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親友

 夜会から三日後。

 親友のエマがお見舞いに来てくれたので、もうベッドから出ることを許された私はエマをお部屋へお招きしました。


 エマはお部屋に入るなり、各所に飾られているお花に驚いている様子ですが、無理もありません。

 エド様の贈ってくださる花束はとても大きかったのでひと束で飾れたのは一日目だけで、二日目からは小分けに花瓶に挿してもらうと、お部屋がまるでお花畑のようになってしまったのですから。


「お加減はいかが?学校を三日も休むなんて驚きましたわ」

「わざわざ来てくれてありがとうエマ。もう熱も下がりましたし、明日は学校へ行けると思うわ」


 熱は昨日の夕方には下がったのですが、用心のために今日も学校を休まされたのです。

 あまり休むと授業についていけなくなってしまうので、明日は行こうと思っています。



 エマがお見舞いに持ってきてくれたお菓子を一緒に食べながら、久しぶりに二人でお茶会をしました。


 前回、エマとお茶会をしたのはエド様と出会う前日です。

 あの時の私は夜会へ行くより寝ていたいなんて思っていたのですから、その後の日々を考えるととても不思議な気分です。


 休日はなにをして過ごしていたかとお互いに報告し合っているうちに、私は段々と気分が重くなってしまいました。


 それに気が付いたエマに促され、夜会での出来事をお話しすることにしました。

 夢については秘密ですが、公爵令嬢様にお会いしたことや、私はエド様が大好きだけれどエド様は好意を寄せてくださるのに、好きとは言ってくださらないことなどを。


 エマはそれに対して「エドガー殿下にも色々とご事情があるのだと思うわ」と考え込みながら言いました。


 王族は自由に恋愛などできないので、気軽に将来に希望を持たせるようなことは言えないのではないかと。


 第三者から改めて言われると、この先が絶望的に感じられます。


 彼女はお茶を飲むと、改まったように私を見据えました。


「アイシャ、酷なことを言うけれどエドガー殿下との愛を貫き通したいのなら、愛人になることも視野に入れるべきだわ」

「あ……愛人……!?」


 私は持っていたクッキーを、ポロリと床に落としました。


 伯爵令嬢である私が愛人になるなど、考えてもみませんでした。

 どぎまぎしながら床に落としたクッキーを拾ってトレーに乗せると、エマは続けます。


「理解のある奥様なら離れに住まわせているところだってあるし、子供を養子に迎えてくださるところもあるわ」


 公爵令嬢様がおっしゃったのは、そういう意味だったのではないかとエマは言います。

 現状、どなたからの申し入れも受けられていないエド様のお心を掴むには、エド様が気に入ってくださっている私の扱いをいかに手厚くするかで、勝敗が決まるのだと。

 これからエド様の婚約者候補の方々が、こぞって私に接触してくるだろう。と、……そこまで聞いたところで彼女の性格を思い出しました。


「エマ……、小説の読みすぎよ」

「そうかしら?相手は王族ですもの、あり得ない話ではないと思うわ」


 エマは小説が大好きで、ついつい妄想を膨らませすぎる癖があります。


 彼女は自分の考えたシナリオに満足した様子で、お菓子を頬張りました。


 確かに最後の方はおおげさだと思いましたが、公爵令嬢様がそのような意図持って私に接触した可能性は高い気がします。


 私はため息をつきました。

 エマの言う通り、愛人としての人生も考えなければならないのでしょうか。


 一生結婚しなくても良いと思うほど、私は夢の中のエド様に恋をしていたのです。

 そのエド様が現実に現れてくれたのですから出会う前よりはずっと良いのですが、十五歳の私には簡単に決められそうにはありません。

 そもそも愛人がどういうものなのか、ざっくりとしか知りませんから。


 ただ近い将来、エド様とお会いできなくなるという漠然とした不安は和らぎましたので、エマの妄想には一応感謝したいと思います。


 エマは最後に「伯爵家から嫁いだ例がないわけではないわ。アイシャも諦めずにもっと行動に出るべきよ」と、激を飛ばしてくれました。


 お父様も前に言われたように伯爵家から嫁いだ例はあるのです。一度だけ。

 当時は国中が、大騒ぎになったと伝えられています。


 彼女は王族の、それも王の妻として嫁いだのですから。


 彼女はどのようにして王族へ嫁ぐ道を切り開いたのでしょうか、とても気になります。

 エド様の遠いご先祖様、私は貴女に敬意を表さずにはいられません。




 明日は学校帰りに気晴らしでもしようと、エマが買い物に誘ってくれました。

 買いたい物もありますのでエド様には悪いですが、もう一日だけお会いするのはお休みさせていただくことにします。



 その旨をお手紙にして使用人に届けてもらうと、エド様がお返事を書いてくださいました。


 封筒を開けた瞬間、エド様の香水の香りがふわっと辺りを包み、急にエド様にお会いしたくなりました。


 お手紙には『可愛いアイシャへ 会えるのが待ち遠しいです』と書かれていました。

 エド様が私と会うのを楽しみにしてくださっているとわかり、とても嬉しい気持ちでいっぱいになります。


 エマには謝って、やはりエド様にお会いしに行こうかと思いましたが、明日はエド様に贈り物をするための買い物がしたいので我慢することにします。


 エド様にはご迷惑をおかけしてしまいましたし、毎日お見舞いにも来てくださいましたので、私が買える物では心ばかりの品になってしまいますが、なにか贈り物をしたいのです。




 今日はエド様のお手紙を枕元に置き、エド様の香りに包まれながら眠りたいと思います。


 なにを贈ろうかと考えながら幸せな気分で眠りにつきましたが、今日も見た夢といえばエド様が私にすがるような視線を向ける夢でした。


 寝込んで以来ずっとこの夢ばかりです。

 エド様とお会いできないことが確定しているので、正夢ではなくこのような夢になってしまっているのでしょうか……。





 

 今日は、今週初めての学校です。


 寝込んで日が経っていたためすっかりと頭から抜けていたのですが、週末の夜会で私がエド様にエスコートされたことがまたも噂になっていました。

 エド様は、どなたかをエスコートして夜会に参加するのは初めてだったようで、あの時の大注目は皆様が驚かれていたのだと今頃になって気がつきました。


 エド様が言われた通り、本当に今までどなたもお誘いしたことがないようです。

 どうして初めてが私なのか、不思議でなりません。




 学校帰り。

 エマの馬車に乗せてもらい、街へお買い物に来ました。

 贈り物は学校にいる間もずっと考えた結果、私でも買えて頻繁に使っていただけそうなペンにすることにしました。


 エマにそのことを伝えると、お勧めの文具店があると連れて来てくれたそこは、王族御用達の文具店でした。


 普段、文具は使用人が準備してくれるので、自分でお買い物をするのは初めてです。

 ドキドキしながら店内へ入ると、店員がやってきました。


「お嬢様方、なにかお探しでしょうか」

「あの……、王族の男性にペンを贈りたいのですが」

「ただいまご用意致しますので、おかけになってお待ちください」


 奥の応接セットへ案内されてお茶を飲みながら待っていると、店員が何種類かのペンをトレーに載せてやってきました。


 王族に贈るにふさわしいお値段ばかりですが、なんとか持ってきたお小遣いで足りそうでほっとしました。


 どちらも綺麗な装飾で迷ってしまいます。


「エド様はどのようなデザインがお好みなのかしら……」

「普段身に着けているものは、どのような雰囲気ですの?」

「エド様はいつもシンプルな恰好で、装飾品といえば唯一タイを留めているブローチが……」


 私の瞳の色と同じだわ……。こんな偶然ってあるかしら。

 何種類もお持ちのようだけれどどの石も同じ色だったので、きっとお好きな色なんじゃないかしら。


 私は嬉しくなって「これが良いと思うわ」と、自分の瞳の色と同じスカイブルーの色が入ったペンを手に取りました。


 エマが「良いんじゃないかしら」と興味なさげに賛同するので、理由を聞かないのかと尋ねてみると。


「そんなの、まるわかりじゃない」


 エマは呆れたように笑いながら、お茶を飲みました。


 なにも言っていないのに、なぜわかるのかしら。とても不思議です。


 彼女は「リボンは、薄いピンクが良いんじゃないかしら」とつけ加えました。


 男性への贈り物のリボンとしては合わない気もしますが、ちょうど私の髪の毛の色と同じなので彼女の言う通りに薄いピンクのリボンをかけてもらうことにしました。


 綺麗にラッピングされた箱を受け取ると、エド様にお渡しするのがとても楽しみになりました。

 エド様が喜んでくださると良いですが。

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◆作者ページ◆

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