第一話 Dead endフラグは欲しくなかった
ついさっき俺は巨大な蛇に丸呑みにされた…
暗闇の中タバコを吸いながら辺りを確認する。
ここは食道だろうか?
弾力がある肉壁はヌメヌメとした粘膜に被われた直径2m位のピンク色のトンネル状になっている。
食道の先には食い千切られた死体が道を塞ぎ、反対側は細く閉じられている。
どうしたものか……
出口は二つ、進むべきか戻るべきか?
入り口か出口か?
口から出るか黄門様から出るか?
口からは…出る前に噛まれて死ぬ確率が高い
黄門様は…辿り着く前に消化されるな確実にこのままだと後数十分で消化される
蠕動運動により胃へと運ばれているからだ
この蛇を殺して口から出る以外に助かる道はないが…
殺せる様な物など持っているわけがない
俺は、 冒険者でも… 騎士でも… ましてやチートスキル持ちの転生者でもない
安全な現代日本で上司のパワハラに耐える
何処にでもいるただの…サラリーマンだ
ナイフや剣など持っていない、ペンは有るが…
「はぁぁ〜〜」
紫煙と共に溜め息を吐いた
ポケットやバッグの中を探りながら今日此処に至るまでを振り返る…
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2泊3日の社員旅行で鳥取県に来ている、
2日目の今日は、鳥取砂丘での自由行動
午前中のパラグライダー体験を楽しんだ後、
午後予定しているラクダ遊覧まで同僚三人と一緒に砂丘を歩いていた。
「まだ時間あるしラクダに乗る前にメシ行かね?」
「ラクダ乗り場の近くに美味い海鮮料理が食える店があるみたいですよ〜
ほら見て下さい♪、この料理なんか凄く美味しそう♪」
マリのスマホの画面にはカニやエビの他数種の刺身とカーネリアンの様に鮮やかなイクラが、美しく盛り付けられたボリューム満点の海鮮丼が写されていた!
「これは、かなりやばいな!」
「おぉ、腹減ってきた早く行こぜ!」
暫くすると
「おい、あれラクダじゃね?」
「ほんとっスね!」
「このアングルは インスタ映えしそうだな」
「山田先輩もインスタやってるんスか?」
「これから、はじめるんだ!」
その時、砂を巻き上げながら一陣の風が吹く
「きゃっ!」
小さな悲鳴と共にマリの帽子が風に攫われた
「取りに行ってくるから先に店に行っててくれ! マリもな!」
「うん、ありがとう」
俺は帽子を追い掛け走り出す
「アラタ!早く来いよ」
山田の問い掛けに手を上げて肯定の意を示した
…五分後、やっとの思いで帽子を取り戻した俺は汗を拭きながら地図アプリで距離と方角を調べ、早足で向かう
「十五分か…」
……二十分後、まだ店の影すら見えない
地図アプリ上ではもう見えてもいい距離なのに
ドドドドドドドドドドッ
人を乗せた二頭のラクダが大きな地響と砂煙を舞い上げ向かってくる陽炎で輪郭がはっきりしないが大きな影だ
近づいてくる影を見て声を失った
「・・・・・・⁉︎」
距離にしてまだ200m以上離れているのに
間近で見るアフリカ象よりも大きい
大きい! 大き過ぎだ‼︎
距離100m
目算だがラクダの体長は15m位あるだろう
俺の知っているラクダは3m位だから約五倍だ
そしてその背に乗っている人間もデカイ!
一人は身長が7m位だろうか、粗末なローブのフードを目深に被り顔は隠れているが、ローブの裾から白い足が伸び素足のまま鐙にかけられていた
あとを追う様にやって来た、もう一人は身長は10m位だろうか、派手な服装の男で体形は宇宙戦争を題材にした映画のジャバ・ザ・○ットみたいな奴だ!
見た目以上に重いのだろうラクダは息も絶え絶え走っている、
そのジャ○が俺の横を通り過ぎる直前
ドォォォォォン!
大きな音と共に目の前にに砂煙が噴き上がった
「助けてく……」
ジャ○の叫びは自らの血飛沫が噴出す音に変わり辺りを赤く染め上げた!
そこには、シロナガスクジラを丸呑みにできそうな巨大な蛇がジャ○の上半身を喰い千切飲み込む姿!
逃げ出そうと踵を返した直後、巨大な蛇は俺を丸呑みにした……
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この蛇を殺せる物は…
三色ボールペン・・・一本
タバコ・・・二箱
電子ライター・・・一個
スマホに財布、腕時計 ソーラーバッテリー
充電ケーブル ショルダーバッグ 、マリの帽子
以上
うん、無い!
タバコの火を肉壁で揉み消すが火傷すらしない…
溜め息を吐きながら立ち上がる
やりたくないがしょうがない!
ジャ○の死体を探る
皮袋に直径30cmの硬貨が五枚
50cm程の鍵を下げたネックレス
15cmの骨の破片
以上
クッソッ‼︎ 碌なもん持ってね-な!
苛立ちを肉壁に打つけるが
叩いても蹴ってもノーダメージ
ジャ○の骨の破片を肉壁に突き刺し、刺した骨を抜いて肉壁を傷跡を確認するが貫通していなかった、
今度は貫通する迄、骨を推し進める
肉壁に肘まで埋まった所で突き抜ける感触と同時に今までに無い振動と のたうち回る様な衝撃で肉壁に刺した腕と骨が抜け肉壁に叩きつけられた
貫通しても穴を拡げられなければ脱出は出きないな〜
うん!無理だ‼︎
俺に残された時間はあと15分も無いだろう、今もなお着実に蠕動運動で胃へと運ばれている。
タバコに火をつけ肉壁にもたれ掛かり
この、絶望的なDead endフラグに諍うことを諦めた…