誰かを本気で愛すこと
「いつもより混んでるね…」
「そらそうやろ。祭りやねんで?違う街から来てる人もおるらしいし…」
「…ねぇ、でん「今はエルと呼んでくれないかな?」…わかった。エル、護衛ってどうなってるの?」
仮名がノエル→エルとはあんまりセンスがない気がする。
「それなら至るところに一般人に扮した護衛をたくさん配置したと公爵が言っていたよ。」
「あっ、カール!見てよこれ!変な形のキャンディだ!!」
「コウ、あっちにキレイな女の人いるぞ!!」
「ほっ、ホンマや!!」
「あっ、あれは噂の闇市ですね!ちょっと見てきます!!ジェノア君も一緒に行きましょう!」
「うっ、うん!」
上から順にシドさん、エレン、コウ、セシル、そしてジェノアだ。
みな浮かれすぎている気がする。
とゆうかどう考えても闇市がこんな堂々と商売をしているはずがない。
「…どうしようか。」
そう殿下が言う。
辺りを見回すと僕、殿下、イリアス、ハミル、そしてユウリしかその場に居なかった。
まあ性格を考えれば順当だろう。
「…護衛がたくさんいてもこれじゃあ意味ないね。僕らだけは固まって動いた方がいいと思うよ。」
狙われかねない人がたくさんいるのだ。1人でみて回りたい気がしなくもないが仕方ないだろう。
「じゃあどこ行きます?」
「ユウリはどこ行きたいの?」
ユウリは一緒に祭りに来たメンバー内で一番幼いのに一番しっかりしているが、10歳にも満たない子供にいろいろと我慢させるのはやはり良くないだろう。
「えっ、僕ですか?…ええっと...僕はあそこにあるお店に行きたいです!」
ユウリが指し示した方を見るとそこには怪しげなポーションの類いからネックレスや指輪まで(本物かはわからない)多種多様な品を売っている店があった。
「それじゃあひとまずそこにいこうか。」
と殿下も言ってくれたので皆でそこにいく。
「へい、らっしゃい!!」
「おじさん、このポーションはなんの効果があるんですか?」
「おお、ハミルじゃないか!これはな、瞳の色をランダムに1時間変えるポーションだ。あっちは髪の色な。怪しい物じゃないぜ。公爵公認のパーティー用ポーションだ。この祭りでしかライズでは販売されていないがな。」
「そうなんですね…じゃ1つずつ買います!」
「…ああそれが公爵からお前さん達には売るなって言われててな。…ほら、護衛の人が守りにくくなるだろう?」
「あっ、そうなんですか。わかりました。最近どうで…」
とハミルがおじさんと世間話に花を咲かせている間に品物を見る。
もうすぐエレンの誕生日のためプレゼントを探さないといけないと思っていたところだったのだ。
付き合いが少し短いため、何を選んだら喜んでくれるか全然わからない。
戦闘で役立つポーションや珍しい武器、彼の好きな魔獣図鑑や卵図鑑。少しプレゼントっぽいペンダントや腕輪。
考えれば考えるほど何がいいのかわからなくなってしまう。
かといってユウリや本人に聞くのはプライドが許さない。
もはやあれだ、自分にとってエレンが持っていてほしいものを、つまりは自分の中のエレンが持っていて現実のエレンが持っていない物を選んでいる気がしてくる。
♢
…これはどうだろうか?
うん、似合いそうだ。よし、これにしよう!
「おじさん、これ1つちょうだい」
と僕が言うと店番のおじさんが深い、それはもう深いため息をついた。
「やぁぁっと決めてくれたみたいだな。フィオレーナ様の息子だから手は出せなかったが…ったくあれから4時間も経ってるんだぞ。」
「ちゃんと買ったから許してよ、おじさん。」
そう言いながらお金を渡す。
「しゃぁねぇガキだなぁ。ほら、お釣りだ。」
「ありがと。」
「そういや坊主、この祭りは初めてなんだってな。もうそろそろどでかい花火があがるから見てから帰りな。」
「いろいろありがとね、おじさん。」
と言って花火が見やすそうな所を探す。
「おーい!カイくん!こっちこっち!!」
振り返るとシドさんがいた。
「何してるの?みんなは?」
「とっくの昔にはぐれたよ。カイくんこそノエル達はどうしたの?」
「…あっ、、いや、っ、うん。僕もはぐれた。」
「ふーん、そうなんだ。じゃあ一緒に花火見ない?」
「別にいいけど…」
「ほんと?じゃああっちで見よう!」
そう言ってシドさんに手を引かれて人気の少ない場所に来た。
近くにあったベンチに座る。
一息つく暇もなく花火の音が聞こえた。
「これが花火かぁ…キレイだね、カイくん!」
前世でも花火はあまり見なかったからどんなものか忘れていたが言われてみればたしかにキレイだ。
でも、なぜだろうな…とてつもなく哀しくなる。花火になんの思い出もないのに…これはおかしすぎる。
もしかして、、いや、まさかな…
ライの記憶や感情が僕と同化していってるなんて、そんなバカなことあるはずがない。
「どうしたの?カイくん。」
「…いや、なんでも。キレイだね、花火。」
「…うん。……アタシね、カイくんのことが好きなんだ。」
『好き』とはどういう意味だろうか?人として好きもしくは友達として好き。
…あるいは異性として好き
「僕は「待って!返事は1年後のこの場所で聞いていいかな?カイくんもアタシもお互いのことをまだよく知らないでしょ?」…わかった。1年後に返事をするよ。」
そう言って2人とも無言で空を見上げた。
誰かを愛したことのない僕が誰かに愛されるわけがないと思っていたが、どうやらその認識は改めなければならなさそうだ。
そう思った時、心なしか少しだけ腕の紋様に痛みがはしった。
静かな夜空には花火の音だけが響いていた。
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