2、特急便でよろしく
廃墟都市ロンドの、大きなクレーターを囲む町並みが続く。
大戦末期に大型の爆弾が投下されたらしいが、幸い放射能の汚染はなかった。
が、街の半分がこれで吹き飛び、死者は数千と言われている。
人口密度に対して死者が思ったより少ないのは、爆弾が落ちる前、そこに大きな湖があったからだ。
ところがその湖の下に、軍は軍事基地を作っていたらしい。
らしいとは、人のうわさでしかなくいまだ明確に発表がないのだ。
元々大きな湖の下、橋の代わりにトンネルが掘られていたのは誰もが知っている。しかしそれも閉鎖され、戦時中は工事も中止されていた。
数千の死者を出して、当時の軍主導政権から今の政権にうつっても、何故かこれはうやむやの発表のままで終わっている。
一時は解明しようという声も上がったが、生活に追われてその声さえもいつの間にか収まってしまった。
当時ロンドからは人口が一時流出もしたが、今では人も戻り復興も進んでいる。
しかし崩れかけたビルは、今だクレーターを中心に放射状に傾いていた。
サトミが馬に乗りクレーターに架かった大きな吊り橋を渡り、ひどく寂れた廃墟の数軒の家をまわって最後に小さな家に手紙を届けてお辞儀して出てくる。
橋の向こうは、けっこう配達物が多い。
伝票を確認し、大きく伸びをした。
「えーと、こちら側はこれで終わりかな。あとは・・ビルか。
あー、あの崩れそうなところ、まだ住んでるんだなあ。」
また橋を渡って傾いたビルが並ぶ道を進み、伝票を確認してビルへ入って行く。
ナナメに傾いた階段を上り、並ぶドアの一つを確認して叩く。
中から老人のしわがれた声が、小さく返してきた。
「はい、はい、どちら様?」
「ポストサービスエクスプレスです、お届け物をお持ちしました。」
ドアの横のカメラがジイッと動く。サトミがニッコリ微笑み、荷物と身分証明書をかざした。
そうっとドアが開き、チェーンがガチャンと音を立てて引っ張られる。
やがてドアのスキマから、銃を握りしめる老人の顔が覗き込んできた。
「こんにちは、ラルス・メインさんから速達の郵便です。」
「おお!そりゃ息子じゃ!待っておった。」
明るい声が返り、慌ててドアを開いてサトミから包みを受け取り朗らかに笑う。
「良かった、バアさんの薬なんじゃよ。送料は?」
「元払いです、こちらにサインを。」
老人が受け取りにサインする。サトミが胸に手を当てお辞儀した。
「またごひいきに。ありがとうございました。」
「助かったよ、またお願いします。」
「こちらこそ、どうぞお大事に。」
ホッと胸をなで下ろして手を挙げる老人に、挨拶してドアを閉じる。
薄暗い廊下を歩き始めた背後で、キイッと別のドアが開いた。
サトミが足を止めると、慌ててバタンとドアが閉じる。
強盗、傷害、頻繁に起きるこの町では、常に危険がつきまとう。
階段を下りて外へ出ると、道端の草をはんでいた馬が顔を上げた。
「ベン、お待たせ。じゃ、本部にいったん帰るか。」
「むぐむぐ、終わったのか?」
馬が不味い草に不満なのか、機嫌悪そうに声を出した。
「しゃ、しゃべった?」横に寝ていた浮浪者が驚いて飛び上がる。
目を丸くして気味悪そうに、路地へと逃げ込んだ。
「ああ、持ってきた時間指定分の配達は終わり。あとは本部に届ける分だな。向こう側の配達ってさ、午前中指定が多くて困っちゃうな。まあ、気持ちはわかるけど。」
伝票を確認して、荷物の確認をする。
盗賊が狙いそうな物なんて今日の荷物にはありもしないのだが、彼らにはなにを言っても無駄だろう。
「クレーターの向こうはいやだ。」
「フフ……ここロンドは国境だったからな、前線で戦闘が激しかったんだからしかたねえさ。」
「腹減ったぞ、申し訳ありません御主人様といえ。」
サトミが苦笑して馬の首を叩く。
「了解ビッグベン、俺もだ。1時か、あの盗賊のせいで昼飯遅くなっちまったな。」
「ニンジンだ、ニンジンを所望する。」
「仕事中。変な言葉ばっか覚えやがって。」
「ちっ」
サトミが乗り込み、本部へと渋々歩き出す。
彼の馬の名はビッグベン、ロバのように小さい馬だが何故かしゃべる馬だった。
突然、あたりに車のタイヤが軋む音が響く。
やがて黒塗りの車がシルバーの車に追われ、タイヤを撃たれてスピンした。
通行人が慌てて飛び退き、車は街頭にぶつかった反動でひっくり返る。
シルバーの車が横に止まり、中から3人の背広姿の男が銃を片手に降りてきた。
運転席の血だらけの女が車から這い出すと、銃が突きつけられる。
「キーを返して貰うぞ。解除コードも渡せ。」
女が銃口を前に、後部座席を見る。
ひっくり返った車の中、後部座席の撃たれて死んだ男の横で、ワンピース姿の少女がシートベルトにつながれたまま無表情な顔で真っ直ぐに前を見ていた。
ゴリゴリと、銃口が女の額に当てられ息をつく。
「キーは確認した、あとはディスクだ。」
他の男達が車を覗き込み、少女に手を伸ばした時、女がハッと顔を上げた。
サトミが、ベンにまたがったままこちらを見ている。
サトミの腕にある、ポストアタッカーの腕章に気が付き必死で声を上げた。
「ポストアタッカー!依頼を!キーを届けて!」
女がすがるようにサトミに手を伸ばす。
「了解した」
サトミがうなずきベンから飛び降りると、男達へ向け風のように向かいながら背の刀を抜く。
「なにっ?」
驚いて男達が銃を向ける。
サトミが身を伏せ、渾身の力で刀を振った。
鋭い音を立てて風が巻く。
「うおお!」
「ぐおっ!」
剣圧をまともに受け、男達が叫びを上げて車に倒れ込んだ。
サトミが指で、刀の柄にある電圧メモリを最大まで上げ、刀を返して刃を表にする。
胸を押さえ、慌てて銃を向ける男に、サトミが刀を振った。
「ギャッ!」
刀が鮮やかなほどに銃を切り、男の胸を浅く切り裂いた。
瞬間、身体中にスパークが走り髪を逆立て、男が泡を吹いて悶絶する。
他の2人が驚き、1人が銃を向けた。
「この!ワケもしらな……ぐあっ!」
ヒュンッ!キーーン!
腰を落とし、問答無用でその銃をサトミが切った瞬間、腕から肘にスパークが抜ける。
男がたまらずうめいてひっくり返った。
「引いて頂けますか?」
サトミに刃を向けられ、残った1人がポカンと口を開けたまま銃を降ろす。
「く……」
騒ぎを聞いて、ザワザワと人が集まり始めた。
「仕方ない、いったん引こう。」
腕を押さえた男がまわりを見回し、気絶した男を引きずり慌ててシルバーの車に乗り込み立ち去る。
サトミが刀をもどし、女のかたわらに膝をついた。
「依頼の件ですが。お届けの品は?」
女が血を吐き、そして震える手で後部座席の少女を指す。サトミが残念な顔で首を振った。
「それは困りました。生き物は郵便法で配達対象物と認められません。」
「あ…あれは……キー。人じゃ、無い。」
「ああ、そうでしたか。でしたら対象になり得ます。で、どちらに?」
「ミ…ミラノ博士……ミラノ・タチバナの家に。それと、私のバックにディスクが。
い、急いで……早く……」
サトミが車を覗き、開いたバックから飛び出しているディスクケースを拾い上げる。
中には一枚の小さなディスクが入っていた。
「こちらですね。で、お急ぎでしたら特急便となります。送料ですが、大きいですし少々お高く……あれ?」
女がうつろな顔になり、次第に息が細くなる。
「もしもし?住所をお願いします、特急便の場合お代はできれば先にお願いしたいんですが?」
困った顔でサトミがバックを差し出し、彼女の顔を覗き込む。
しかしその顔は意識も薄く、すでに死が目前に迫っていた。
「渡して……お願い」
消えそうな言葉をつぶやき、とうとう女からガクリと力が抜ける。
サトミがディスクケースで、こつんと自分の額を叩いた。
「しまったなあ、送り主が死亡の場合は着払いだけど、特急便の上に荷物が大きいから結構な額になるし……相手に聞いて、それからかな。」
遠くからサイレンが近づいてくる。
サトミが女のバックから身分証明書を見つけ、荷受け証の書類に書き込んだ。
「えーととりあえず、車から出なきゃね。」
車内にいる逆さまの少女と目を合わせ、腰から小刀を取りだし口にくわえる。
車に潜り込んで、彼女の腰を腕で押して支えながらシートベルトを切った。
サトミに覆い被さるように落ちてきた少女は無表情で、ひどく暗い顔をしている。
鍵というからにはアンドロイドだろうがなぜか良い香りがして、スカートを押さえる仕草に少女らしさを感じた。
「大丈夫?」
顔をつきあわせたサトミの言葉に、少女の機械の瞳孔が開く。
うなずき、彼の顔をじっと見つめた。
いくらアンドロイドと言っても、少女と鼻をつき合わせていると気恥ずかしい。
苦笑いで視線をはずし、ちらりと外に視線を向けた。
「ごめん身動き取れない、先に出るから自分ではい出せる?」
「ええ」
ようやく返事が返り、サトミがニッコリ微笑んでうなずく。
先に出て彼女の手を取ると、彼女も自分で車からはい出て来た。
「ケガは?」
「壊れてないわ。」
「ふふ、そっか。ああ、腹減ったな。」
丁度横にパトカーが止まり、降りてきた警官がサトミ達を覗き込む。
「大丈夫かね?君は?事情徴収をいいかね?」
「げっ」
サトミが少女と顔を見合わせ、ヒョイと肩を上げベンを見る。
「ちっ」ベンが大きくため息をつき、また道ばたの草をはんだ。
この話、登場人物を絞ったのでサトミ一人だとほぼ無言なので、馬を相棒にしました。
ただ、ベンがなぜ喋る馬なのかはまったく書いていません。
空気のように自然に受け入れて貰えれば、上々。
しかしこの二人?絵にすると、ミニチュアッぽい馬の背に童顔、背に日本刀持ちのちょい背が低めの青年なので、カッコイイっぽくて実はすこぶるカッコ悪い感じとなりますw
それではまた。




