第十一話 ルプス
ソンタクンは街道を駆ける
己の持てる全ての力を、ただ駆ける事のみに使い
もう二度と大好きな主人を喪わない為に…
二週間前、ソンタクンは大好きな主人を喪った
子供のころ街道でモンスターに襲われていたところを助けられ、沢山の愛情を込めて育ててくれた主人!
その主人は二週間前にモンスター討伐に出掛けた、出発の日ソンタクンは鳴き縋った!自分も共に行きたい、主人の力になりたいと!
しかし、主人は言った屋敷を守れ、直ぐに帰って来ると!
だから、屋敷を守った!
主人が出かけて三日後、怪しい男達が屋敷に来た!怪しい男達は言う、主人は死んだのだと
信じられない!だから、追い返した!ウソをつくな主人は生きてる、直ぐに帰って来ると約束したんだと、思いを込めて牙を剥き吠え叫んだ!
五日後、食料は尽きた!
十日後、また怪しい男達が来た!主人は死んだと、またウソをつく!今度は噛み付く振りをした!腹は立つが本当に噛み付けば帰って来た主人に迷惑をかけるから、噛み付く振りをすると怪しい男達は逃げて行った
空腹で気が変になりそうだ!でも、あと少し待てば主人は帰って来る
十四日後、まだ主人は帰ってこない、今の姿を見たら主人はなんて言うだろう、毛並みに艶もなく痩せ細り毛で隠し切れない程肋が浮き出ている、早く逢いたい!抱きしめて欲しい!しかし、こんな姿を晒せば心配を掛けてしまう、身体が戻るまでは我慢しよう!
屋敷の外が騒がしい、怪しい男達ではない!匂いが違う!微かだが主人の匂いがする?
潜り戸が開く知らない女達だ!脅かして追い返そう
「ガルルルル…」
なかなか逃げない
しばらくすると、大きな肉を持って来た!
肉が目の前に置かれた、腹が減っていても食べ物で買収される程、落魄れてはいない!
「ガルルルル…ガルルルル…」
さらに語気を強め唸ると
主人の匂いを漂わせる、小さな男が肉を挟んで正面に立った
「「「「「「ご主人様⁉︎」」」」」
後ろの女達が驚いている
男は何も言わずに肉を食べ始めた
何がしたいんだ?
それでも、男から漂う主人の匂いが気になり、さらに匂いを探ぐる…
主人と共出掛けた家族の匂いもする?
主人を含めた沢山の人の血の匂い
死んだモンスターの匂い…
それで、気が付いた!主人はモンスターに殺されたのだと…
この男が主人の仇を取ってくれたのだと…
男は言った、笑顔でただ一言『食え』と
男が食った跡を舐めて、気が付いた事が確信に変わった…
悔しい!主人と共に逝けなかった事が…
寂しい!主人にもう会えない事が…
悲しい!主人に恩を返せない事が…
泣きながら肉を喰らった…
男は何も言わない!ただ優しいく見守ってくれている!
この男は主人の仇を取ってくれた恩人だ!
その恩に報いよう!
二君に仕えるのは憚られるが
恩着せがましく無く情け深い
この男なら主人に顔向けが立つだろう
そして、二度と主人を喪わないように命を賭して守ろう!
新たな主人は、明日から旅行に行くらしい
買い物について行くと、道中でまた留守番を言い渡された!付いて行きたい!
しかし主人は危険の少ない旅だと…
家族である女達を守って欲しいと…
そして体力を戻して元気になれと…
自分の身体を気遣ってくれた言葉を無下にする事は出来ない
渋々と留守番を受け入れる
しかし、先ほど女の一人から不吉話を聞く
急いで主人を追い掛けるが、出発した後だった、女達は絶望してへたり込む
その姿を見て 昨日、自分が抱いた、悔しさ!寂しさ!悲しさ!に心が張り裂けそうになる
「ワン、ワンワン」
女達に主人は必ず助けると告げ走り出した
やはり、体力がかなり落ちている!
思い通りに走れない!
それでも、全力で街道を駆け抜ける!
もっと早く!速く!疾く!
痩せ細った身体にムチを打ち駆ける!
自分に気合いを入れる為に吼える
「ワォ〜〜ン!」
ーーーーーーーーーーー
サクヤが幻術で馬車の位置を偽り
ソーナが弓と風の魔法を併用して足止めをする
野盗の勢いは落ちているが追撃を止める気配はない!
「あと20分位で岩美に着くだからもう少し頑張ってくれ!」
「「「「はい!」」」」
矢を射り、魔法使いながら返事をする
あと15分…
あと10分…
「ご主人様、もう矢がありません…」
「私も、幻術が…」
ソーナの矢が尽き、サクヤの魔力も尽きた
「ソーナさん後はお願いします!
ご主人様、どうかご無事で…」
「なにを言って…」
ミーナは精一杯の笑顔を浮かべ荷台から飛び出した!
そして、ミーナが着地する寸前その姿が一陣の風と共に搔き消える
「「「「ミーナ⁉︎」」」」
「ワォ〜〜ン!」
遠吠えと共に森にざわめきが広がる
遠吠えが聞こえた方を見ると
「「「「ソンタクン⁉︎」」」」
「あれは!ルプスか⁉︎」
街道から少し森に入ったところにミーナを咥えたソンタクンがいた
野盗はソンタクンの横を通り過ぎその姿がを見て驚きの声を上げる
森のざわめきが大きくなる
「物凄い数の野犬が近づいてくるですよ!」
ヒトミが驚きの声を上げた刹那
野犬の群れが大波の様にうねり、野盗を呑み込んだ…
俺は馭者のオッさんに声を掛け馬車を止めさせる
そして、馬車を止めた馭者のオッさんは回りを取り囲む野犬の群れに驚き気絶する
後ろを見ると野犬に襲われた野盗が悲鳴を上げながら、のたうち回っていた
しばらくすると、モーセが海を割るかの如く、街道を埋め尽くしていた野犬達が街道の向こうから馬車まで一本の道を示す様に左右に別れていった!
俺達が道に降り立つと、向こうから二つの影が走って来た
「ミーナ!ソンタクン!」
無事な姿を見て猛然と駆けて俺に飛び掛かる
ソンタクン
ミーナは後を追いかけるが追い付ける筈もなく、俺の下へと着いた時にはソンタクンに舐め回され涎まみれになっていた!
ミーナ、ソーナ、ヒトミが羨ましそうに見つめ、サクヤは楽しそうに笑っていた
落ち着いたソンタクンは野犬達に向き直り
「ワン、ワォォン」
と鳴いき
「ワォ〜ン」
と野犬は返事を返して森の中へ消えた
俺達は辛うじて生きていた野盗達を縛り上げ馬車に繋いだ
気絶している馭者のオッさんを起こして出発を促すが
「ギィヤー」
と悲鳴を上げ再び気絶する
馭者のオッさんの腹を見ると二本の矢が背嚢に深々と刺さていた
背嚢をとり再度起こして出発を促した…
岩美に到着したのは11時過ぎだった
警察に野盗を引き渡して、証明書を受け取る
ソンタクンも含め皆んなで昼食を摂り、1時間程休憩をした
休憩の後ソンタクンは
「ワン」
と鳴き家へと帰って行った
俺達も新温泉町へと出発した…
その後は順調に進み予定より遅くなったが、新温泉町に到着した
俺は野盗の言葉を思い出す
「あれは!ルプスか⁉︎」
ソンタクンの前の名前だろうか?
ルプスって確かラテン語で 狼 って意味だ
まあ、考えるのは後にして
「皆んな、町役場に行くよ」
「「「「はい」」」」




