第54話 聖女、出陣する。(上)
翌日。
ライオネルからもろもろの準備が整ったと言われたわたしは、
「そういうわけでして、今からシェンロンに行って神龍さまとお話して来ようと思います」
『ついに神龍のヤツと対面かー。がんばってねー、アタシも応援してるから。あとピンチになったら、ちゃんとアタシがあげたネックレスの力を使うんだよ?』
「はい、ありがとうございます!」
水龍さまに出立のご挨拶をしてから、愛用の祭具をもって待ち合わせ場所である王宮の中庭へと向かった。
もちろん水龍さまにもらったネックレスも忘れずに身に着けている。
中庭にはライオネルの他にもう1人の人物がいた。
そしてわたしはその人に見覚えがあった。
「えっと、あなたは確かあの時の傭兵団の指揮官さん?」
わたしがブリスタニアに来る時に乗せてもらっていた隊商の馬車。
それを護衛する傭兵団を指揮していた、ひとかどの人物さんだった。
「ブリスタニア王国でその名を馳せる聖女クレア様にお見知りおきをいただき、光栄に存じます。ブリスタニアにいらしてからのご活躍のほどは、いくつも耳にしております」
「えへへ、ありがとうございます。でもどうして指揮官さんが?」
イマイチ話が飲みこめてないわたしは「ふぇ?」って感じで小首をかしげた。
「実は初めて会った時からずっと、彼とは定期的にやりとりを続けていてね」
「あ、そうだったんですね」
「彼はね、今でこそ傭兵団の指揮官をしているけど、元々はシェンロン王国第5師団の団長だったんだよ」
「ええっ!? そうだったんですか? どうりで言動が洗練されてると思いました」
「お褒めいただき光栄です」
「しかもだよ、彼はとある貴族の傲慢で非道な命令に逆らったせいで、軍を追放されてしまったんだけど。その相手って言うのが――」
「ま、まさか……」
その話を聞いたわたしの脳裏には徹頭徹尾1人の顔しか浮かばなかった。
「そう、ブラスター公爵家ご令嬢バーバラ・ブラスターさ」
「バーバラ、あんたって人はもう……どんだけ他人に嫌がらせしたら気が済むのよ……」
わたしは思わずため息をついた。
「悪女バーバラは今回の反乱で亡くなったと聞き及びましたが、同じくバーバラに酷い目にあわされた者として、ぜひともクレア様に協力させていただきたいのです」
「それはぜひともこちらからもお願いします」
バーバラが残したこの最悪の状況を止めるのが、ある意味わたしたちの復讐なのだった。
「クレア、さっき彼が第5師団の元団長だって言ったよね?」
「あ、はい」
軍隊の専門的なことはあまりよく知らないので、師団長って言われても大部隊の一番偉い人ってくらいの認識なんだけどね。
「そのシェンロン王国第5師団っていうのが、ちょうどキングウルフの討伐で国境付近に展開している部隊なんだよ」
「えーっと? ってことはつまり……」
「既に彼を通して第5師団に話はついている。彼の指揮する第5師団選りすぐりの精鋭騎兵部隊が、ボクと君をシェンロンの王都まで送ってくれる。ブリスタニア軍が勝手にシェンロン王国に入るのは外交問題になる。だけど――」
「シェンロン軍がシェンロン王国内を通るだけなら、何の問題もありません!」
「ふふっ、そういうことさ」
「すごいです! たった半日でこんな完璧な状況を作り上げちゃうなんて!」
何をどうやったかはまったく想像もつかないけど、さすがはライオネルだね!
大好き!
「そういうわけでまずはシェンロン軍第5師団の選抜エリート部隊と合流し、その後シェンロン王都へと向かう予定だ」
「道中に遭遇するであろうキングウルフの群れは、どうぞ私どもにお任せを。クレア様の薄皮一枚、傷つけさせはいたしません」
「戦闘にはボクも協力する。だからクレアは王都についてからのことだけを考えていて欲しい」
「わかりました。ライオネル、指揮官さん、護衛をよろしくお願いします」
「もったいなきお言葉、痛み入ります。それにしても、ハハッ。軍を追い出されてからはいさかか燻っておりましたが、久しぶりに祖国のために働ける栄誉にあずかったとあって、今から武者震いが止まりませんな」
指揮官さんは国を守ることを使命とする、誇り高き騎士団長の顔でそう言った。
こんな素晴らしい軍人さんを追い出すなんて、ほんとバーバラはどうしようもないな、と今さらながらにそのクズっぷりを再確認させられたわたしだった。
わたしたちは国境沿いでシェンロン軍第5師団の誇る選抜エリート部隊と合流すると、一路シェンロン王都へと向かった。




