13、着荷は別れの言葉
門前に来ると、エリーがギュッとサトミの身体を抱きしめる。
サトミは彼女の手を握り、そして二人ベンから降りた。
足の進まない彼女の手を取り、玄関までゆっくりと進む。
ひどく冷たく見えるドアの前に立ち、チャイムに手を伸ばす。
しかしそれを押す前に、ドアが勢いよく開いた。
現れたスーツ姿の40過ぎの女が、サトミとエリーの顔を見る。
小賢しそうに眉を動かし、エリーを舐めるように足先から頭までじろりと確かめる。
やがて一呼吸置いて、エリーを見て明るい顔になり嬉しそうに作り笑いを浮かべた。
「ER、良く無事で!心配していたのよ。」
サトミが一礼して、身分証明書を見せる。
「こんにちは、ポストサービスエクスプレスです、お届け物をお持ちしました。
ミラノ・タチバナさんですか?」
「ええ、ええ!そうよ。」
「失礼ですが、住民IDカードを。」
「待って」
女がジャケットのポケットから住民IDカードを取り出しサトミに渡す。
「失礼します。」
サトミが腰のディーバックから認証読み取り機を取りだし、カードを通して確認する。
恐らく偽造だとわかるのに、エラーが出ない。
こいつらも軍か政府がらみかよ・・
サトミがひっそりと再確認のボタンを押し、女にニッコリと笑って読み取り機を差し出した。
「お手数ですが、こちらに指を置いて頂けますか?」
女が怪訝な顔でパネルに指を置く。
国民の個人認証は指紋までは進んでいるが、網膜までは行ってない。
まあ、行ってても書き換えられれば同じだが、認証まで勝手に変更出来ると言うことは中央に近い人物だ。
やはりブルーランプがつき、サトミは心で舌打ち、うなずいてカードを返した。
「ありがとうございます。確認取れましたので、こちらの受け取りにサインをお願いします。それと、着払いになっておりますが。」
「いくら?」
「はい、エクスプレスの特急便に、サイズが150を越えますので130ドルになります。それにチップが70ドルプラスされますので、合わせて200ドルです。」
「チップまで?近いのに高いのね。」
「申し訳ありません。特急便には特に危険料金も含まれております。」
チップなんてもちろん正規料金には無い。
ただ命の危機を感じた時にチップを請求出来る規定はあるが、それはポストアタッカーのプライドに触れる。
・・とされるが、サトミにそんなプライドは無用だし、命の危機なんて感じたことが無い。
非合法な奴らへのサトミの腹いせだ。
金を渡して書類にサインすると、サトミがディスクを女に渡す。
エリーが家に入り、そばにいた男に着替えたいと頼んだ。
うなずく男が一つの部屋を指さすと、エリーが振り向く。
「ちょっと待ってて、お借りした服を返しますから。」
「ああ、わかったよ。」
女がエリーをにらむが、エリーはかまわず白いドアに消えて行く。
辺りを見回すサトミに、女が訝しい顔で聞いた。
「あなた、ポストサービスに入る前はどこに所属していたの?」
「申し訳ありませんが、答える義務はありません。」
「フフ……ずいぶん腕が立つそうじゃない。日本刀なんて珍しいのね。」
「ええ、ありがとうございます。」
「剣なんて誰に習ったの?」
「父が趣味で、あとは自己流ですよ。おかげでなんとか食っていけます。」
「趣味ねえ……クク。どう?私の下で働かない?
郵便局の安月給より、うんとマシよ。もったいないわ、その腕。」
「お気持ちだけ受け取っておきます。俺も長生きしたいので。」
ほくそ笑むサトミに、女がムッと眉をヒクつかせる。
白いドアが開き、ワンピース姿のエリーが作業着を袋に入れながら出てきた。
「ごめんなさい、待たせて。」
「いや、いいよ別に。あとは帰るだけだし。」
エリーがサトミに袋を手渡し、その手を袋の下でギュッと握る。
そして満面の笑顔で笑った。
「ありがとう、会えて良かった。素敵なこのブローチ、大事にするわ。」
それだけを言って手を離し、胸のブローチに愛おしそうに両手を当てる。
無言の言葉が、サトミの胸に届いた。
「エリー……」
サトミが複雑な顔で彼女に見入る。
女が横で急かすように咳払いし、サトミがハッと我に返った。
「いや、あの……」
「さあ、ご苦労様でした。もう帰って結構よ。
アンドロイドに名前を付けるなんて、ずいぶんな趣味ね。
ホホ、ラブドール欲しいならもっと色気のあるアンドロイドプレゼントするわ。」
「いいえ、ご遠慮します。」
サトミが思いがけずニッコリ笑い、女が不意を突かれる。
女が気を取り直して二人の間に割って入ると、エリーが後ろに下がり、サトミに笑って手を振った。
これ以上、何をどうすればいいと言うのか、彼女はただの荷物だ。
自分はそれを届ける、ただのポストマンでしかない。
サトミがせめていつもの微笑みで頭を下げる。
「ありがとうございました。またのご利用をお願いします。」
「じゃ、また縁があったら会いましょう。それまで生きている事ね。」
女がフンと鼻を鳴らし、サトミの目の前で玄関のドアを重く閉じる。
袋を手に、とぼとぼとベンの元へ戻った。
ベンが、フンと一息鼻でため息をつく。
「ベン、帰ろうか。」
サトミが袋を肩にかけ、ベンに乗り込み歩き出す。
これから彼女はどこへ行くのか。
家を囲む男達の視線はかつての戦場を思い起こさせ、誰もいない背中がひどく寒々としていた。
ベンの足が、林の小道を心なしか寂しく歩く。
振り返っても、木立に隠れて家も見えなくなって行った。
「いいのか。」
「仕方ないさ、仕事なんだ。」
静粛の中、木が風にざわめき、鳥がさえずりながら飛んで行く。
ベンが振り返り、呆けたサトミにため息をついた。
「隙だらけだ」
「そうだな」
「死ぬぞ」
「そうだな、たまにはいいさ」
日が傾いて、もう少しで沈み始める。
明るいうちに橋を越えないと、無用な戦いをしなければならないかもしれない。
サトミが顔を上げ空を見る。
雲が、風に流され形を変える。
「俺は……何を見たくて目を治したかったんだろう……」
答えはごく簡単なはずなのに、本当に見たい物はまだ何も見ていない気がした。
エリーは荷物なので、これで着荷となります。
さようならエリー・・・(仮
なんちゃって、
それではまた。




