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異世界で幸せに~運命?そんなものはありません~  作者: 存在証明
繋がれた未来~不安定な魂~

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夢幻世界~それでもぼくは~

「…じゃま」


そう言ってカイは鉄の棒のようなものを持ちゆっくりと橋本の元へと向かう。


「なっ、なんだお前!」


「…ぼくのことを知らないなんておかしな話だ。ぼくは昔からアンタを知っている。アンタを見てるイライラするんだよ。今ここで殺したいくらいにはね。」


そう言ってカイは鉄の棒を振り下ろした。橋本はカイの震え上がるような殺気を一身に受け恐怖で身体が動かなかったのかあっさりとやられてしまった。


カイは動かなくなった男達を一瞥しコウへと視線を向ける。


「…子どもがこんな夜遅くに出歩いたら補導されるよ。早く帰りな。」


カイはそう言って鉄の棒をそこら辺に投げ捨て踵をかえした。そんなカイを見たコウは急いでカイを追いかける。


「俺、行くとこないねん!一緒に行ってもいい?」


「…着いてくるのを止める方法も理由ないけど忠告しておくよ。ぼくが今から行くのは地獄だ。まっ、せいぜい見学でもしときな。」


カイはそう言って振り返りもせずに目的地に向かう。


「…なあ…今から死にに行くん?」


「そうだと言ったら?」


「なんでそんなに死にたいん?」


「逆に聞きたい。人間ってどうしてそこまで死なせたくないんだ?今までに何度も『死ね』と言ってきた相手がいざ死のうとする時、皆口を揃えて言うんだ。『死んだらダメだ』ってね。」


そう言ってカイは卑屈に嗤った。


「ぼくは大切な人も居場所も生きる権利すらも奪われた。それなのに、、それなのに僕は死ぬ権利すらも奪われなければならないのか?」


「それは俺にもわからへん。俺の周りにはそんなやつ1人もおらへんかったから。『死ね』と言ってきた人達は皆、俺が死のうとすると『早く死ね』と言ったやろうな。それはそれで残酷やと思わへんか?…まあでも、アンタを止めることは誰にもでけへんよ。もちろん俺にもな。何を言ったってアンタの心には響かへんやろ?」


「それもそうだね。目的地に着くまで昔の話をしていいかな?冥土の土産として持って帰ってよ。」


そう言ってカイは儚げに笑った。


「数年前にぼくの親友が死んだ。そこからぼくの時は止まったままなんだ。ただ復讐のために生きてきた。別にアイツの無念を晴らすために、なんてカッコいい理由じゃない。いや、それもあったかもしれないが一番の理由はそれじゃない。あの日からずっと夢を見るんだ。どうして『俺は死ななければならなかったんだ』、『お前のせいだ』と血塗れのアイツが、レイが僕を責めてくるんだ。分かるか?この気持ち。一番の親友が僕をずっと憎んでるんだ。」


苦し気に言うカイにコウはかける言葉を失くした。


「生まれて良かったと思ったことも思いっきり笑ったことも一度だってない。ましてシアワセを感じたことなんてなかったし、おそらくこれからもない。」


「そら分からへんやろ。生きてればいいことがあるかもしれへんやん!」


「君には僕の何がわかる?この生きる苦しみも悔しさも…僕以外の誰にもわからないだろう?だいたいそう思ってからもう10年はたった。10年も待ったんだ。もういいだろう?…こんな世界、、全部、ぜんぶ、無くなれなればいい。」


カイの狂気的な瞳がより一層黒く光る。


「…ルーンはどうするん?」


「ルーンはぼくが居なくても生きていけるように育てた。なんの問題もない。」


カイはそう言ってふぅーとタメ息をついた。


「ぼくは…ぼくはね。…何よりもぼく自身が許せなかったんだよ。変わりたくても変われない自分自身が一番嫌いだった。レイが死んだのもぼくのせいなんだ。」


カイが受けた苦しみを知らないコウには『そんなことない』とは言えなかった。


「誰だって死にたくはない。生きる苦しさが死の恐怖に勝ってしまった、ただそれだけなんだ。本当は“死にたい”んじゃなくて“生きていたくない”だけなんだ。」


「…それでも...それでも生きたかったんやろ?だからそんな、、そんな顔をしてるんやろ?」


カイは今にも泣き出してしまいそうな顔をしていた。


「…そうだね。でももういいんだ。…僕の弱さが僕をそうさせただけだから。…ありがとうこんな話に付き合ってくれて。…ごめんね、コウくん。もう賽は投げられたんだ(後戻りはできないんだ)


カイはそう言って車道に出てコウの方をチラリと見た。


「ぼくは誰かに愛されたかった。誰かに生きていいよと言ってほしかった。自分の存在を肯定してほしかった。…そう思うことがそんなにダメなことなのか?誰も愛してくれない存在を認めてくれない、そんな世界で生きる意味なんかない!」


そんな悲痛な叫びをよそに車が猛スピードで突っ込んでくる。


このままカイに当たれば木っ端微塵になることは子どもでも想像できた。


人生で2度目となる強烈な衝撃に備えてカイは歯をくいしばりながら眩しすぎるライトの光に軽く眼を細めた。

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