18、エリー奪還
腰が抜けて見上げると、テーブルの上にサトミが立って自分を見下ろしている。
逆光が、彼の相貌を暗く、一層恐ろしいものにして女がすくみ上がった。
「俺は、あんたを切らない。」
「は、な、しを・・」
ピュン!ヒュン!
日本刀の鋭い切っ先が額を、右頬をかすめる。
皮膚をかすめる。切るような風が来る。
確かに切らない。
だが、その恐怖は想像以上のものだ。
口が、ガクガクと震え、失禁したのか椅子がじわりと濡れた。
それでも、サトミが冷たく見下ろし、女の目からは涙があふれ出す。
「こ、こ、こ、れ…は、国の、」
ヒュンッピュン!
「ひいいっ!」
たまらず顔を手で覆った。
が、手をかすめて鋭い風が来る。
音の変化が、手を瞬時に避けているのだと目を見開く。
敵わない、自分たちで、敵う相手じゃ、無い。相手が悪すぎる。
「もう、もういいだろう?女は返すから、やめてくれ!
中佐は義があって行動されているんだ!」
耐えかねて、傷の男が懇願する。
だが、サトミは女を見据えて微動だにしなかった。
「義だなどと笑わせてくれる。核使えばどうなるか、馬鹿でもわかる兵器だ。
こんな奴が上官か、だから軍は腐ってる。」
女は恐怖で、ただすすり泣いている。
泣きながら、怖々と顔を上げた。
ブルブル震える手を握りしめ、部下の前で最後の意地を絞り出す。
車が、増援が来ることだけを今は願った。
一つ大きく息を吸い、懸命にかすれる声を振り絞る。
「もういい!腕の1本くらいくれてやるわ!
そのアンドロイドは交渉に必要なのよ!
ポストマンごときにこのデカい仕事の意味がわかるものですか!
出てって!出て行きなさい!」
急に元気になった女に、サトミがキョンとして刀を肩に置く。
ふうんと女の顔をのぞき込み、よしとうなずいた。
「あんたの覚悟はわかった。じゃ、詫びの1本としようか。
それで俺は彼女を連れて出ていこう。
ああ、そうだ、言うの忘れてたが車は来ないぜ。
俺がつぶして来たからな。
彼女が来たのにあの車はパンク、あんた達はどう見ても車を待っていた。常識だろ?
俺は気が小さいんだ。
ほんじゃ、腕1本頂くぜ。」
サトミが上段に構える。
来ない?!車を先に潰してきた?!
女が愕然とサトミを見上げる。
「じょ・・冗談じゃ無いわ、なんでそれで腕1本なのよ。」
女は泣きながら必死に腕を庇い、身を伏せてサトミをにらむ。
だが、サトミはどう見ても冗談に見えない。
今にも振り下ろしそうで、怖くて震えた。
「なんで?なんで、あたしばかりこんな怖い目に遭うのよ!
あたしは女よ!」
「女は関係ないな、あんた軍人だ。
まあ、叩き上げの中佐なら多少怖い目に遭ったこともあるだろうけど、あんたはそんなことも無かったんだろうさ。」
「昇進に女使うのも作戦よ!
そいつらだって、叩き上げでも降伏したじゃない!」
「降伏は悪いことじゃない。
ここで命を落とすべきじゃ無いと判断出来るのは叩き上げの証拠だろうさ。
で、返すの?返さないの?サインよろしく。左下の角。」
サトミがポケットから荷受け表を取りだし、女に差し出す。
が、女は身体が固まったように動かない。
「切らないって約束してよ。」
「返すって約束したらな。ディスクは?」
女がテーブル上の本を視線で指す。
なるほど、本に挟んでいるのだろうが、出して見せる勇気は無いらしい。
「どっちも返すわ。約束するから切らないで。刀を鞘に入れてよ。」
「刀はまだ直せねえな、俺は気が小さいんだ、さっさとしてくれねえか?面倒ごとはもうゴメンだ。」
女が震える手で荷受け表にペンの先をつける。
パンッ!
いきなり虚を突いて、乾いた音が外で鳴った。
窓ガラスに穴が空き、サトミが女に刀を振り下ろす。
キイィン!
大きく目を見開く女の顔の横で、弾丸が切られ天井と床に撃ち込まれた。
サトミは、凍り付いて白目になっている女の手から荷受け表とペンを取り、本の中のディスクと女のバッグに刺さった小刀を回収してエリーに手を伸ばす。
「ちぇ、もう来やがった。
エリー、終わりだ、帰ろう。」
一体何が起こったのかわからない二人の男が振り返ると同時に、勢いよくテラスの窓から銃を構えた軍の兵達がなだれ込んできた。
「確保しろ!抵抗するな!手を上げ、壁を向いて伏せろ!」
と、言われても、もう二人は壁を向いて伏せているし、女は白目むいて泡吹いている。
サトミがすべて終わらせた頃合いで、突入を指示したのはあの軍人だろう。
サトミは迷惑そうな顔で、女が何と書いたかわからないぐちゃぐちゃのサインを確認して書類を直し、エリーの手を引いて部屋を出た。
とうとう横から来る弾を切りました。
サトミに何を切らせたいか、皆に聞いてみたいところ。
それではまた
分類をアクションからローファンタジーに変更しました。
フラフラして申し訳ない




