伝えたい事
いよいよ大会決勝!
たった一日だけの地元で開かれる大会だったがその時間は一日よりも長かった気がした
しかしどんなに長い一日だろうと終わらない日はなく大会も最後の時を迎えようとしていた
『あんなに長かった大会もいよいよ決勝戦!様々な激戦が繰り広げられ多くの者が涙を飲んできました!
そんな戦いを潜り抜けて決勝に辿り着いた二人!果たしてこの大会で最強となるのはどちらなのか!?
さぁさぁ!舞台を盛り上げてくれる選手達に入場してもらいましょう!』
司会の案内で二人はステージの上に上がると会場は今まで一番の盛り上がりを見せていた
その声を聞いて思わず剣也はびっくりしてしまうが対戦相手である蜜柑は特に動揺している様子はなかった
それを見て自分も負けてはいられないと思ったのか剣也の顔も真剣なものに変わる
「凄い・・・!二人共、戦う前からこっちにも分かるくらいやる気に溢れている・・・!」
「ええ・・・この戦いはどっちが勝つのか私達でも全然分からない・・・でもこれだけは言える・・・!
どっちが勝ったとしても間違いなくお互いのGATは無事じゃ済まない・・・それほどの戦いになるわ・・・!」
二人の放っている気迫のようなものを感じてステージの外にいるはずの清志郎達は思わず息を呑んでしまう
そしてこれからどんなバトルが行われるのかそれだけは想像する事が出来たが勝敗までは分からなかった
それほどまでに二人の実力は拮抗しておりどちらが有利かなど清志郎達ですら言えなかったのだ
だからこそ彼らはこれから始まる戦いに対して目を逸すなどという事は出来ないと考えていた
この戦いはおそらく自分達を成長させるのに必要不可欠なものだと判断したから・・・
その一方、ステージの上にいる二人はお互いに見つめ合うだけだったのだがここで蜜柑の方から先に口を開いた
「・・・この決勝戦・・・私は兜君と戦える事をとても楽しみにしていた・・・
色々と言いたい事もあったし伝えたい事もあったけど・・・それは後でいい・・・!」
蜜柑はまるで待ちきれないと言わんばかりに自分のGATである月兎を取り出して剣也に向ける
「始めましょう・・・!他でもない私と貴方の・・・決勝戦を・・・!」
「ああ・・・!俺も月白さんと戦える事を楽しみにしていた・・・!だから・・・早く始めよう!」
もはやお互いに司会の指示など待っていられないとばかりにGATをセットしてバトルの準備をする
『おぉっと!?どうやらすでに二人とも待ちきれないようです!ここまで盛り上がってこその決勝戦!
果たして勝つのは剣也選手か!?それとも蜜柑選手か!?それでは皆さん一緒に!』
『GATバトル・・・ファイト!!』
ステージは満月の美しい夜の草原地帯であり状況的には遠距離攻撃を持つ月兎の方が有利だろう
しかしヤマトはそんな月兎の放つ矢を躱せるだけの反応速度を持っておりもはや有利、不利は関係ない
それが分かっているのかそうじゃないのか蜜柑もまるでそんな事は関係ないとばかりに動きながらヤマトへ攻撃する
もちろん二体の間には距離があるのでこれくらいの距離ではヤマトに当てる事は出来ないが
いくらヤマトでも最高速度で動きながら矢を躱す事は出来ないのでスピードを緩めるしかない
その隙におそらく大会の中で最速を誇っている月兎の足を使って蜜柑は距離を取っていたのだ
(何の策もなしに兜君を倒せるとは思えない・・・!まずは彼から距離を取って作戦を考える時間を作る・・・!)
そう・・・蜜柑は剣也から距離を取る事で自分が作戦を考える時間を作ろうと思っていた
それは他でもない彼が無策で勝てるほど弱い男ではないと最大限に警戒しているからこその行動であり
そして・・・絶対に自分が勝つという強い意志からくるものだった事だけは間違いなかった
(まずいな・・・月白さんは間違いなく俺よりもGATの事を詳しく把握している・・・
それこそ内部的な構造に関して言えば清志郎すらも凌駕するだろうな・・・
そんな彼女が距離を取るって事はおそらく作戦を考える為の時間稼ぎって事だ・・・
あんまり距離を離されたら間違いなく俺に勝つ為の何かを打ってくるはず・・・
それをさせない為には近づいてプレッシャーをかけ続ける・・・!)
剣也も蜜柑がどうしてそんな行動をするのかちゃんと分かっておりだからこそ近づいてプレッシャーをかけ続けた
たとえどんな達人であろうとも攻撃を避け続けながら作戦を考えるなどという芸当は出来ない
それこそこれが自分の体ではなく操縦しなくてはいけないGATならば尚更、頭など使っていられないだろう
それを一番よく理解しているのはまさにヤマトに迫られ続けている蜜柑でありその顔は苦虫を潰したようだった
(完全に作戦を読まれている・・・流石、兜君・・・!
こうなったら作戦を考える事は後回しにして今は逃げる事に集中する・・・!)
もはや自分の作戦は完全に読まれていると理解した蜜柑は余計な考えを捨てて逃げる事を優先する
側から見れば間違いなく臆病者に見えてしまう事だろうが剣也はそれほどの相手なのだ
それが分かっているからこそ蜜柑は勝つ為には恥すらも捨てて全力で逃げる
(チィ・・・!思いっきり距離を開けられ始めた・・・!ヤマトの速度じゃ追いつけない・・・!)
その甲斐もあって月兎は十分過ぎるほどヤマトから距離を開ける事ができ作戦を考える時間を得る事が出来た
「本当に二人共、凄い・・・!まるで自分達が勝つ為に必要な手を考える前に行動しているみたいだ・・・!」
「ええ・・・そして今、有利なのは間違いなく・・・距離を開ける事が出来た蜜柑の方よ・・・!」
(どうしたもんか・・・ここまで距離が開けられたら逆に近づくのは危険だな・・・!)
剣也も自分がピンチに陥っているという事は十分に理解しており
先ほどとは打って変わって月兎に近づく事が出来なくなっていた
ここまで距離が開いて仕舞えば蜜柑ならばもう既に作戦を思いついているはず剣也は考えていた
しかし自分に蜜柑の作戦を予測するなんて絶対に出来ない事は分かっておりやる事はそれに反応する事だけ
故に剣也は全神経を研ぎ澄まして蜜柑がどう行動するのかを待ち構えていた
(・・・凄い・・・追い詰めているのは私の方なのに・・・逆に追い詰められた気持ちになる・・・!)
そしてその行動は予想以上に蜜柑への牽制になっており有利に立っているはずなのに
逆に追い詰められているようなプレッシャーが蜜柑を襲っていた
(・・・けど・・・今更これくらいで退いたりはしない・・・!そんな覚悟でここに立ってはいない!)
そう・・・既にこの決勝に立っている時点で蜜柑は負けるなどという弱音を吐くような気持ちは捨ててきていた
それは他でもない自分が勝った乙女から教わった事でもあり自分に足りないと確信したもの
なのにここでそれを克服しなかったら自分はいつまでも前に進む事は出来ない
何よりも・・・これくらいで勝負を台無しにするようでは自分に教えてくれた乙女に申し訳がないと思っていた
(今は冷静に兜君とヤマトの戦いを頭の中で思い浮かべてこの場での最善策を考える・・・!
相手が攻めてこないと言うのならこっちがそれを利用しない手はない・・・!)
先ほどとは打って変わってお互いに静かすぎるほどその動きを止めており
観客すらも一瞬、呼吸を忘れてしまうほど静かになっていた
おそらくは二人が再び動き出した時、勝負が決まると誰しもが理解しているからだろう
そしてしばらくの沈黙の後、両者はまるで示し合わせたかのように同じタイミングで動き出した
攻撃を仕掛けたのは月兎の方で前までとは違い複数の矢が同時にヤマトへ向かって飛んでいった
流石のヤマトもこの攻撃を反応して躱すにしては範囲が大き過ぎるので別の策をとる事にした
それは地面を殴り付けて穴を掘りそこへ逃げて飛んできた矢を避けるというものだった
その作戦は見事に成功しヤマトは飛んでた矢を躱す事が出来たのだが・・・
(貴方がそんな手を使う事は分かっていた!穴に入ってしまえば上空からの攻撃は避けれない!)
なんと穴の上空に月兎が飛んでおり穴に入ったヤマトに向かって矢を放ってきたのだ
避けようと思っても穴の大きさは狭くヤマトがちょうど入れるくらいの大きさしかないので穴の中では躱せない
かと言って地上に出ようとすれば間違いなく矢に当たるのは目に見えておりもはや避ける術はなかった
故に・・・剣也が矢が当たるコンマ何秒で導き出した答えはたった一つだけだった
「腕の一本くらいならくれてやる!!」
それはヤマトの腕を犠牲にして攻撃を最小限の被害で受け止めるという方法だった
そして見事にその作戦は成功し片腕を犠牲にして何とか月兎の攻撃を防ぐ事が出来た
しかも空中に浮かんでしまった月兎はもはや自慢のスピードで移動する事も出来ず
蜜柑も今の攻撃で仕留められたなかった事でもはや自分の負けだと敗北を悟り
飛んできたヤマトの攻撃を躱す事なく受け入れるのだった
『決まったぁぁぁああ!!優勝は・・・剣也選手だぁぁぁああ!!』
「・・・負けたわ・・・まさかあそこから逆転されるなんて思ってなかった」
「いや・・・俺も死なば諸共って感じだったから運が良かったとしか言えないよ
それくらい盛り上がった試合だったし楽しかったよ。ありがとう」
二人は強い握手を交わすとまるで待ってましたと言わんばかりの大きな拍手が会場を包み込んだ
こうして大会は終わりを迎えて剣也は生まれて初めてのトロフィーを獲得し家に飾る事になった
その日は大会を見に来ていた弟達に褒められそして色んな事を聞かれる剣也
全てが終わる頃には既に夜になってしまっており今頃になって今日の疲れが出てきていた
「・・・ヤマト・・・お前のおかげで俺は色んな事を初めて知る事が出来たよ・・・
優勝もそうだけど友達と競い合うってどんな事なのか・・・勝つって事が何なのか・・・
だから今日は寝る前にこれだけは言っておきたいって思ってたんだ・・・」
「ありがとう」
大会を見事に優勝した剣也
しかしそんな彼の平穏は長くは続かなかった




