3、ロンド郵便局本局
町の中心部から少し離れた場所にある、ロンド郵便局本局。
郵便と貯金部門を業務しているが、ロンド市内の金融機関が現金を扱わないプリペイド事業に切り替えた為に、現金はここでしか扱っていない。
その為に、何度も武装した強盗に襲われたこともあり、厳戒態勢の中で通常業務を行っている。
局周辺は駐停車禁止、少し離れた指定駐車場しか使えない。
高い塀と金網に囲まれ、駐車場から歩き、ゲートでチェックしてようやく中へ入るのだが、天気が悪い時は足下が悪く極めて不評だ。
しかし、挙動不審な者は装甲車で連行されることもあるので、心なしか来局者の顔はこわばって見える。
中に入るとまず、普通郵便の受け付け。その奥では貯金部門が、金網と防弾ガラスで完全に仕切られた形で業務していた。
ポストサービスエクスプレスは、窓口は同じだが中では普通郵便部門とドアで仕切られて一つの事務所が与えられている。
実際の郵便は各所から集められて個々の区分で配達するわけだが、エクスプレスは人材不足で荒野を隔てた近隣1市3町までもが区分に入っていた。
燃料は貴重なだけに、車は市町間を日に1本しか行き来しない。
よって特急便は馬で行き来する為、おかげでいつも、盗賊に狙われるハメになる。
最近郵便物が増えて忙しいので、みんなグロッキー気味だ。
ドアを開けるとソファー2つにテーブルの応接セット、横に質素な事務机が並んでいる。
事務は仕分けの作業にも出るので、常時ここに座っているワケじゃない。
ソファーにはポストアタッカーのダンクが、ゴロンと寝て背もたれに片足を上げて休んでいた。
「どけよ、ダンク。お客さんなんだからよ。」
「ん……あー?客?ふあーーあ……あっ!」
少女を見て、慌てて飛び起きてシャンと座る。
ボサボサの髪を、手ぐしで急いで整えニッコリ微笑んだ。
「すいません、さっき帰ったもので。えーと、俺に客?」
「バーカ、彼女は荷物だよ。」
「荷物?!なんだアンドロイドかよ。キャミーは?」
「外で会った。ちょっと調べてくるってよ。」
「そっか、あー眠いー」
気が抜けてまたゴロンと横になろうとした背中に、サトミが刀のさやをドンと突き立てた。
「いてっ、なにすんだよこのガキ。」
「誰がガキだよ、たった3つ違いだろうが。座ってろ、ものぐさ野郎。」
「なにい!この野郎」
「うるさい、空きっ腹にひびく。明日にしてくれ。」
「なにい!」
グウウゥゥゥーーー……
いきなりサトミの腹が、大音響で鳴った。
結局あれから昼を食い損ねて、空腹も限界だ。彼女はパトカーで送ってくれたが、ベンは空腹で激しく機嫌を損ねていて、なんとかなだめて帰ってきた。今ごろ馬屋でたらふくエサを食っていることだろう。
「チッ、この野郎、覚えてろよ。」
「あーもう忘れた。ああ、気にせずにどうぞ座って。ちょっと俺、メシ食うから。」
怒る気も失せて、ブツブツ言うダンクが気だるそうに座る前に、少女が綺麗に足をそろえ座る。
金の柔らかにカールした髪と澄んだ青い瞳が美しく、整った顔立ちはなるほど人間離れしている。
水色のワンピースがよく似合い、上品な仕草は一般家庭にいたとは思えない。
トラブルを伝え聞いていたダンクは、訝しい顔でマジマジと見つめ立ち上がった。
「ふうん、こんな可愛いアンドロイドって初めて見たな。」
立ち上がって眠気覚ましにインスタントコーヒーを入れ、立ったままで飲み始める。
どんな用途のアンドロイドだろうかと、詮索しながら彼女を見ていた。
「そうか、ダンクは前線に出たこと無いんだな。前線にはアンドロイドって結構いたらしいけど。」
「ああ、サトミは前線にいたのか?」
「さあね、戦時中の事なんて忘れた。
あーあ、腹減って死ぬかと思ったぜ。
ベンにもブツブツ言われるし、冗談じゃねえあのポリ公、何度も何度も同じ事聞いてよ。」
待ちかねたように包みからバーガーとコーラを取り出し、バクンと食いつく。
次いでごくごくコーラを飲み、プハーッと息をついた。
「ハイ、サトミ元気?」
ドアが開いて、エクスプレスの事務をしているキャミーが入ってくる。
彼女は赤毛をポニーテールにした、小柄のややふっくらした23才の女性だ。
とは言っても度胸は据わっていて、以前強盗が押し入った時はサトミが来るまで銃で撃ち合いをしていた。
「ああ、グレそうになったけど。」
「アハハ!じゃあ特別に豆から美味しいコーヒー入れて上げるから機嫌直すのね。」
ソファーに座る少女の視線に気がつき、サトミがハンバーガーを一個差し出す。
「食べる?」
うなずき、貰って包みを開き食べ始める少女になんだか驚いて、男達が目を丸くした。
「へえー、なんだ、やっぱり食うんだ。」
「私が何で動くかわかってないわ。」
「え、メシ食って動くの?じゃ、排泄は……」
バーン!
後ろから、いきなりトレーが飛んでくる。
振り返るとキャミーが思い切りにらんでいた。
「いてえ!何すんだよこのババア!」
「ふん」
無視してドンッとサトミにコーヒーを出し、ニッコリして少女にコーヒーを出した。
少女も彼女の笑みに釣られるように、ようやく微笑む。何となく人間くささを感じて、キャミーが彼女の隣に座って覗き込んだ。
「ごめんなさい、野暮でがさつな奴らばっかりで。」
「ありがとう、お茶がある方がエネルギー効率がいいの。」
「ふうん、大変ねえ。」
「キャミー、それでミラノ・タチバナの住所はわかったのかよ。」
サトミがコーヒーの香りにホッとして、一口口に含んだ。バーガー屋にはコーラしかないので仕方なく買ってくるけど、じつはあまり好きじゃない。
まあコーヒーも、ミルクをたっぷり入れたカフェオレの方が好きなのだけど。
それを言うと子供っぽいと言われそうで、ガマンしてる。
「ええ、それがちょっとおかしいんだけどね。」
「何が?」
「それがどうも、書き換えが今日されてるのよ、今日よ。偶然にも見えないし、なんかトラブルっぽくない?」
「そりゃあ十分トラブルだろうよ、誰かに追われているのは間違いない。俺らは言われたように届けるだけさ。
特急便だしな。」
「登録住所はダスト地区になってるわ。あまり家のない空き家ばかりのところよ、滅多に配達物がない場所だけどちょっと遠いわね。着払いになるし、電話連絡しようかと思ったけど、電話は通じなかったわ。恐らく電話線が切られてるわね、人気のないところだし。盗まれてるんじゃないかしら。」
キャミーがサトミに地図を渡す。
「ま、そのおかげで俺たちの仕事も成り立つんだし、文句は言えネエな。ダスト地区か、物騒な所だぜ」
言いながらワクワクした顔。
普通のポストアタッカーは、手練れでもトラブルを回避する努力をする物だが、サトミはまったく無頓着だ。それでも今まで一度も配達物に不着がない。人によってはサトミを名指しする客もいるほどだ。
「あなたはミラノ・タチバナさんの家は知らないの?」
キャミーが少女に尋ねた。が、少女は黙って首を振る。
何か大きな事が背後にあるようだが、彼女の口は重い。
サトミも深く立ち入ることはしなかった。
郵便局です。
普通の。
郵便局大好きです。
小さい頃から郵便局でよく遊んでいました。
のどが渇いたら郵便局に水を飲みに行って、玄関先の大きく葉を広げた椰子の木の木陰でお喋りして。
懐かしいけど、建て替えられて今は面影がありません。
学生の頃は正月は郵便局でバイト。
赤カブ欲しくて郵便配達は羨望の眼差しでした。
郵便局は思い出が詰まってます。




