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歴史

グレー

作者: いかすみこ

 Twitterのお題#30日物書きチャレンジの作品です。【グレー】という題名はフォロワーさんに提案してもらいました。その方が古典好きの方だったので、無理やり古典とグレーを掛け合わせました。


 源氏物語の花散里が大好きなので、思いの丈を末摘花ちゃんに代弁してもらってます。

 それではお楽しみください。

 今日は朝から大忙し。だって大好きな、あのお方がお渡りになるから。わたくしから訪ねて行っても良ければ毎日でも押し掛けるのに。同じお屋敷に住んでいるのに、本当に不便。にやにやしているわたくしを、侍女が気味悪そうに見ている。悪かったわね。わたくしが不器量なのは自分でもわかっているわよ。あのお方がお土産を持ってきてくれても、分けてあげないわよ。

 えっと香炉には火が入っているわね。こんな雨の日はうっとうしいけど、部屋に香りが行き渡りやすいのは嬉しい。

 それから絵物語。竹取にとりかえばや、秋好中宮さまが入内されたとき、頭の中将の娘と張り合うことになったと、うちの殿が対抗意識燃やして集めまくったのよね。部下たちの家の秘蔵品まで差し出させたのは若干引くけど、おかげでこちらにもお余りが来るのは嬉しい。今度、秋好中宮さまとも絵物語のお話ししたいわね。とても造詣が深いとお伺いしているし。我儘な坊ちゃんのお世話をされてたなんて本当にお気の毒。


「お渡りになりました」


 えっもうそんな刻。告げに来た侍女にすぐお通しするようにと伝える。


「末摘花さま。お招きありがとうございます」


「ようこそお越しくださいました、花散里さま。わたくし本当に楽しみにしていて」


 いつ拝見しても穏やかな表情に甘い声、それにお召し物も品が良くて。こんな素敵な女性をないがしろにしているなんて本当にあの殿は愚かだと思う。そのおかげで、わたくしの様な者でも親しくできるんだから、一生馬鹿でいて欲しいけど。


「相変わらず熱烈な歓迎ぶりね。それとも持参している手土産が目当てかしら」


「いえ、そんなことは」


 よりによってこんな時にお腹が鳴ってしまう。このお屋敷、食事は十分だと思うけどわたくしは他の人に比べてよく食べるのだ。



「本日は東の国でとれた渋い柿を干して甘くしたものと、炒り米を持ってきたわ」


 さすが花散里さまはわかっていてくださる。炒り米は食べている姿が卑しいからと高貴な方は厭うけど、お腹が膨れるし日持ちもするし最高なのだ。


「貴方はとても大きいものね」


「胴長ですから」


 くすくすと笑う花散里さま。


「殿にはそのように思い込ませておいたほうが良いわね。貴方の方がお背が高いと知ったら、またご機嫌を悪くして貴方の悪評を流すから」


「私の評判なんてすでに地に落ちていますよ。和歌も手習いも下手で空気が読めない行い。持ってる品も古臭いと」


 いまさら取り繕わなきゃいけないものなんて無い。気が楽だ。


「貴方はことさら、そのように振舞っているしね。場をわきまえない贈り物をわざと殿に届けたりとか。本当は和歌や物語だけでなく、漢文にも精通していると知ったら殿はどのような反応をするかしら」


 ぞっとした。殿が自分が姿の大きさだけでなく知識でも女に劣ると知ったら、陰湿な嫌がらせを仕掛けてくるに違いない。


「大丈夫、絶対に広めたりはしないわ。殿は本当に女を自分の都合に良い道具としてしか扱わないから。わたくしたちは幸いなことに容姿に恵まれなかったおかげで、執着から逃れられたけど、この間ご相談に来られた紫の上さまは本当にお気の毒だったわ。もうかかわりたくないから、必死に出家させてくれと訴えているのに殿は全く相手にしてくれないって」


 花散里さまの嘆息で、もうはるか昔に亡くなった自分の母を思い出した。


「わたくしたち女は、男どもが地位や権力をひけらかすための装飾品か、争いごとの勝者に与えられる戦利品ですから・・・」


 怪訝そうな顔をする花散里さま。


「わたくしは鬼のように変わった外見をしていますでしょう。実はわたくしの母は、海の向こうの大陸から献上品として船に乗せられ連れてこられたんです。母の一族はわたくしと同じような大きな身体で長い鼻、そして異常なまでに白い肌をしていたそうです。ただ母はさらに変わっていてその瞳は今日の雨の日の空のように、灰色だったそうです。珍しいからと売られたんですね。そしてこの国に来て、やはり物珍しいと父が手に入れたんです」

 

 紡ぐ言葉もないのか、驚きのあまり相槌すら打てない聞き手に一方的に語り続ける。


「母は雨の日になると決まって言うんですよ。【私の生まれた場所は日差しがとても強い、雨がほとんど降らない地だった。稀に私の瞳と同じような灰色の雲が空を覆うと皆がお祭り騒ぎになる。ただ私は生まれ故郷の地を訪れ、あの刺すような太陽と抜けるような青い空をもう一度見たい】と」


「母は生まれ故郷の言葉を使うことはほとんどありませんでした。ただ自分の瞳の色は灰色とは言わず頑なに【ぐれえ】だと言っておりました」


 長い一人語りをおえる。


「わたくしたちはいつ、道具ではなく人として生きられるんでしょうか?」


「そうね。千年後ぐらいには叶うと良いわね」


 何かを諦めたように雨の空を見上げる花散里さま。


 空の色は【ぐれえ】だった。

最期までお読みいただきありがとうございます。

古典が好きな方はお分かりかと思われますが、筆者には源氏物語の知識はありません。ヒロインたちの名前も漫画で覚えました。今回もWikipediaが大活躍しています。

歴史や古典に詳しい方、おかしい箇所があれば教えていただけると助かります。

 

末摘花ちゃん、気に入っているので他の人とも女子会をしてもらいたいです。空蝉や里帰りした玉鬘と会わせたら、光の悪口で盛り上がるだろうなあと。


誤字脱字報告を頂けると助かります。

ポイントも頂けると嬉しいです。

感想を頂けるとPCの前でひれ伏します。

書いてほしいジャンルやお題を提供していただけると喜びます。無茶ぶり待ってます!


明日は戦いシリーズの第4戦を更新します。読んで頂けると嬉しいです。


それではほかの作品でお会いできるのを楽しみにしております。

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― 新着の感想 ―
[一言] むちゃくちゃ刺さりました……。 過去に比べれば勿論遥かに生きやすくなっているものの、未だに女性であることでたまに「ん?」という扱いがあります。 ただ、それもこの彼女たちに比べれば本当に恵まれ…
[良い点] 物悲しさも静かな雰囲気でしっとりとした短編だなと思いました。 末摘花さんのお母様の故郷ってどこでしょう。「源氏物語」の切り取り短編かなと思うのですが、なんとなく異世界ものかなとも思ってしま…
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