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国崩  作者: 新築工事
第1章
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叡智神

「さて今回の作戦だが、世界を救う仕事となる。」

「急にスケールデカすぎねぇ?」

俺たちの拠点の作戦室にて、俺が世界の危機を謳うとモールは素の反応でそう言った。

「しゃーないだろ。俺も今回のは完全に想定外だ。今すぐに動けて、そこそこの実力あんのは俺らしかいねぇ。」

「それにしても、あまりにも急すぎませんか?準備とかも全く出来てない状態ですけど。」

レニーは淡々とそう言った。どこまでも冷静だなコイツは。

「それに関しては大丈夫だ。今回の魔獣は3体のみ。さらには、殲滅型はたったの1体だ。」

「なるほど。それなら私たちにもギリギリ対処可能な範囲だな。」

そう言ったのはアニマだ。我らが国崩随一の戦闘員。コイツが言うなら、間違いはない。

「だとしても、かなり面倒ですよ。完璧に立ち回らないと、マジで世界が壊れかねません。」

俺たちのブレイン、ストロは冷静な指摘をした。

「まぁ、それに関しては今に始まったことじゃないだろ?魔獣討伐はかなり前からやっている。」

「毎回毎回ギリギリだけどな。」

いちいち茶々を入れてくるモールはほっといて、割り振りを決める。

「殲滅型は俺とストロとアニマで行く。それ以外の2体には、モールとレニーが対応。それでいいな?」

全員が頷くのを確認する。今回の作戦はぶっつけ本番。さらには失敗は許されない。だがこれも、明るき未来のための、必要な投資だ。

「じゃあ、気張っていこう。」

こうして俺たちの戦いが始まった。


まずそもそも魔獣とは、魔界の側に生息する、魔族以外の生物のことを指す言葉だ。

一般的にはな。

だが、実際にはもっと大きく区切ることができる。

人工的な生命体か、そうでないかだ。

この世界には、ちゃんとした神が定義されている。現在の神は10人だが、特にずば抜けた力を持つ神3人、闘神、境界神、そして、叡智神。この叡智神がとにかく曲者。不老の魔法を持ち、千年以上生きてきたと言われる、恐らく現在最強の魔術師。

だが、通常の魔術師では、踏み込めない一線を奴は軽く踏み越える。奴は、魔術界最大のタブーを容易く破った。人工的な生命の開発を、奴の知能はいとも簡単に成し遂げた。それによって生まれた生物に、奴は自分の身の世話をさせ、研究に没頭した。これだけであれば、俺たちが出張る必要はない。

だが奴は天才だった。天才と呼ばれる所以は、ブレーキが存在しないことにあった。奴には、倫理観によるブレーキは存在せず、自分以外の全てを使って研究をしてもいいと本気で考えている。その全てには、「世界」も含まれている。

試作魔獣や失敗作。それは一体一体が世界を崩壊させかねないほどの力を持つ。それを、あろうことか人間界に放す。例えば、廃棄物処理用魔獣と俺たちは戦ったことがある。その時は、俺たちもかなり油断していた。用途的に、強さを甘く見ていたんだ。だが、誤算だった。なんとか討伐はしたものの、被害は大きく、近くにあった村が一つ跡形もなく消えるほどの被害が出たのだ。あの時から、俺たちは鍛錬を重ね、かなり強くなったが、それでも安定しては討伐できない。特に、殲滅用魔獣の強さは尋常ではなく、俺やモールだと、圧倒的に火力が足りず、絶対に倒せない。俺たちの中で、アイツを倒せる可能性があるのは、アニマとストロだけだ。と言ってもその二人でも、楽に勝てるほど甘くはない。そのサポートとして、俺が入るわけだ。


「さて、見えてきたぞ。」

俺たちの目の前には、俺たちと同じくらいの人型魔獣がいた。フードをかぶっており、顔は確認できない。だが、フードから覗く眼は漆黒で、なんの光も宿していなかった。

「相変わらず、殲滅用と言っときながら、かなり小型だな。」

「油断しないでくださいよ。これまででも経験しているから、大丈夫だと思いますけど。」

そう軽口を叩き合いながら、警戒を強める。

魔獣がこっちを向いた。背筋が凍る。この感覚だけは、何度やっても慣れない。間近に迫る、死の予感。

「サンタイノ生命体ノ敵意ヲ確認。殲滅ヲ開始シマス。」

そう言うと魔獣は体から細い砲身を体の隅々から出し、銃口をこちらに向け、魔力弾を発射してきた。凄まじい威力と弾速。そして連射力。1発でも食らえば致命傷。死への恐怖を俺たちは必死で躱す。避ける。やり過ごす。躱しながら、アニマは近づく。

「ガァァァ!!」

アニマの雄叫びが辺りに響き渡る。アイツは、まるで獣のように、魔獣に襲い掛かり、近接格闘を開始した。アイツの魔法は動物の能力を再現する。その能力には、五感も含まれ、今アイツは、猛禽類並みの動体視力を持ち、それを利用して、魔力弾を躱しながら近寄ったのだ。近接格闘が開始され、アニマを除く俺たちへの射撃は収まり始めた。今のうちに、俺たちも近接戦に入る。俺はアニマのサポート。ストロは、とどめの準備に取り掛かる。

当然サポートも簡単な仕事ではない。ほぼゼロ距離のため、始点を見極めなければ致命傷は免れない。さらに、アニマはこっちのことは気にせず戦うため、アニマの攻撃にも気をつけなければならない。

俺の攻撃はまず魔獣には効果はない。外骨格が硬すぎて能力の引き寄せによる衝撃も効果は薄い。だがそれでいい。俺の仕事は、一瞬の隙を作ることだ。

 こういう時には、転生者の高火力が羨ましくなる。もし俺が転生者ならば、外骨格くらい、一人で剥がせるだろう。

「おい!そろそろ隙が出来ないのか!?」

 アニマに呼ばれ、我に帰る。

「うるせぇやい!」

 殲滅型となると、隙を作るのも一苦労だ。さらにはコイツは叡智神印の魔獣。

だが、俺にも譲れんものがある。今世界は、ちょっとした不手際でも瓦解しかねんほどに暗闇に満ちている。コイツ一体だけでも対処を間違えれば、世界は崩壊する。

 俺たちのようなちっぽけな存在だけではもう支えきれん。だが、世界を照らす炎の薪となることはできる。俺たちはその一つでいい。

 だから、その灯火が出来上がるまで、この世界を守らねばならんのだ!

「あ″あ″あ″あ″!!」

 俺は恐怖を振り払うように叫び、相手に向かった。

 その突進は相手にダメージを与えられるようなものではなかった。だが、それでもこちらに一瞬意識を向かせるには十分であった。

 魔獣がこちらを向く。銃口全てが俺を狙う。無機質でありながら、敵意を含んだ殺意が向いたのが分かった。

「いい隙だ」

 5体を獣と化したアニマが構えていた。その構えはまるでツノを持った龍のような凶暴性があった。

「龍王拳・凶龍刃!」

 瞬間、アニマの拳は刃となった。ガリガリと凄まじい音を立てながら魔獣の外骨格を砕いてゆく。

「見えたぞ!核が!」

 アニマが叫ぶ。魔獣の装甲が剥がれ、その中から淡く光る球体状の核が見えている。魔獣の核は魔術で作られており、物理的な破壊は不可能である。そのため、高位の魔術師による術式の解読が必要になる。ストロはそのエキスパートだ。その上、魔法も核の破壊に適した能力である。

「あいあい。そんな叫ばなくても分かってますよ。」

 ストロはすぐには動けない魔獣の懐に入り込み、魔法を発動させた。奴の魔法は、

「分解」ストロが理解しているものの全てを分解できる。そして、ストロは魔術研究の天才であった。

 核は光を失い、砂のようになり、消え去った。魔獣の目も同様だった。体も動かなくなっていた。

「ふう… 。やはり殲滅型相手は骨が折れる。命が何個あっても足らない。」

「殲滅型に限って言えば、僕がいないと核の破壊もできないのもネックですね。あまりにも複雑な術式なせいで、解読にも時間がかかりますし。」

 アニマとストロはため息を吐きながらそんなことを言い合っていた。そうしていると、モールとレニーの行っていた地域から、討伐完了の狼煙が上がった。ストロの言うとおり、殲滅型でなければ、単独討伐も可能なんだ。かなりタフな仕事にはなるが。

 それでも今回の危機は脱した。それでもやはり疲れる。今日も生き延びたが、明日も生き延びれるかは分からない。神々が気まぐれを起こせば、それだけでももう終わりになってしまう。この盤面は俺たちがどう頑張ってもひっくり返ることはない。俺たちでは役不足なんだ。

「今俺たちが歩んでいる道は正しい道なんだろうかねぇ…。」

 アニマはそう呟く。これは冗談まじりだ。こいつも分かっている。そして口には出さないが、ストロも分かっているだろう。

 そう。俺たちの歩む道の先に、光があるのかは分からない。一寸先どころか今いる場所すら暗闇の中にあり、どこが前なのかも分からない。

 だが、諦めて歩を進めなくなった瞬間、光への道も閉ざされる。ならば、どんな方法であろうとも、引き返すことになろうとも、たとえその先にあるのが、さらに暗い闇だったとしても、俺たちは進み続けなくてはならない。

 アニマの問いに対する答えはこうだ。

「正しき道かなど、もう分からない。それを知るには、俺たちはもう進み過ぎた。ならば、今俺たちにできることは、ただこの暗闇に閉ざされた道に一歩を踏み出し続けることだ。今ここにあるのが暗闇ならば、もうここにいる意味はない。例えさらなる暗闇が先にあろうとも、折れなければ光はそこにある。」

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