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未来視たちの憂鬱 プロローグ
どこまでも続く水平線。海の色はあかね色に染まっている。
波を見下ろす、切り立った崖の先に女性が一人たたずんでいた。
女性の足下には木で組み合わされた小さな十字架が立ててあった。
どうやら誰かのお墓らしい。
足下のそれに向かって、女性は何か話かけている。
しかし僕には彼女が何と言っているのかは分からない。
おじいちゃん先生の教えてくれた、無声映画ってこんな感じかなって思う。
女性は短髪の黒髪にスーツ姿という精悍なたたずまいだ。
後ろ姿からでも、彼女の凜とした雰囲気が伝わってくる。
不意に、女性が振り返る。唇が動く。
僕に話しかけたのではないと分かっている。
僕には彼女の言葉が聞こえない。
だから、こう言ってたらいいな、と想像してみる。
「あなたに出会えてよかった。」
そう、言ってくれた気がした。
…ああ、その未来が存在しているというだけで、僕は生きていていいのだと思えた。