思い出のネックレス
エド様はそれから、もう一つの箱を手に取り私に渡してくださいました。
こちらも開けるよう言われ、開けてみると……。
「こちらのネックレスは夜会などで使ってください。普段使いのほうでは見栄えしませんから」
「あ……あの……、これ……」
私は驚いてエド様を見つめると、彼は「ん?」と穏やかに微笑みながら首を傾げます。
箱に収められていたネックレスは星屑を散りばめたようなデザインで、小さな透明の宝石がいくつも瞬いています。
それはまるで幼い頃に見た夢の中、エド様が星を集めて作ってくださったネックレスのようではありませんか。
エド様には、夢の中での記憶があるのですか?
一瞬そんなことが頭をよぎりましたが、私を見つめる彼にはそんな素振りはありません。
あれはあくまで私の夢なのですから、そんな都合の良いことはありませんよね……。
性格が似ているので、思いつくことも似ていらっしゃるのでしょうか。
「いえ……とても素敵なので驚いてしまいました。このような高価な品を二つもいただいてしまって良いのでしょうか……」
「アイシャのために作らせたのですから、気にせず受け取ってくれると嬉しいです」
エド様は苦笑しながら「飛びついて喜ぶくらいでちょうど良いのですが」と言われます。
確かに夢の中の私なら飛びついて喜んだことでしょうが、現実の私ではそのように大胆なことは……と思ったところで、エマの言葉を思い出しました。
『アイシャも諦めずにもっと行動に出るべきよ』
エド様が飛びついて喜ぶのをお望みなら、そうしたほうが良いのではないでしょうか……。
とても恥ずかしいですが、私は勇気を振り絞ってエド様に体を向けると、彼の背中に腕をまわしました。
「エド様、素敵な贈り物をありがとうございます。一生大切にしますね」
なっ、なんとかお礼は言えましたが、エド様が無反応です……。
不安になりそっとお顔を見てみると、そこには真っ赤なお顔になっている彼がいました。
しかも、膝に乗っているせいでお顔がとても近いです。
慌てて離れようとしたところで、エド様の腕に阻まれてしまいました。
「本当に抱きついてくれるとは思いませんでした……。とても嬉しいです」
「……はい」
エド様……、ご自分からはよく抱きつかれるのに、なぜ私から抱きつくとそんなに照れてしまわれるのですか。
改めて、自分の大胆さに恥ずかしくなってしまいました。
この状況をなんとかしなければと思っていると、私の鞄が目に入りました。
あの中にはエド様への贈り物が入っています。
今こそお渡しするチャンスではありませんか。
「エド様……、実は私もエド様に贈り物があるのですが……」
「僕に?」
エド様は驚いた表情で私を見ました。
そろそろ膝から下ろしていただきたいので鞄に入っていることを告げると、下ろしてくれるのではなく鞄を取ってくださいました……。
今日は帰るまで膝の上なのでしょうか……。
お礼を述べてから鞄を開けて、中でリボンを整えてから箱を取り出しました。
「お見舞いに来てくださったお礼なのですが、受け取っていただけますか?」
「嬉しいです、ありがとうございますアイシャ。……もしかして、昨日会えなかったのはこのためだったんですか?」
私はうなずき「秘密にしていて申し訳ありません」とエド様にお会いできなかったことへの謝罪を改めてすると、エド様は口元を押さえて視線を逸らされました。また顔が赤くなっています。
「さきほどはくだらないことで、すねてしまいました……。すみません、アイシャ」
「すねて……いたのですか?」
「はい、アイシャが会ってくれなかったので思いきりすねていました。僕を想って行動してくれていたなんて、とても嬉しいです」
エド様もすねることがあるなんて。また新しいエド様を発見してしまいました。
箱を開けてくださるようお願いすると、丁寧にリボンをほどき箱を開けた彼は、とても驚いたような表情をされました。
「エド様はいつも同じ色のブローチをされているので、お好きな色なのではないかと思いまして」
「とても好きですよ……。一生の宝物にします」
ペンを私の顔の横に並べてエド様は微笑まれました。
私の瞳の色と同じだということに、気がついてくれたのでしょうか。
自分で選んでおきながら、少し照れてしまいます。
エド様はペンを胸ポケットに挿すと、私を抱きしめてくださいました。
彼の暖かさがとても心地よいです。
このさき、エド様との関係がどのようになるのかわかりませんが、彼のことが大好きという事実は変わらないのです。
私はもっと心を強く持って、一方的な感情で彼を困らせないようにしなければ。
少しでも長く、この暖かさを感じていられるように……。
週末は一日目はお城でお茶会に、二日目はお城での夜会に誘ってくださいました。
病み上がりなので無理はしないように言ってくださったのですが、この通りもう元気ですしエド様にいただいたネックレスをしていきたいと申し上げると、エド様は楽しみにしていますと言ってくださいました。
屋敷に戻ると、ちょうど玄関ホールで上のお兄様に会いました。
お兄様は少し話があると、私のお部屋へ行く許可を求めてきました。
どうやら私の帰りを待っていたようです。
お兄様はお部屋に入るなり「なんだこれは」と驚かれました。
「エド様がお見舞いに贈ってくださったのです。お花畑みたいでしょう」
「毎日来てくださっていたらしいな……。そのネックレスもいただいたのか?」
お兄様は早くも、赤い宝石がついたネックレスに気がついたようです。
「後でお父様にご報告する予定だったのですが、もうひとついただいてしまいました」
星屑のネックレスも見せると、お兄様はため息をつきました。
「恐ろしいほどの溺愛っぷりだな。エドガー殿下のイメージが総崩れだ……」
「そうなのですか?エド様はいつもお優しいイメージですが」
「それはお前にだけだ。エドガー殿下はいつも無表情で誰かと親しくしている姿など見たことがないぞ」
お兄様はいったいどなたのお話をしているのですか?
エド様はそのような方ではありませんが……。
首を傾げていると「そのエドガー殿下について、少し懸念事項があるのだが……」と、お兄様はこめかみを押さえます。
「お前が寝込んでいる間エドガー殿下は、原因は自分にあるのではと大層、気に病まれていたそうだ」
すねていたなんて軽い言葉で片付けていらっしゃいましたけど、やはり傷つかれていたのですね……。
どうしましょうと口を開きかけると、お兄様が先を続けました。
「それはまぁいい。お前が幸せそうに帰って来たところを見ると、殿下の憂いは晴れたのだろう」
「そ、そんな幸せそうにしていましたか?」
「今にも天使の羽根が生えて、飛んでいきそうだったぞ」
お兄様はからかうように笑います。
そんなに顔に出ていたなんて恥ずかしいです。
両手で顔を覆っていると、お兄様はさらに先を続けます。
「だがお前に会うまでの期間、執務がなにも手につかなかったようでかなり滞っているらしい。それでなくてもお前に毎日会うようになってから、殿下は一日中執務に追われているらしいからな。アイシャ、会うのを少し減らせないのか?このままでは殿下が倒れるぞ」
「エド様は今日、私が足りないと?動けなくなるとおっしゃっていたんです。会いたかったと、その……抱きつかれてしまいましたし、減らすのは良くないんじゃないかしら……」
お兄様は頭を抱えて、うなり声を上げました。
私としてもエド様にはお体を休めていただきたいですが、今日だって少しでも話がしたいと、結局はいつもより多くお時間を取らせてしまったのですから。
私が言ったところで、休んでいただけるようには思えません。
「お前は殿下のお心を鷲掴みにし過ぎだ……。会うのを減らせないのなら、一緒に執務室にいてもらうしかないぞ……」
「私が一緒にいても、お邪魔にならないのですか?」
「殿下に執務をしていただくという意味では、むしろありがたいと思われるだろう……」
「それなら私はエド様のお隣でお勉強しています。ねぇお兄様、今日はエド様にペンの贈り物をしたのですが、執務で使ってくださるかしら」
「喜んで使うだろうさ……。ついでに褒美の菓子でも作ってやれば、喜ぶと思うぞ……」
お兄様は投げやりに言い捨てると「評判に傷が付かないか心配してやったのに、惚気られただけかよ」とため息をつきながらお部屋を出て行きました。
お兄様の提案を飲んだのに、なにが不満だったのでしょう?わけがわかりません。
ただお兄様の言う通り、エド様が倒れてしまわれては困りますので、明日は万全の準備で挑みたいと思います。





