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身分差のせいで大好きな王子様とは結婚できそうにないので、せめて夢の中で彼と結ばれたいです  作者: 廻り
本編

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現実の彼

 長く感じられたキスの後、余韻に浸りながらそっと瞳を開けてみればエド様の艶やかな赤い瞳が間近にありました。

 こんなに近くで拝見するのは初めてでしたので、思わず見惚れてしまいました。


 エド様にいただいたネックレスと婚約指輪と同じ、とても綺麗な瞳です。


 今まで考える余裕がなかったのですが、ネックレスと指輪は同じデザインなのです。

 エド様はネックレスを作ってくださった際に、指輪も用意してくださっていたのですね。


 彼は私のためにたくさんの行動を起こしてくださったのだとさきほどのお話でわかりましたが、きっと指輪のように語ってくださらなかったこともたくさんしてくださっていたのでしょう。

 それを思うだけで、幸せ過ぎて胸がいっぱいになってしまいます。


「エド様が注いでくださったたくさんの愛情を、私はいくら返しても返しきれそうにありません……」

「僕の望みは唯一つです、ずっと僕のそばにいてください。……僕の望みを叶えてくれますか?」


 エド様は少し不安な表情で、私を見つめられます。


 彼が望まれることは、婚約する前と同じです。

 レストランのお庭でもお伝えしたのにまた同じことを願うなんて、婚約してもまだエド様は不安なのですね。


「……いいえ、それはできません」

「アイシャ……」

「それは私の望みなので、エド様が叶えてください。ずっと私をエド様のおそばに置いて安心させてほしいのです。私の望みを叶えてくださいますか?」


 彼は驚いた表情で固まってしまわれましたが、最後まで聞き終えると少し笑みをこぼし「アイシャの願いは必ず叶えますので安心してください。……ありがとうアイシャ」と、私を抱きしめてくださいました。


 それからエド様は、プロポーズしたからには結婚式の日取りを決めなければと言い始められ、三年後、私のお誕生日に結婚式を挙げてくださるとお約束してくださいました。


 そのやり取りの中で昨日の夢での会話が出てきましたが、お互いに知っていて意図的に口にしているのですから、これは正夢とは言えないと思います。




 帰りの馬車の中で、エド様に二人での夢はどこから記憶があるのかと尋ねられ、私はプロポーズをしてくださった日とお答えしました。


 私にとって全ての始まりは、エド様がさきほど言ってくださったお言葉なのです。


「僕はアイシャが生まれた瞬間から知っているんですよ」

「生まれた瞬間……、ですか?」

「はい、アイシャはコウノトリに運ばれて空からやってきたんです。僕は気になってコウノトリをずっと見ていたら、突然コウノトリがアイシャを落としたんです。慌てて駆け寄ると、アイシャは雲でできた揺りかごの中で気持ちよさそうに眠っていました。あの時が、アイシャがこの世に生まれた瞬間なのではないかと思っています」


 エド様は「生まれたばかりのアイシャは、とても可愛らしかったですよ」と懐かしそうに微笑まれました。


 私の夢はいつもメルヘンな世界でしたが、生まれた瞬間からそうだったとは思いませんでした。

 雲の揺りかごなんて、とても素敵です。


「コウノトリさんは、本当に赤ちゃんを連れて来てくれるのですね。私のところへも、いつか来てくださるでしょうか」


 お義姉様のところへはまだ来ていないので、運が良ければ運ばれて来るところを見られるのではと期待しています。


 私の質問にエド様はとても驚かれた表情をされました。


 「どうしました?」と首を傾げると「いえ……突然、今後の課題に直面してしまいまして……」と呟かれると、すぐに表情を戻され「そうですね、僕たちが結婚して一年以内には来てくれるんじゃないでしょうか」と教えてくださいました。


「そんなに早く来てくださるのですね、とても楽しみです。でもどのようにして結婚している人を見分けるのでしょう?」

「僕も詳しくは知らないので、調べておきますよ」


 笑顔で請け負ってくださると、エド様は私が生まれた後のことをお話ししてくださいました。


「僕は毎日、アイシャをあやすのが楽しみだったのですが、おもちゃには反応してくれましたが不思議と僕自身には反応してくれなくて、一度も目が合ったことがなかったんです。それでも僕はアイシャの成長を見るのが楽しくて、毎日おもちゃを通してアイシャと遊んでいました。そういう日々を過ごしアイシャが生まれて三年が経った頃、初めて僕に視線を合わせてくれたんです。にっこり微笑んでくれたアイシャがとても愛おしくて、思わずプロポーズしてしまったんです」


 エド様は恥ずかしそうに微笑まれると「僕に目を留めてくれて、ありがとうございます」と言われた彼の瞳が、僅かに潤んでいたように見えたのは気のせいだったのでしょうか。


「どうして私たちの夢は繋がっているのでしょうか」

「僕も不思議に思って調べたことがあるのですが、そういった事例を見つけることはできませんでした。アイシャの話と照らし合わせると、おそらく僕がアイシャの夢に入り込んでいるのでしょう。どうして繋がってしまったのかはわかりませんが、繋がったきっかけはアイシャの誕生でしょうね。それまでの僕の夢は、極々平凡なものでしたから」


 とても不思議な出会いですが、そのおかげで私は今こうしてエド様と一緒にいられるのですから、この出会いには感謝しかありません。

 夢で出会っていなければ、エド様とは婚約はおろかお知り合いになることすら難しかったでしょうから。


 そのような環境では、私はきっと人影からひっそりとエド様の麗しさに魅了されていただけなのでしょう。


 けれど、私を認識していないエド様も一度は見てみたかった気がします。

 噂で聞くエド様と私の前にいるエド様とでは、ずいぶんと印象が違いますので。






 翌日エド様は、国王陛下に呼び出されたそうです。


「国の宝である魔法を私用に使ったのは、お前で二人目だと怒られてしまいました」

「あの……、婚約は……」

「心配いりませんよ。国王といえども公式に交わされた契約書を無下にはできませんから。父はため息をつきながら了承してくれました。公爵家と多少揉めるかもしれませんが、一度承認された婚約を再度議会にかけることはできませんので安心してください」


 エド様の魔法がとけてしまったら、全てが元に戻ってしまうのではないかと少し心配していましたが、エド様が言われた通り行動の結果はそのまま残るようで安心しました。


 魔法にかかっていた人々も大半はエド様の魔法について知らないので、多少の違和感は感じつつも魔法だったと気がつくことなく日々を過ごすのだそうです。


「ところで、エド様で二人目というのは……?」

「過去にもいたんですよ。魔法を使って強引に結婚をした先祖が」

「……もしかして、王妃になられた伯爵令嬢様の旦那様ですか?」

「その通りです。彼はすでに王だったのですから僕より質が悪いですよ、確実に王家の血が薄まるんですからね。詳しい内容は伝わっていないのですが、当時は両親の承認だけで婚約が成立していたようで、どうやらそこを魔法で掻い潜ったようです」


 国王陛下は、また法律を追加しなければならないと嘆いておられたようです。

 そしてエド様は私たちに子供ができても、決して王族と結婚させないと誓約書を書かされたのだとか。


 王族がそこまで血に拘るのには理由があり、血が薄まりすぎると七歳で授かる特別な魔法が授からなくなるのだそうです。

 それを聞いてしまうと、私たちはとてもわがままなことをしてしまったのだと言わざるを得ませんが、幸いなことにこの国には王子様が後三人いらっしゃいますし公爵家もたくさんあるので、王族の結婚相手がいなくて困るという事態にはならないでしょう。


 ほかの王子夫妻全員に男の子が生まれなくて、私たちにだけ生まれてしまったなんて未来があれば話は複雑になるでしょうが。



 お話しが終わりエド様は私を連れてお部屋を出ると、違うお部屋へ向かわれました。


 中に入ると上のお兄様と画家が、絵を描く準備を整えて待っていました。


「エド様は、これは……?」

「新聞に婚約の記事が載るので、僕たちの絵も載せてもらおうと思いまして」


 どうやら、週に一度発行される貴族向けの新聞に載るようです。


 婚約の記事で絵を載せることはあまりないそうですが、エド様は私が間違ってもほかの誰かに口説かれないよう、顔を周知させておきたいのだそうです。


 そんな心配なさらずとも、エド様以外に好意を寄せられたことなど一度もないどころか、ダンスのお誘いすら受けたことがないというのに。


 二人並んで描いてもらっていると、画家が申し訳なさそうに立ち上がりお兄様に耳打ちしました。


「殿下、せっかくのご婚約の記事ですし、もう少し微笑まれてはいかがですか」


 エド様はどのような表情をされていたのでしょう?


 お隣を見上げると、エド様は穏やかに微笑みながら私を見返してくださいます。


「困りましたね……。笑顔はアイシャ専用なんです」


 そう言いながら私の頭をなでてくださるエド様のお顔はとても麗しく、このような表情のエド様が新聞に載ったら新聞の争奪戦が始まるのではないかと思います。


 私も数部は確保できるよう、予約しておかなければなりません。


 お兄様と画家は考えた末、私たちが向かい合う構図に変えました。


「……エド様、ずっとこの体勢は恥ずかしいですね」

「そうですか?恥ずかしそうに僕を見つめているアイシャをずっと見ていられるなんて、この上ない幸せですが」


 向かい合わせに座って絵が完成するまで、見つめ合っていなければならないのですから、今にも逃げ出したい気分です。


「エド様だけ涼しいお顔をしているなんてずるいです……」

「アイシャが愛を囁いてくれたら、すぐにでも血の巡りが良くなると思いますよ」


 エド様が照れたお顔は、とても可愛いのです。


 突然見たくなってしまった私は、小さな声で囁いてみました。


「エド様……、大好きです」

「僕も大好きですよ、アイシャ」

「……赤くなっていらっしゃらないではありませんか」

「すみません、今のはとても可愛らしく思えたもので」


 どうやらエド様に乗せられてしまったようです。


 小声でとはいえ人前で好きだと言ってしまったことが恥ずかしすぎて、モデルをしていることなどすっかり忘れて両手で顔を覆いました。


 画家は申し訳なさそうにまた立ち上がると、お兄様に耳打ちしました。


「まったく……、二人とも真面目にやらないと夜中になってしまいますよ!」


 私だけでなくエド様まで叱るなんて、私が知らない間にお兄様とエド様はずいぶんと仲が良くなったようです。


 数日後、発行された新聞には婚約の記事と結婚式の予定日、そして向かい合う私たちの絵が載りました。


 私だけが恥ずかしそうな表情をしていて、一ヶ月くらい誰にも会いたくない気分になりました。


 けれどこうして新聞に載ると、本当に婚約が認められたのだと実感できて、ついつい何度も新聞を見返しては顔が緩んでしまう私がいるのも事実です。


 エド様には気が早いと言ってしまいましたが、私も三年後がとても楽しみです。


 それまでには、エド様に見合う大人の女性になれたら良いと思います。

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◆作者ページ◆

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