第十八話 新たな食材
「僕の名前はスズキ・ハルト。アラタとは二カ月前に出雲で知り合ってなぁ、同郷だった事もあって、意気投合したんだがぁお互い用事があってなぁ…だが、さっき偶然再会して、今に至るって訳さぁ」
そう言ってハルトは俺にいい笑顔を向け、俺は感謝を込めて頭を下げお礼を言う。
「あの時はありがとう、本当に助かった」
ハルト真剣な表情を浮かべて質問してくる。
「っで、大切な人は助けられたのかぁ?」
俺はミーナを見ながら返事をする。
「あぁ、お陰でご覧の通り、元気になったよ」
「そうか!君が祟りを受けた子かぁ、元気になって良かったなぁ」
ハルトはミーナを見て回復した事を祝福した。
そんなミーナは驚きの内容に怯えた表情を浮かべ聞き返す。
「た、祟りって…どーゆう事…ですか?」
俺はカバンから、見窄らしいが目を惹きつけられる一振りのナイフを取り出して、机の上に置いきミーナに問い掛ける。
「このナイフの事を覚えているか?」
「これは…海竜のお腹の中で私が使っていたナイフですか?」
半信半疑で答えるミーナに向かって首を縦に振り話を続ける。
「そうだ、このナイフは『阿漕な小刀』と言って、神の祟りが込められた祟りのアイテムなんだよ。祟りの内容は…
阿漕な小刀
《禁漁地である阿漕ヶ浦で、密漁をしていた漁師が魚を捌く時に使っていた為に神に祟られた小刀》
天照大神の祟り(神聖属性)
一度でも使用した者は利己的でしつこく、ずうずうしくなり。義理人情に欠けあくどいこと。特に、無慈悲に金品をむさぼる性格になる様に心を支配さてれて、得た金品の量に応じて寿命が減る。」
「えぇ〜!」
大声を出し驚きを露わにするミーナに、「あの時は…」と言って当時の状況を語る。
海竜を殺した後、人で言う所の蝶形骨洞(副鼻腔の奥にある蝶形骨の空洞)の辺りを砕いて、頭蓋内から脱出。
簡単に言えば、脳みそが溶けて、鼻から乳牛の状態…っである。 南無南無…
外に出た俺は、直ぐにミーナのいる胃袋へと向かう。
道中、顔を真っ赤にして怒りなが、心配と安堵の涙に濡れるミーナの姿を思い浮かべていると…突然、全身に耐え難い激痛が走る。
そして、頭の中に一つのスキルが浮かぶ。
スキル『登竜門』
効果…種族変化 竜種
激流、竜門を越えた鯉の如く、竜種へと至る。
筋肉が千切れ骨が砕ける様な激痛が続く中、自分が巨大な竜になった時の事を考える。
今、竜になれば海竜を内側からブチ破るだけでなく、ミーナを押し潰してしまう!
気力を振り絞り踵を返してきた道を戻るが、無情にも意識が薄れ始める。
「ミーナから…離れないと…早く…とお…く…へ」
身体の至る所がボコボコ膨れ上がり…その直後、全身の毛穴からブシュゥゥーっと血が吹き出し、俺は意識を手放した…
…意識を取り戻した俺は、霞む目で周囲を見回し自分が置かれた現状に愕然とした。
「なんじゃこりゃぁぁぁ!」
叫ばずにはいられなかった!
血に染まる薄暗い暗い洞窟の中、竜の声が木霊する。
そこには、全長50cmの小さな黒い竜…
「50cmってなんなんだよ!元の俺の三分の一以下じゃねーか!しかも、この異世界で50cmって地球換算で10cmだぞ、10cm!カブト虫サイズの竜ってもう竜じゃないだろ!」
羽の生えたトカゲにジョブチェンジした、アラタの叫びは心に悲しみと切なさと虚しさを残し闇の中に消えていった…
「確かにさ、大きくなったらミーナ潰しちゃうかもって心配しよ、大きく成りたくないって思ったよ…だけど、これは…あんまりじゃないかな〜」
渋面で目頭を押さえ、大きな溜息を吐いた。
ミーナを迎えに行く為、その場を飛び立つ。
道中ミーナと出会わない事に一抹の不安を感じながら飛び続け、30秒ほどで胃に到着すると。
そこには、ボートの中で倒れているミーナがいた。
慌てて近寄り声を掛けるが、意識がない。
呼吸は…している。
出血は…っと目を凝らしてミーナの身体を観察すると、見える!
まるでフルカラーのMRI検査の画像だ、さらに異常個所は強調された状態で見える。
これが、竜種のアビリティー『竜眼』の能力だ。
心臓の動き、血液の流れ、胃や腸の動きからその中身まで全てがフルカラーで見えてしまう。
と言うか、これは…見たく無かった…
しかし、ミーナの身体が心配だ!
意を決して観察を続けると胸と背中に打撲痕があるだけで、それも致命傷ではない。
そして、ミーナの頭 海馬の辺りに黒いモヤが見える。
黒いモヤは頭頂部から半透明の黒い毛糸を伸ばしている、それを辿って行くと一振りのナイフに行き着く。
そのナイフを見ると俺の頭に情報が浮かび上がる。
阿漕な小刀
《禁漁地である阿漕ヶ浦で、密漁をしていた漁師が魚を捌く時に使っていた為に神に祟られた小刀》
天照大神の祟り(神聖属性)
一度でも使用した者は利己的でしつこく、ずうずうしくなり。義理人情に欠けあくどいこと。特に、無慈悲に金品をむさぼる性格になる様に心を支配さてれて、得た金品の量に応じて寿命が減る。
どうやらミーナの意思が無いのは、このナイフの祟りの影響みたいだが緊急性はなさそうだ。
ならば、今優先するのは安全の確保だ
幸いこの体は、なりは小さいが竜種と言うだけあってチカラはかなりある。
海竜の横っ腹を爪で切り裂き、ボートの船首に付いたロープを引いて外に引き摺り出す。
外は洞窟のようで、出口の方から微かな光と波の音が聞こえてくる。
ボートを安全な場所に移し、継承したスキルから『治療術』を見つけてミーナ傷を癒す。
「傷だらけだな…女の子なのに、ごめんな不甲斐ない主人で…あと問題は『祟り』か、何か良いスキルは…」
・登竜門…激流、竜門を越えた鯉の如く、竜種へと至る。
登竜門派生効果
竜眼…生物や物質を透視して鑑定が出来る。
竜肉…竜皮…竜脳…竜玉…竜根………
「色々あるが、今役に立つのは『竜眼』だけだな…あとは…」
・身体強化
・属性効果無効
・属性変化
「属性変化か、これで神聖属性に対抗でき…」
属性変化…日に一度、自分の攻撃と触れた対象の属性を変化させる(神性属性以外)、複数の属性の混合も可能、ゆえに海竜とは人種が付けた呼称であり属性を表しているものでは無い、ちなみに海竜は日焼けマッチョ無毛オッサン好き露出羞恥責め属性であった…
「そっちの『属性』かよ!!…だが考えようによっては、幅広い属性に対応出来るのか…しかし、海竜も哀れだな…死んだ後『属性』を暴露されて、それが特殊『属性』メガMAX盛り…でも羞恥責めが好きみたいだから、いいのかな?海竜の事はさて置きミーナの『属性』を変えよう、ナイフの祟りが『利己的でしつこく、ずうずうしくなり。義理人情に欠けあくどいこと。特に、無慈悲に金品をむさぼる』だから…利他的であっさり、しおらしく。義理人情に厚く善良で。特に、慈悲深くに金品に無欲な属性になれ」
俺はミーナの額に触れてスキルを使い、様子を見る事にした。
他に良いスキルは…
・ブレス
「おぉ、ブレス!男として凄く気になる!」
ブレス…属性変化で選択した属性のブレスを口臭と共に吐出す
「海竜のブレスって…」
・変態
「へ、変態っ⁉︎」
・変態…他の種族に変態出来る(大きさも自由)
「こ、これは!」
元の自分を思い浮かべてスキルを使う、すると一瞬にして…
「戻ったぁぁぁ〜」
思わず飛び跳ねて喜んでしまった。
竜の姿はカッコイイだが不便な事も多いし、人前に出れない、俺は人として生きたいのだ。
次は大きさを…
そしてまた、一瞬にして身体が10mまで大きくなった。
「イィ〜、よっしゃぁー!」
俺の叫びに反応したかの様に、ミーナは意思を取り戻すと頭を押さえながら身体を起こして呟く。
「ご主人…様?」
「おぉ、ミーナ起きたか!それで体調どうだ?」
そして、ミーナは顔を赤らめ恥ずかしそうに俺を見つめて、
「ご主人様…大きい…です」
その一言で、自分が産まれたまま姿である事に気付き、身体のい恥部を隠す。
「海竜から継承したスキ…」
「ご主人様〜」
ミーナは俺の言葉を遮ち、飛びかかる様に抱きついて、耳元に唇を近づけ甘い声で囁く。
「大きくて、とても立派なお姿です♡」
ミーナは、なにの事を言っているのか?
だが、その言葉は俺の理性を飛ばすのに充分なチカラと魅力を持っていた…
俺はミーナを抱きしめて、この三日間を思い起こす。
ミーナと出会った時や風呂場に寝室…数多くの誘惑、エデンの園に行きながらも、サイズの違いから悶々と過ごす日々、大きくなりたいと切に願ったあの時の思い…それが、今…叶う。
気が付くと、俺はミーナを押し倒し獣の様に覆い被さていた!
ミーナはそんな俺を驚きの表情で見つめ、顔を赤らめてユックリと目を閉じる…
ミーナからのOKサインを見て、囁くように言葉を紡ぐ。
「ミーナ…今は身体を休めなさい」
俺は血の涙を流しながらも、誘惑に耐え切った。
ヘタレと笑いたくば笑え!これはノックターンではないのだ!対象年齢は守らなければならない!
ミーナはさっきとは別の驚きに目を見開き、眉をハの字にして抗議する。
「そんな〜、二人共生きて残れて、吊り橋効果でテンションアゲアゲ!さらに、今のご主人様のサイズなら『約束』も期待以上、もう限界知らずで何処までもイケるのにぃ〜!」
う、うん ミーナのあんまりなカミングアウトとキャラの崩壊っぷりに、若干引きつつ。
「ミーナ、家に帰るまで油断してはいけない、沢山ケガもしてたし、家にはイチゴ達が待ってる。それに…ソーナ達の事も報告しないと…」
沈痛な面持ちで語るアラタに、ミーナも悲しい表情で目に涙を浮かべて首肯し言葉を紡ぐ。
「そぉ…ですね…早く帰って…皆んなの最期を報告しないと…ですね…」
「あぁ早く帰ろう」
家で待つイチゴ達を思い出し、語り会うアラタ達だが…その家で待つ者はおらず、イチゴ達が悲惨な最期を迎えたことを知る由もなかった。
「俺は船の残骸から服を取ってくる、ミーナはここで休んでてくれ」
「私も…」
「ヤ・ス・メ!」
一緒に行こうとするミーナの言葉を断ち、強く伝える。
「…はい」
立ち上がり、海竜の方へと歩き出す。
「海竜美味し〜い!味付けもしてないのにこんなに美味しいなんて!」
焼いた海竜の肉を頬張り、その味を大絶賛するミーナ。
俺は服を手に入れた後、船の残骸を薪がわりに海竜の肉を焼いていた。
「美味いだけじゃないぞ!部位によって違うが色んな効果があるんだ」
「どんな効果があるのですか?」
「例えば、
・竜眼…生薬としての効能は滋養強壮、疲労回復、不眠症改善、貧血予防、肥満改善、健胃整腸に効果がある
・竜肉…肉質が柔らかくトロける様な舌触りでどの部位も非常に美味しい、滋養強壮、疲労回復効果がある
・竜皮…コラーゲンたっぷりで美容効果絶大、綺麗な人はより美しく!そうで無い人も…それなりに…なる、アンチエイジング効果あり、鞣して作ったバッグはセレブに大人気!
・竜脳…美食家が愛する珍味中の珍味!
・竜玉…雄の竜だけが持つ貴重な玉で一頭に二つしか存在しない!精力が強い、子宝に恵まれぬ王侯貴族が大枚をはたいて購入する一品!興奮催淫効果があるので高血圧症や心臓の弱い人は取り過ぎに注意しましょう
・竜根…雄の竜だけが持つ貴重な肉棒、強靭な力を持つ、食すと柔らかい、早い、立たない症状が改善する、こちらも王侯貴族に大人気
・竜肝…解毒効果が非常に高い、刺身を胡麻油と塩につけて食べると癖がなくとても美味しい
・竜血…スッポンの生き血より高い効果がある、まさに月とスッポン!
竜骨…いい出汁が取れる、軟骨は唐揚げにすると絶品
とかあとは…ってミーナ?」
ミーナは目を輝かせヨダレを垂らし俺を見つめる。
「ミーナさんなぜ、手に持っている肉ではなく、俺を見てヨダレを垂らしてるのかな?」
「ご主人様は竜種になられたのですよね」
「そ、そうだね」
「すぐに、再生しますよね…」
「…す、するね」
「海竜より柔らかそうですね〜」
「…!食う気か?俺を食う気なのか⁉︎」
「…じょ、冗談ですよー、食べちゃいたいほど愛おしいのは事実ですけどぉ〜、ほんとうに食べたりしないですよ」
そう言って、小さな声で「たぶん」と付け加えた。
「最初の間はなんだ!最後に たぶんって言ったよなぁ!食うなよ!ほんとうに食うなよ!絶対に食うんじゃないぞ!」
その日ミーナは眠りにつくまで『アラタな食材』から目を離す事は無かった…




