4、アンドロイドの少女
少女が顔を上げ、瞬きもせずどこかを見つめる。
そして一つ瞬きをして、こちらへ顔を向けた。
「……ミラノ・タチバナは、私のマイスターです。しかしそれ以上申し上げることが現在できません。」
「いいさ、俺はあんたを送り届ければそれで良いんだから。話せないなら話さなくていい。」
彼の言葉に、キャミーが少し呆れて首を振る。
「サトミも物わかりがいいわよねえ。まあ、危険を危険と思わない奴だし、サトミって。」
「悪かったな。」
「そう言えばそこで2ヶ月前、普通郵便の配達員が車を強奪されたわ。今じゃ車は高級品だもんねえ。何よりガソリンも高くて維持費が大変だけど。
こっちは車より郵便物盗られた方が痛手だけどね。」
キャミーが手を挙げため息。ダンクがドスンとサトミの隣に座り、意地悪く笑った。
「へっ、お前の駄馬なら奪われる心配もねーだろうさ。短足胴長、良くあれで早く走れるぜ。」
「はっ、どんなにデカイ馬でも、根性無しの臆病な奴ならいないと同じだろうよ。」
「てめえ!俺のエリザベスをバカにしやがったなあー!」
ダンクが立ち上がりソファーに足をかけ、グーをプルプル震わせる。
サトミも立ち上がり、ダンクと顔をつきあわせた。
「お前がベンを短足胴長のワガママで口が悪い駄馬って言うからだろうがよ!おう、いつでも勝負してやるぜ、かかってきやがれ!」
「何い!」
「やめんか!」
シュッと二人の顔の間にトレーが入り、キャミーが左右にそれを振ってバンバン2人の顔を叩く。
たまらず2人とも鼻を押さえてうずくまった。
「「いってえ!」」
「まったく、顔合わせればイチャイチャするんだから。」
「「誰がイチャイチャだっ!」」
ドアが開き、窓口嬢が顔を出す。キャミーを見つけて、指を立てた。
「ダンク、隣町へ特急のご依頼よ!キャミー受付お願い」
「ハーイ、……今からじゃ帰りは暗くなるんじゃない?大丈夫?」
「ダイジョウブイ、俺を誰だと思ってるよ!仕事だ仕事だっ!行ってくるぜ!
じゃな、サトミ!」
「ああ、行け行け!行ってこい!」
サトミとダンク、互いに親指を立てる。仲が悪そうに見えて、やっぱり気の合う友人なのだろう。
ダンクがガンベルトを腰に付け、少女にウインクして出て行った。
「ああ、やっと静かになった。」
サトミがようやく落ち着いて椅子に座り、少女に向かった。
「届け先まで、また追われるかもな。
まあ街中突っ切るからそんな派手なこともできないだろうさ。」
「何故追われるか、聞かないのね。」
少女が不思議そうに聞く。
普通興味は派手な方に向きそうだが、彼らは少女を届けることにしか興味がないようだ。
「まあね、俺たちは手紙を届けることが仕事で、手紙の中身に興味がない。そんな物さ。」
「でも、この現状の場合、情報は少しでも多い方がいいと思われるわ。」
サトミがふうんと足を組む。
まあ、話すというなら聞かないこともない。
「なるほど、では簡潔に話してくれる?」
少女が返答にうなずき、まばたきを止め、じっと目を見開いた。
「了解、簡潔にまとめます。
私はある施設に従事していました。
昨日12時47分、男5名、女1名構成の人間が施設に侵入、目標は私の確保だったと思われます。
的確な私の存在位置の把握による迅速でピンポイントな作戦行動は、計画的犯行約85%と推測されます。
彼らによって私は確保され、私はミラノ博士に危害が加えられるのを防ぐ為に同行することになりました。
その時自閉モードに入るよう命令された為、その後の情報は収集できていません。」
「ほんとに簡潔だな。しかし、ミラノ博士ってミラノ・タチバナだろ?」
「そうです、が、余計なことを話すなと命令されましたので、余計なことの対照をミラノ博士に関係することと判断をいたしました。よってこれ以上お話しできません。」
「あんたは良くできてるけど、ムラがあるな。妙に人間くさいかと思えば、無機質になる。」
「そう感じることがあるかもしれません。
会話は通常会話形態D—124—Aに設定されていますが、情報関係に入りますと処理能力の低下を防ぐ為スタンダードに切り替わります。」
「わかった。ミラノ・タチバナの家が、そのあんたを拉致した奴らの落ち合う場所というわけだ。
さて、ミラノ・タチバナ本人の確認が必要なんだけど、果たして本人が家にいるのかわかんねえな。
あんたは今、彼女の命を救うためと言った。つまり彼女は人質になっていると推測される。」
「お話しできません。推測は推測の域でしかありません。その確率は50%です。」
「別にイイさ、さっきも言ったろ?俺はあんたを届けることにしか興味はない。
あんた、馬に乗ったことは?」
「ないわ。」
「落ちたら壊れる?」
「そんなボロじゃないわ。それに私はER、『あんた』と言う名称ではないわ。」
またしゃべり方が変わった。
面白くてサトミが苦笑する。
「そりゃ悪かったな、俺はガサツでね。で、あんたの弱点は?」
弱点?
何かとんでもないことを聞かれて、キョンとする。
「あなたはバカ?」
「は?そうだな、ちょっとバカかもな。」
「私の弱点を聞いてどうする気?あなたの問いは、私を運ぶという目的に対する情報として、逸脱しつつある。」
「そりゃ悪いな。しかし聞いてなきゃ、いざというとき守れない。水は?」
「私はお風呂が好きよ。
ボディ中のサーモスタットが働いて、強制冷却に入る瞬間のゾクゾクする感じがたまらないの。」
思わぬ答えに、サトミが手を挙げ首を振る。
彼女のアンドロイドとしての情報量は、普通より遙かに人間くさいほどあふれている。
余程稼動時間が長いのか、完成度の高い優れたAIなのだろう。
言語もそのミラノ博士が設定したのだろう、確かに味が出てる。
「あんたとは気が合いそうだ。」
「そうね、私もそう思うわ。」
二人、顔を合わせてサトミが笑うと、少女がふと目を逸らした。
「ここ、3人なの?」
「いや、他にもポストアタッカーはいるぜ。人数は言えないけどな。」
「事務は他の部署には沢山いらっしゃるのに、ここは1人なのね。」
「ああ、先月強盗に入られてさ、重傷負ってやめたのさ。
エキスプレスは貴重品を届けることが多いから、狙われやすいんだ。求人はしてるんだけどね。
さてと……俺の名はサトミ・ブラッドリー。君はERでいいの?」
「私はER11(イーアールイレブン)。みんなERと呼ぶわ。」
サトミが荷受け表に記入して、彼女に笑う。
「エリーだな。」
「え?」
「ほら、なんとなくエリーって読めるよ。」
少女の唇がトレースして動く。
「エ……リー……」
「さて、と。」
サトミが書類を持って立ち上がり、釣られてエリーも立ち上がる。
しかし、彼女のワンピースを見て困ったようにアゴを撫でた。
「その服、可愛いけど馬には乗れねえな。」
「カワイイ?」
スカートをつまみ覗き込む。
服なんて人間に与えられた物で、彼女にとってはただの服でしかない。
「ああ、似合ってるぜ。」
「似合ってる?」
エリーが不器用に笑い顔を作り、サトミが思わず赤くなって鼻の頭をかく。
「ちぇっ、何か狂うなー」
額を荷受け台帳で叩き、ドアを開けてキャミーに声を上げた。
「キャミー、作業服でイイからズボン借りてきてくれ。」
「ハーイ!」
エリーが窓に映る自分の姿に気が付き、そっと覗き込む。そしてくるりと一回転回った。
アンドロイドって、どのくらいの設定にするか迷います。
人間臭いくらいか、まるで人間の様な感じか、言われないとわからなかったくらいか。
美少女としたので、まるで人間のようなアンドロイド少女って感じで。
これから二人の短い旅が始まります。
いや、一人と1体と一頭の。
それではまた。




