おかしいですね、手記には全て初代ハルシャ家当主によって傷一つつけることが出来ないようにされているのですが、、」
「ふーん。そうなんだ。それじゃあさっきの続きを教えて。」
「…はい。本当はハルシャ家が国王の座につく予定でしたが彼自身自他共に認める脳筋だったということもあり、国王になる代わりに武力で国を守ると言われたそうです。ですのでハルシャ家の地位は公爵家ではありますが実質陛下と同じ、もしくはそれ以上とされています。」
だから陛下にもあんなに強く出れたんだね…
「この話を知っている人は?」
「公爵家以上の当主と伯爵家以上の信頼のおけるもののみとされています。」
「…私がこの話を聞いても大丈夫なのでしょうか?」
…まあ…普通ダメだろうな…
「アイリス嬢のお父上が当主をされていた時代、ハルシャ家はフローレス家と仲がよろしかったのです。クローズ家との婚約はあなたの親戚主導で行われ、あなたに拒否権がなかったということぐらい分かっています。遅くはなりましたがフローレス夫妻のことをお悔やみ申し上げます。」
「いっ、いえ…もう過ぎたことですから。」
「本気で結婚するわけではなさそうですのでアイリス嬢にもお話しした次第でございます。」
「…女性が婚約破棄できるほど世の中甘くないと思うけど?」
「ええ。ですが、それはただの令嬢の話です。当主代理となれば話は変わってくる。そう思いませんか?カイくん。」
そう言ってアイリスは意味ありげに微笑んだ。
そういえば弟が1人いると言っていたなと思い出しながらアイリスの笑みが怖かったため顔をふいっと反らす。
「それではこの話し一旦終わりということで、本日の授業は魔方陣理論学です。まずは皆さんの現時点での能力を知りたいのでテストを受けてもらいます。」
そう言って紙が配られる。
「それでは始めてください。制限時間はありませんので終わった人は手を挙げてください。採点いたしますので。」
制限時間無いんだ…ささっと終わらせるか...
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「点数を発表しますね。カイ様とアイリス嬢が100点です。流石ですね。それからイリアスさんが90点、ユウリさんが70点、コウさんとエレンさんが60点という結果になっています。基礎的なことは皆さん分かっておられるようですね。」
イリアスは昔きちんとした教育を受けていたから分かるが、ユウリは凄いな。
…昔コウに四則計算以外のことも結構教えていたんだけどな…教え方が悪かったなのだろうか...?
そんなことを思いながら、目の前の授業をぼんやりと眺めることにしたのだった。




