3・カミサマノイウトオリ
「…い…おーい!」
「…?」
声が聞こえ、紅蓮の意識は覚醒していく。ふと前を見ると、西洋風の格好をした少年が居た。
「…どちら様?」
紅蓮はその少年に見覚えがなかった為、そんな風に尋ねた。
「うん。とりあえず、僕の自己紹介の前に、君の見に何が起きたかは、覚えているかな?」
少年にそう言われて、紅蓮は先程までの事を思い出す。
「…教室で地震にあって…みんなパニックになったと思ったら…! 遥人と琉季は!?」
二人の事を思い出し、辺りを見回すが、辺りは白い空間が広がっており、紅蓮と少年以外に姿は無かった。
「二人…というか、君以外は全員無事だし、それについても後で話すから、思い出すのを続けて、その後は?」
少年に言われ、思い出すのを続ける紅蓮。
「…確か床が光って、その後に…そうだ…僕は全身に凄い激痛を感じたんだ…」
「そう…君は其れによって…肉体を破壊されてしまった」
少年に言われ、紅蓮は訝しげに少年を見た。
「肉体を破壊されたって…死んだって事?」
「いや、肉体が無くなっただけで、死んだわけじゃないんだ」
「だからその、肉体が無い=死んだって事…ってか僕死んでないし! 生きてるじゃないか!」
「いやでも…今の君は意識だけで…体は無いよ」
「えっ…」
少年に言われて、紅蓮は自分の手を見ようとするが、手があると思われる場所には手は無く、それ以前に体その物が全くなかった。
「…やっぱ死んでんじゃん。意識だけって事は、此処は天国?」
思いの外冷静に喋る自分に、少々呆れる紅蓮であった。
「う~ん…違うかな? まあそうだね…『僕だけの空間』とでも、言っておこうかな?」
少年の言葉に、紅蓮は深く考えない様にした。考えても無駄だと思ったからである。
「でっ? 君は誰なの?」
「神」
「…死神?」
自身の状況が状況なだけに、自然とそう思う紅蓮。
「いや死神じゃないよ! 普通の神様! と言っても、君達の世界の神様じゃない」
「? じゃあ何処の世界の神様?…まさか…」
「そう。君が行くはずだった異世界の神様さ」
神にそう言われて、紅蓮はあの時の魔法陣が、ラノベとかにある異世界召喚のものだったと確信した。
「まあ色々と混乱しているけど、とりあえず君の正体は分かったけど…何でその神様が僕の事を呼んだの? ぶっちゃけ僕って今、死んでる状態だけど、それと関係あるの?」
紅蓮が言うと、神は気まずそうな表情をした。
「実は僕の世界のとある王国が、ある国に対しての戦力として、勇者の召喚をしたんだ」
神の言った内容に、紅蓮は理解出来た。大体ラノベでは、勇者の召喚は魔王へと対抗策として行われるからだ。
「そしてその国が召喚する際に、その国の魔術師達以外に、僕の力も必要だったから使ったんだ…だけど…」
其処まで言った時、紅蓮は嫌な予感がした。
「予想以上に力が出てしまい…君の肉体を破壊してしまったんだ…」
「…成程…つまり僕の身に起こったことは、イレギュラーの結果ってわけか…」
と、神の説明を聞いた紅蓮は、落ち着いた口調で言った。
「…? 怒らないのかい? 僕の性で君はこんな姿になったのに?」
「捻くれてるって良く言われるからね。何故か怒る気がしないよ…っで、僕はどうなるの? このままあの世にでも行くの?」
「…いや。君に新しい体を与えて、本来行く筈だった世界に送ろうと思う」
「新しい体?」
「そうさ。それに幾つかの能力もあげようと思う。せめてもの謝罪だよ」
「…まあ、良いけどさ」
「あれ? 案外拒否とかはしないんだね」
「まあ、僕も日常に退屈していたりしたからさ…二つ程お願いがあるんだけど」
「何だい?」
「一つは僕専用の武器が欲しい…そうだね…日本刀が良いかな。漫画とかゲームで見てて、カッコいいから」
「分かった。君をその世界に転送したら、一緒に送るよ!」
「ありがとう。あと一つは…皆とは、違う所に送ってほしい」
その願いの意味に、神は理解出来なかった。
「どうしてだい?」
「あのクラスの生徒の殆どからは好かれてないし、僕が居ない方が良いからさ」
「…でも君には、仲の良い幼馴染二人が居るじゃない」
「どうやって知ったんだか…琉季には遥人が居るし、大丈夫だよ」
「けどさ…分かった…じゃあそろそろ転送するよ」
神がそう言った瞬間、紅蓮はある疑問を口にした。
「待った! 新しい体ってどんな姿!?」
不安になったのか尋ねるが、神はニヤッと笑って言った。
「それは、目が覚めた時のお楽しみ♪ それじゃあ頑張ってね!」
神の言葉と共に、紅蓮の意識は光に閉ざされた。