10、馬上の攻防その2 (流血有り)
「おのれええ!!」
相棒が倒され、クラウスが憤怒の形相でベンと並び、ハンドガンを数発撃つ。
エリーの手に力が入り、サトミが大きく身体を左に傾け弾を避けた。
瞬間、腰から小刀を取り、クラウスに投げる。
そして手綱を引き、ベンを左に離した。
「ちいっ!」
クラウスが銃を持つ手に刺さった小刀を抜き、銃を腰にもどして馬に取り付けていた折りたたみ式の刀を構えた。
片手に持って大きく振り、遠心力で金属音を放ち柄を伸ばす。
長い金属製の柄の先には大きな刃が波紋をうねらせ、日の光に妖しく輝いた。
「へえ、長刀って奴か。面白い。」
チラリと見て、刃の登場にサトミが生き生きと目を見開く。
馬だからこそ、接近戦でナギナタの使い手がいるとは聞いていたが、サトミも見るのは初めてだ。
「フフ……その短い日本刀で!」
頭上で両手を使い長刀を一回転させる。
風を切る音がうなりを上げ、クラウスがほくそ笑んだ。
「これに勝てるか?!」
馬を寄せ、一気に突きを繰り出す。
サトミは身を起こしながら刀を右手に持ち、見事に突きを受け流してゆく。
刀同士の戦いに金属音が響き、火花が弾ける。
その火花の美しさ、あまりに見事なサトミの剣さばきに、エリーが見とれた。
まるで、それは剣舞のように芸術的でもある、隙のない美しさ。
しがみつくサトミの身体は、服の下でしなやかに、そして鋼のようにうねりを繰り返す。
「うおおお!」
大きく弾かれた長刀が、よどみなく弧を描いて風を切り、再度刃がサトミの首を狙って前から来る。
サトミが刃を返し、刀の峰で上へはじいて軌道を変えた。
「くっ!」
クラウスが脇で返し、弧を描いて上にひらめかせて振り下ろす。
ベンがとっさに左に離れ、またも空振りに舌を打った。
「くそっ!」
手綱を握り、前に出たベンを追う。
刀遣いだからなのか、こいつは刃に恐れが無い。
まるで何一つ怖い物など無いように、こちらへの気負いさえ感じない。
なにかゲームの一つのように、嬉々とさえして見える。
心に何か恐怖を感じ、それを飲み込むようにつばを飲む。
ガキの一人、何故倒せん!
ベリアル、力を貸せ!!
フンと息を吐き、気持ちを整えるように併走する。
サトミがチラリとこちらを見る。
クラウスは手綱を放し、見せつけるように長刀を頭上でブンブンと両手で回した。
「小僧、やるな!だがただの長刀と思うな!ダマスカス特殊ブレードぞ!」
クラウスが仁王のように、気を入れてニヤリと笑う。
「ははっ!ご大層な名前だな。」
サトミがククッと笑みをこぼし、クラウスが茶化されカッと顔色を変えた。
「おのれ、その首貰った!!」
ぐるりと回して腰に長刀の端をかけ、一気にサトミの後方から刃を向ける。
頭を下げるエリーの頭上、後方から刃がサトミを襲う。
サトミが目を閉じ、身を伏せかけた時、長刀の軌道が下へ変わった。
アンドロイドごと、切って捨てる!
「おおお!」
クラウスの全身の筋肉が隆起して、長刀へと力を送る。
エリーの背を今切り裂こうとする刹那、サトミが身を起こし、刀を返して渾身の力を込め、右手の刀を右後方へと振った。
長刀の柄が火花を上げて2つに切られ、スッと顔を引くサトミの鼻先を切れた柄がヒュンと過ぎて行く。
先の刀は、クルクル回って呆然と見守る浮浪者の髪をそり落とし、民家の壁にドスンと突き刺さった。
思わぬ攻撃にクラウスが馬上でバランスを崩しながら、呆然とその切られた柄の先を見る。
「貴様!」
その柄を槍のように、サトミに向けて突き出す。
ベンが左に避けてサトミが刀で槍をなぎ払う。
「クッ!」ならば!
クラウスがとっさに馬をベンに寄せた。
槍を後ろから振り、2人が避けた瞬間エリーに左手を伸ばす。
一瞬その腕を切ろうとしたサトミが、エリーの存在にちゅうちょした。
「キャ!」
むんずと彼女の腕を掴む手に、サトミの目がカッと見開く。
「エリー!目を閉じろ!」
そう言った瞬間、男の大きな腕は肘から切り落とされていた。
「ぐああおおおお!」
咆哮を上げ、男が柄を放り腰のハンドガンを抜いて引き金に指をかける。
しかしその瞬間、その指がピクピクと震えながら動きが止まった。
愕然とサトミを見た男に、彼は真っ直ぐ刀の切っ先を向け微動だにしない。
クラウスは動きを止めたまま、恐怖に声を震わせた。
「身体が……動かない!何故だ?!」
「何のことはない、お前と気を合わせたのだ」
その瞳が鋭くキラリと輝く。
高速で走り続ける馬の足。
後ろからようやくサイレンを上げパトカーが追いかけてくる。
「もう十分だろ?」
刃の向こうで、サトミが確かにそう言ってニヤリと笑った。
ゾッと全身の血が下がり、心なしか歯が小さく鳴る。
なんだ?!付き合ってやったと、そう言うのか?
飽きたとでも・・馬鹿な!
これが・・これが、恐怖か!!
この鍛え抜いた身体で、こんな少年に抗うこともできず死ぬのか?!
「き、キサマは何者だ?!軍か?まさか……まさかあの…!」
サトミが言葉を遮るように刀を後ろへと振って背中の鞘に戻した。
フッと身体が軽くなったクラウスは、慌てて手綱に右手を伸ばすが馬について行けず届かない。
そのまま彼の身体は、後方へ吹き飛び宙を舞った。
「うおおお!!」
馬から落ちながら、恐怖の表情でとっさに頭を庇った。
迫るパトカーの中で、警官の顔が引きつってハンドルを握りしめる。
悲鳴を上げて、クラウスの目が大きく見開かれた。
次の瞬間、その身体がパトカーのフロントガラスにつっこんで行く。
パトカーはそのまま民家の壁に突っ込み、あとにはクラクションが鳴り響いた。
まあ、刀にどんな良い刃が付いてようが、銘があろうが要は使う人次第って事で。
クラウスさんはそれでもやり手なんでしょうけど、相手が悪かった。
それではまた。




