表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/20

13、着荷は別れの言葉

門前に来ると、エリーがギュッとサトミの身体を抱きしめる。

サトミは彼女の手を握り、そして二人ベンから降りた。

足の進まない彼女の手を取り、玄関までゆっくりと進む。

ひどく冷たく見えるドアの前に立ち、チャイムに手を伸ばす。

しかしそれを押す前に、ドアが勢いよく開いた。


現れたスーツ姿の40過ぎの女が、サトミとエリーの顔を見る。

小賢しそうに眉を動かし、エリーを舐めるように足先から頭までじろりと確かめる。

やがて一呼吸置いて、エリーを見て明るい顔になり嬉しそうに作り笑いを浮かべた。


「ER、良く無事で!心配していたのよ。」


サトミが一礼して、身分証明書を見せる。


「こんにちは、ポストサービスエクスプレスです、お届け物をお持ちしました。

ミラノ・タチバナさんですか?」


「ええ、ええ!そうよ。」


「失礼ですが、住民IDカードを。」


「待って」


女がジャケットのポケットから住民IDカードを取り出しサトミに渡す。


「失礼します。」


サトミが腰のディーバックから認証読み取り機を取りだし、カードを通して確認する。

恐らく偽造だとわかるのに、エラーが出ない。


こいつらも軍か政府がらみかよ・・


サトミがひっそりと再確認のボタンを押し、女にニッコリと笑って読み取り機を差し出した。


「お手数ですが、こちらに指を置いて頂けますか?」


女が怪訝な顔でパネルに指を置く。

国民の個人認証は指紋までは進んでいるが、網膜までは行ってない。

まあ、行ってても書き換えられれば同じだが、認証まで勝手に変更出来ると言うことは中央に近い人物だ。

やはりブルーランプがつき、サトミは心で舌打ち、うなずいてカードを返した。


「ありがとうございます。確認取れましたので、こちらの受け取りにサインをお願いします。それと、着払いになっておりますが。」


「いくら?」


「はい、エクスプレスの特急便に、サイズが150を越えますので130ドルになります。それにチップが70ドルプラスされますので、合わせて200ドルです。」


「チップまで?近いのに高いのね。」


「申し訳ありません。特急便には特に危険料金も含まれております。」


チップなんてもちろん正規料金には無い。

ただ命の危機を感じた時にチップを請求出来る規定はあるが、それはポストアタッカーのプライドに触れる。

・・とされるが、サトミにそんなプライドは無用だし、命の危機なんて感じたことが無い。

非合法な奴らへのサトミの腹いせだ。

金を渡して書類にサインすると、サトミがディスクを女に渡す。

エリーが家に入り、そばにいた男に着替えたいと頼んだ。

うなずく男が一つの部屋を指さすと、エリーが振り向く。


「ちょっと待ってて、お借りした服を返しますから。」


「ああ、わかったよ。」


女がエリーをにらむが、エリーはかまわず白いドアに消えて行く。

辺りを見回すサトミに、女が訝しい顔で聞いた。


「あなた、ポストサービスに入る前はどこに所属していたの?」


「申し訳ありませんが、答える義務はありません。」


「フフ……ずいぶん腕が立つそうじゃない。日本刀なんて珍しいのね。」


「ええ、ありがとうございます。」


「剣なんて誰に習ったの?」


「父が趣味で、あとは自己流ですよ。おかげでなんとか食っていけます。」


「趣味ねえ……クク。どう?私の下で働かない?

郵便局の安月給より、うんとマシよ。もったいないわ、その腕。」


「お気持ちだけ受け取っておきます。俺も長生きしたいので。」


ほくそ笑むサトミに、女がムッと眉をヒクつかせる。

白いドアが開き、ワンピース姿のエリーが作業着を袋に入れながら出てきた。


「ごめんなさい、待たせて。」


「いや、いいよ別に。あとは帰るだけだし。」


エリーがサトミに袋を手渡し、その手を袋の下でギュッと握る。

そして満面の笑顔で笑った。


「ありがとう、会えて良かった。素敵なこのブローチ、大事にするわ。」


それだけを言って手を離し、胸のブローチに愛おしそうに両手を当てる。

無言の言葉が、サトミの胸に届いた。


「エリー……」


サトミが複雑な顔で彼女に見入る。

女が横で急かすように咳払いし、サトミがハッと我に返った。


「いや、あの……」


「さあ、ご苦労様でした。もう帰って結構よ。

アンドロイドに名前を付けるなんて、ずいぶんな趣味ね。

ホホ、ラブドール欲しいならもっと色気のあるアンドロイドプレゼントするわ。」


「いいえ、ご遠慮します。」


サトミが思いがけずニッコリ笑い、女が不意を突かれる。

女が気を取り直して二人の間に割って入ると、エリーが後ろに下がり、サトミに笑って手を振った。

これ以上、何をどうすればいいと言うのか、彼女はただの荷物だ。

自分はそれを届ける、ただのポストマンでしかない。

サトミがせめていつもの微笑みで頭を下げる。


「ありがとうございました。またのご利用をお願いします。」


「じゃ、また縁があったら会いましょう。それまで生きている事ね。」


女がフンと鼻を鳴らし、サトミの目の前で玄関のドアを重く閉じる。


袋を手に、とぼとぼとベンの元へ戻った。

ベンが、フンと一息鼻でため息をつく。


「ベン、帰ろうか。」


サトミが袋を肩にかけ、ベンに乗り込み歩き出す。

これから彼女はどこへ行くのか。

家を囲む男達の視線はかつての戦場を思い起こさせ、誰もいない背中がひどく寒々としていた。




ベンの足が、林の小道を心なしか寂しく歩く。

振り返っても、木立に隠れて家も見えなくなって行った。


「いいのか。」


「仕方ないさ、仕事なんだ。」


静粛の中、木が風にざわめき、鳥がさえずりながら飛んで行く。

ベンが振り返り、呆けたサトミにため息をついた。


「隙だらけだ」


「そうだな」


「死ぬぞ」


「そうだな、たまにはいいさ」


日が傾いて、もう少しで沈み始める。

明るいうちに橋を越えないと、無用な戦いをしなければならないかもしれない。

サトミが顔を上げ空を見る。

雲が、風に流され形を変える。


「俺は……何を見たくて目を治したかったんだろう……」


答えはごく簡単なはずなのに、本当に見たい物はまだ何も見ていない気がした。


エリーは荷物なので、これで着荷となります。

さようならエリー・・・(仮

なんちゃって、

それではまた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ