第十六話 変態さん達の下剋上
ここは学校の体育館程の広さがある、海竜の胃袋の中である
俺達は船の残骸の上でランタンの灯りに照らされ話し合う
「先ず、当たり前の事だが俺達が生き残る為の唯一条件は海竜を殺す事なんだが…」
と言ってミーナがどこからか手に入れたナイフを見る
「こんなナイフで殺せないだろうな…正直、今はコイツを殺す方法がサッパリわからん!そこで一分一秒でも長く生きる為の準備しようと思う」
「はい!」
「不幸中の幸いに、この船は半分以上原型を留めている、この中から傷薬と武器と衣類、大きな布、あと大工道具を探そう」
「大きな布と大工道具ですか?」
「この中での生存率を上げるには、胃酸から身を守る物が必要だから、あそこの救命ボートに一手間掛けて作ろうと思う」
「イ・サン?」
「それは韓流ドラマだ!胃酸、消化液!」
「あぁ消化液の事ですかわかりました、それで、はんりゅうどらま とはなんですか?」
「それは後で教えるから、早く探しに行こう」
「わかりました、後で教えて下さいね♪」
いや、そんなに好奇心で目を輝かせないでくださいよミーナさん
探索中、いつもの様にミーナの肩に座り耳たぶに掴まって、スキルに付いて聞いてみた
「ところで、ミーナは『解体』以外のスキルはあるの?」
「解体以外ですと… 苦痛耐性と…せ、性感度上昇です…」
モジモジとして段々と小声になって…
熱ッ!耳たぶが異常なまでに熱を帯びてきた
「生還度上昇!luck上昇系⁉︎最高じゃないか!今の、いや これからの俺達にはとても必要な夢と希望とロマンに満ち溢れたスキルだよ!どこまでの上昇効果があるのか確かめて見たいな」
「こ、こんな時に こんな場所でなんて…ご主人様は変態さんなんですかぁ?い、嫌ではありませんが…私としては落ち着いた場所でユックリじっくり確かめて欲しいです♡」
恥ずかしがりながらも、満面の笑顔を見せるミーナ
変態の称号には疑問を感じるが…
「じゃ、じゃぁ今度、落ち着いた場所でユックリ…な約束だぞ」
「はい♪約束です♡」
「あぁ因みに俺のスキルは毒の牙、毒耐性、筋力増加、跳躍力増加、欠損部再生(主要臓器以外)、成長率増大 ピット器官だな、どれも胃袋中じゃ役に立たないけど…」
「毒の牙でいけるんじゃないですか!」
「サンドサーペントから継承したスキルだから効果はないよ、蛇毒はタンパク質が素になってるから胃酸で分解される、例え効果が有ったとしてもこのデカ物の致死量には足りないな」
しばらく探索をして、傷薬と服が二着、手袋と靴、干し肉と酒の入ったボトル七本、桶が二つと大工道具を手に入れデッキに戻って来た。
「大きな布は見つからなかったですね」
傷薬を使いながら残念そうに呟くミーナに、前を指差して何処かのバーのマスターの如く応える
「あるよぉ」
ミーナは指の指し示す方を見て声を漏らす。
「あぁ〜」
そこには半ばから折れた帆柱に垂れ下がる帆があった
「ミーナは服を着たら、救命ボートを覆える位の大きさに帆を切っておいて、あと端切れでマスクを作って、終わったらここで待ってて」
「わかりました、ご主人様はどこか行かれるのですか?」
そんな、捨てられた仔犬みたいな目で見ないで欲しい…
「ちょっと、そこまで確認と素材の採取に行ってくる」
そう言って俺は二つの桶をヒモで繋いで落ちていた木の板を持って片方の桶に乗り込み胃液の海に漕ぎ出した。
「桶の船に板の櫂〜 京へはるばる上り行く〜っと」
続きどんなんだったっけ?
先ず向かったのは、胃酸の海に漂う野盗?の死体、近ずいて皮膚の状態を確認する。
「糜爛は……してないな」
胃酸はpH1〜2の塩酸だ、その中に浸かって爛れてないって事は、海水を大量に飲んで胃酸の濃度が薄くなったんだろう。
次は胃壁に向かう。
塩素濃度が低い表皮粘膜上皮から粘膜を採取し空いてる桶に入れる。
胃酸が分泌されるまでの時間余りなさそうだ。
船に戻ると切り取った帆を広げてミーナが待ていた。
「ミーナお待たせ、この液を帆に塗り込んでおいて俺はまた採取して来る」
その後、五回採取して切り取った帆全体に塗り込む事が出来た。
作業が終わった頃ミーナは顔を顰めて疑問を口にする。
顰めっ面も可愛いな〜チクショー
「ご主人様この臭い液はなんですか?」
「胃の粘膜だよ、何もしないよりは胃酸への抵抗力が上がるはずだ、この布で救命ボート全体を包む、先ずは布がズレない様に釘を三箇所打ってボートに仮固定する」
「はい」
コン、コン、コーン
コン、コン、コーン
コン、コン、コーン
「布を釘で打ち付けて固定する、乗る所は弛みを持たせておいて」
「はい、は〜い」
コン、コン、カン、カン、カッカーン
コン、コン、カン、カン、カッカーン
コン、コン、カン、カン、カッカーン
コン、コン、カン、カン、カッカーン
コン、コン、カン、カン、カッカーン………
「内側から棒を立ててテント状にして」
「は〜い」
ガサ、ガサガサ、ガサガサガサ
「最後に船首に長いロープを結び付けて、釘を打って」
「はい!」
クルクル、ギュッギュッ
コン、コン、カン、カン、カッカーン………
「これで完成!お疲れ様でした」
ミーナは額の汗を袖で拭い、いい笑顔で返事を返す
「棟梁!お疲れ様でした!」
棟梁って…ノリノリだなぁ
しかし、コイツ意外と器用だな、これで生産系のスキルが手に入ったりしないだろうか…
「それでは、ミーナくん次の仕事だ!」
「はい!」
「ボートに付けたロープの反対側の端に細めのロープを繋げてくれ、これは我々を繋ぐ命綱になるので解けない様にしっかりと結び付けるんだぞ」
俺の言葉を聞いたミーナはコッテと首を傾げて返事をする。
「はい?」
「生物は死んだ時に筋肉のチカラが緩む、海竜も例外ではないはずだ!そうなると、身体中の括約筋が活躍しなくなる」
「はぁ〜?」
「よーは、肛門様がブチ撒けて垂れ流すんだよ」
「あっ、あぁ〜!」
「っで、胃の中の物は幽門から腸の方に流されてしまう、そしてコイツの腸は超〜長い!俺の腸でも8m位あるしミーナの腸は計算上40m位になる、コイツ大きさだと1km近く有るかもしれない、更に奥に行けば行く程とても危険な香りがする処だ!衛生的にも精神的にも嗅覚的にも!だから、この命綱が必要になる」
「わ、私の身体の中をいつ調べたんですかぁ〜!」
真っ赤な顔でお尻をおさえて何を言っているのか…
しかも、小声で「ご主人様はやっぱり変態さんだったんですね」って、そんな称号を勝手に付けないでくれ!本当に付いたら責任とってもらうからな!
「ウォホン!計算上の話で調べたわけじゃない。とにかく、俺はコイツを殺しに行くミーナはボートの中で待っててくれ」
「私も一緒に行きます!」
「無理だ」
「無理矢理にでも憑いて行きます!」
付くの字が違って聞こえるよ…
「わかった付いて来い、但し今から言う作戦に従え!」
「はい♪」
「今から俺は噴門を抜けて食道に行く…」
ミーナはまたもコッテと首を傾げて「食堂でご飯?」と呟いている。
「あの小さい穴を通って頭の方に行く。しかし、あの穴の小ささではミーナは通る事は出来ない!俺が先に行って穴を広げるからミーナは穴が広がったら直ぐに来てくれ、ミーナにしか出来ない重要な任務があるんだ!それまでは、胃酸から身を守りつつボートの中で待機している事、いいな!」
「…はい」
「不満って顔をしているな、この作戦の要はミーナだ!ミーナが無傷で向こう側に行けなければ…俺は死ぬ事になるだろう、心配してくれる気持ちは嬉しいが、二人で生きて帰って さっきの約束を果たす為には必要な事なんだ」
「約束⁉︎わかりました♡」
「よし!ではロープと七本のボトル、残った釘を全部、ボートに積んで出航だ!」
ミーナは何故かテンションMaxでモジモジしながら敬礼をして叫んだ
「サーイエッサー!」
…キャラとか行動とか色々ブレッブレッで、存在がゲシュタルト崩壊しかかってるけど大丈夫か?
「さ、さぁ 下剋上の始まりだ!」




