第1話 高校での日常
新作です。
それではどうぞ!
高校の昼休み、俺は高校に入学してからの付き合いである白鳥幸助と窓側の一番端の席で一緒に昼食を食べていた。
教室内は弁当を食べながら雑談をしていたり、数人集まりながらスマホゲームをしている生徒などが多数で、俺らは一応前者の部類に入っていた。
(ふぁ……空気が暖かい。こんな日は外であいつと弁当食べたいな……)
弁当の出汁巻き卵を口の中に放り投げて咀嚼。可愛い幼馴染のことを考えながら教室の窓から覗く、青々しく茂った大きな木や雲一つない晴天を見渡す。
もぐもぐ……。うん、いつものことながら美味い。
「……い。おい斗真、聞いてんのか?」
「……ん、すまん。景色を見ながら弁当を食べるのに夢中で聞いてなかった」
「教室でピクニック気分かっ。いやまぁ確かにお前の作った飯はうまいけどさ」
俺にも一個ちょうだい、と言いつつ残り最後の一つとなった卵焼きを手づかみで掻っ攫っていく。
はぁ、コイツ毎度のことながら当たり前のようにして俺の弁当から一品持っていくよな。白鳥幸助なんていう"幸せを呼ぶ白鳥"みたいな縁起の良さそうな名前してる癖に……。ったく、食べ物の恨みは大きいんだぞ?
……まぁ、すごい美味そうに食べるからその行為を受け入れてしまっている俺も俺なんだけど。
でもなんだかそれが日常茶飯事になっているのも癪なので、じとっとした視線を向けておく。
「……オレのいる?」
「幸助にも良心があったのは意外だけど、男の食いかけなんているかバカ」
「最後のバカは余計じゃね!?」
申し訳なさそうに食べかけの焼きそばパンをすっと差し出されるも、俺は丁重に断る。
安心しろよ、親しい奴じゃなきゃ滅多に暴言を吐かない俺がお前に暴言を吐きまくってるんだ。信頼の証に決まってんだろバカ。
決して、決してさっきの卵焼きの恨みなんかじゃないぞ。うん。
「ところでさぁ、さっきの生物の授業でいきなり抜き打ちテストとか酷くね? 普通事前に俺らに知らせておくべきだよなぁ?」
「それだと抜き打ちの意味がないだろ。泣き目を見るのは勉強してない奴の自業自得だ。……ん、おい。制服のボタン取れ掛かってるぞ。食べ終わったら縫ってやるから脱げ」
「いやん、えっち♡」
「はったおすぞ気持ち悪い」
目の前の幸助がくねくねしだしたので、俺は冷めた視線を向ける。だが幸助はそんな俺の視線をものともせずに冗談冗談、とけらけらと笑いながら手に持っていた焼きそばパンに噛り付いた。
俺は溜息を吐きながらも、ふっと表情を緩める。
よく同級生からは眠たそうな顔で何を考えているのか分からない。だけど実際話してみると面倒見が良く優しい、という謎の人畜無害的な評価を受けている俺の名前は桐生斗真。
決して友達は多くはないが、この日常的な高校生活はとても充実している方だと思う。
俺は昼食を食べ終えると、颯爽とコンパクトサイズの裁縫道具を取り出す。ん、と手を差し出して幸助の制服のブレザーを脱ぐように伝えた。
取れ掛かっているボタンの糸をハサミで全部切り、手際よく針の穴に糸を通すとそのボタンを制服に縫い付けていく。
はぁ、コイツ野球部だからな……。
「大方制服を着たまま何時間もキャッチボールでもしたんだろ。糸がほつれる原因になるから、せめてキャッチボールする際は脱ぐように前に何度も注意した筈だよなぁ……?」
「へへっ、すいやせんっ」
もう既に諦めの境地に至っている俺。さっさと終わらせようと考えていると、目の前で頬杖している幸助がこちらをじっと見ている事に気が付いた。
「ん、どうした?」
「オレにはなんでお前に彼女が出来ないのかすっげぇ不思議だよ」
「急にどうした嫌味か良いご身分だなおいコラ」
「いやいや純粋な疑問なんだよ。勉強と運動は中の上で料理も裁縫も上手い。たまに口は悪いけどなんだかんだ優しいし気遣いも出来る。いくら常に気の抜けたサイダーみたいな顔してても、女子にモテると思うんだけどなぁ?」
「お前やっぱ俺のことディスってんだろ」
「いったぁ!?」
年下の可愛い彼女がいるからといってふざけたことをのたまう幸助の手の甲に、針の先を軽く刺して制裁をくだしてやる。「血!? 血ィでてる!?」と大げさにはしゃいでいるけど安心しろ、絆創膏は常に常備してる。
ボタン止めの手を止めてぺたりと絆創膏をその患部に貼ると、幸助は複雑そうな表情をした。
「マッチポンプするくらいなら針で刺さなきゃいいのに……」
「痛みは身体に覚え込ませないと意味ないだろ?」
「こっわ」
ボタン止めの手を再開させると数秒間沈黙が続く。幸助は気まずそうに金色の短髪をがしがしと掻くと、そのまま言葉を続けた。
「なぁ、ぶっちゃけ気になってたんだけど柴崎さんはどうなんだよ?」
「はぁ?」
「だってお前らって―――」
幸助が言葉を続けようとするが、次の明るい声に遮られる。
「―――ねぇねぇ! 二人ともなんのお話をしてるのっ?」
ミルクコーヒーに角砂糖を何個もぶち込んだような甘ったるい元気な声。身長145センチという小学生に間違われそうな低身長。ツーサイドアップテールに纏めている艶やかな長い紫髪。
そして制服の上からでもこれでもかと存在感が強調されている豊かな胸を持った美少女が俺の側で微笑んでいた。
そう、この可愛い女の子こそが俺の幼馴染である柴崎くるみ。俺と同じクラスで、先程幸助が俺との仲を探ろうとした元気ハツラツな美少女である。
「やぁ柴崎さん。相変わらずちっちゃくてカワイイね。牛乳飲んでる?」
「ちっちゃくないもんっ! 毎日飲んでるもんっ!!」
「お、おぉう……!」
抗議するように両手で拳を作りながらぶんぶんと上下させるくるみ。その度に大きな胸がぶるんぶるんと揺れる。
その間近の素晴らしい光景に思わず手を合わせて拝みそうになる俺だけど、幸助がその光景をスケベな気持ち悪い目で見ていたので目つぶしをしておく。
「目がぁ!? 目がァァァッ!!」と震えながら机にうつ伏せになるが、彼女がいるというのに人の幼馴染の素晴らしい胸をガン見した罰だこの野郎。
あと放課後になったらこのことを後輩の彼女にチクってやるから覚悟しろよ。あの娘お前のことメチャクチャ好きみたいだし後が怖いよなぁ?
「ぐ、ぐぅぅ……っ! い、いや柴崎さん。さっきオレが話そうとしてたことだけど、柴崎さんって斗真と幼馴染な訳じゃん? でも、ただそれだけの関係なのかなぁって思って!」
「んー? それだけってどういうこと? あっ斗真! 今日もお家にきて一緒にマンガ読んだりゲームしよっ! 今日はぜーったいに負けないんだからねっ!!」
「ああ、わかった。ウチで作ったコーヒーゼリーも食べるか?」
「うんっ! 食べる食べる!! 斗真が作ったお料理はなんでも美味しいからね!! ……で、あれ? し、白鳥君のお話ってなんだっけ?」
「いや……うん、なんでもない」
そっか! と元気に返事すると「くるみちゃんお菓子あるけど食べる―?」という女子グループの声に「たべるー!」と反応して俺らのもとから去ってしまった。
くるみは高校ではずっとあの調子だ。可愛い見た目と元気な話し方、幼い容姿から愛されマスコットとしてクラスのみならずこの学校中から微笑ましい目で見られている。
密かに高校内では『LMSくる民党』なんて宗教があるくらいだ。
前に声を変えた黒ずくめの奴に拉致られて『我々はくるみさんと幼馴染である桐生さんとの間を密かに見守らせていただきます。プライベートは絶対に干渉しないよう団員に固く言っておりますのでご安心を』と一方的に言われたのを思い出す。
因みに"LMS"というのは"ロリを"、"見守り"、"すこれ!"の略だ。……決してサイズの順序のことじゃないぞ。
(ま、俺とくるみ二人だけのプライベートに干渉しないで貰えるのは凄く助かるけどな。……くるみの本当の性格のこともあるし)
そう考えている内に俺はボタン止めをし終えた。
よし、出来たぞ、と声を掛けながら制服を差し出して幸助を見る。するとなんだかじとっとした目で見ている事に気が付いた。
「……せいぜい青春を謳歌するんだな。サンキュ」
「? あぁ、元からそのつもりだけど?」
俺にはお前と何気ない会話ができるこの平穏な高校生活と、大好きなくるみの部屋で一緒に過ごす日々があれば十分だからな。
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