愛に勝るものは無し
ここはどこだろう…あたたかい...ぼくは取り返しのつかないことをしてしまった気がする...もうどうでもいい、はやく消えてしまいたい
そう思いながら重い瞼を開けると目の前に女の人の顔があった。
驚いて離れようと身体を動かすと、よくわからないが地面に落ちておもいっきし叩きつけられた。
「大丈夫?痛くはない?」
そう言って女の人は立ち上がって僕に手を差しのべた。
どうやら状況を見るに、女の人は僕に膝枕をしていたようだった。
じっと女の人の顔を見るとなぜだが少し懐かしく感じた。
黒い髪に緑色の瞳をした20台の女の人。
…もしかして
「母さん?」
僕がそう言うと嬉しそうに女の人が笑った。
「ええそうよ。ところでどうしてカイはここにいるの?ここに来るにはまだ早いわよ。」
「えっと…、その、、」
なんて話したらいいのか全くわからない。前世も今世も親との関わりはほとんどなかった。
僕が下を向いてうつむいていると顔を手で包み込まれた。
「大丈夫、落ち着いて。…ここはね、生と死の狭間なの。魂が身体から離脱した人が来る場所で、生きることも死ぬこともあなたが決めることが出来るのよ。あなたが本当に生きたいと思えるのなら私があなたのいるべき場所まで送ってあげる。」
「…わからないんです。自分がどうしたいのか...何が正解なのか…。僕の身体は何者かに乗っ取られていて、もし僕が戻って理性を半分取り戻しても乗っ取られ続けたら余計ややこしくなるでしょう?皆僕を傷つけるのを躊躇うはずだ。」
僕がそう言うと女の人は優しく微笑んだ。
「…大切な人が自分のせいで傷つくのが怖いのね。でもね、カイ。あれはあなたのせいではないし、そのことをあなたのお祖父様も友達も陛下も民衆も皆わかっていると思うわ。」
そんなのわかってる、わかってるんだ。だけど、、
「それでも怖いんです。皆から非難されるのが。」
「それでも前も向いて進んでいくべきじゃないかしら。幸いにもまだ誰も死んでいないわ。知らないかもしれないけれど、ハルシャ家の者やカイの周りにいる人達は神の血を代々受け継いできた者達が多いの。神殿が近くにあれば邪なる者は手をだせない。」
「神の血を受け継ぐ者?」
「ええ。黒か白の髪を持つ者は神の血を受け継でいるという証拠なの。町でもほとんど見かけていないでしょう?漆黒や純粋な白色は神の干渉を受けやすいけど、逆に灰色や銀色の髪をもつ人は神の干渉がわずかながらにしかないの。」
とゆうことはフローレス嬢も?
「じゃあ、赤色の瞳はなんなんですか?一瞬自分の瞳が片方だけ赤色になったような気がするんですが…」
「赤色の瞳は人ならざるものを示すの。黒に近い赤であればそれは“邪”なるもので、深紅であればその人は天使と同等以上の神に近い存在ということを示しているの。」
これならコウとイリアスはいったい…いや、そんなことよりも...
「どうして…」
「どうして知ってるかって?神様に教えてもらったのよ。あなたに伝えてほしいって言われたわ。」
「……」
「…私は死ぬ前にあなたに加護を与えた。カイを人ならざる者が乗っ取ったことでようやく発現しようとしているのに、魂がないから発動しようにもできないの。お願い、もう少しだけ生きてくれる?」
女の人の瞳は不安気に揺れていた。僕がNoと言えば今すぐにも泣き出してしまいそうなぐらいには...
「…信用してもいいんですか?」
「ええ、もちろんよ。」
「わかり、、ました。……僕にもう1度だけやり直す機会をください。ようやく…前を向けたんです。ここで終わってはおもしろくない」
「よく言ったわ、、ありがとう。…カイ、これだけは忘れないで。私はあなたがどんな人間でも愛してる。心の底から愛してるわ。生きてるだけでいいの。生きているだけで偉いのよ。ほんの短い間だったけどあなたに会えて嬉しかったわ。」
そう言って涙を流す母さんを見つめながら僕の視界はだんだんとぼやけていって終いには見えなくなった。
「…いい夢を」
そんな優しい声が聞こえた気がした
♢
その頃
「グァッッ…」
「?!どうかされましたか?…血が!」
「いい!問題ない。少しさがってろ。誰にも言うんじゃないぞ。」
そう言ってライは伯爵を下がらせた。
腕の痛みにも負けないほどのひどい頭痛がした。魂を無理やり引き裂かれているような感じだ。
「なんだこれは…」
アイツに何か起こっているのか?
とライは口から流れた血を拭いながら考えた。
「魂繋がってるとこういう痛みも感じるのか…使い勝手悪いな...かといって魂をどうこうできるわけじゃないしな」
それに、昔感じた嫌な気配も感じる。
…まあいっか…どうせ万物神がどうにかすんだろ…アイツへの執着半端ないもんな…
そう思ってライは血で濡れた服を脱いだ。
♢
???視点
「ああ、なるほど…彼を守っている神は万物神でしたか…。失敗したとはいえ、なかなか悪くない収穫ですね。想定外だったのはハルシャ家の当主が思った以上に有能だったということだけでしょうか…。まっ、どちらにせよ学院内で事を起こすには警戒されていて難しいでしょうし2年ほど待ちましょうか。…あの方が喜んでくれるといいのですが...」
そう言って???は広場にある時計台から軽々と飛び下りたのだった。




