2・人としての終わり 2
学校に着いた紅蓮達三人は、教室へと入った。教室には既に他の生徒が来ており、紅蓮は机の椅子に座りながら、遥人と話していた。すると其処に、琉季がやって来た。
「ねえ紅蓮、遥人。昨日私何をやったと思う?」
琉季の質問に、紅蓮は琉季の顔を見て言った。
「パンケーキ作ろうとして、失敗して大爆発した(笑)」
最早、ギャグなのか、極限の捻くれの言葉なのか分からない答えであった。
「ちょっと! 何で私がそんな事をする訳?」
当然ながら反論する琉季。
「だって、小三の時に琉季がドーナッツ作ってくれたら凄い味で、その日の夕飯味が分らなかった事あったじゃないか」
「う~…あれは砂糖と塩を間違えたっていう、ベタな事をしたって、言ったじゃん。もう紅蓮と遥人なんか知らない!」
そう言うと琉季は、クラスの女子の所へと歩いて行った。
「…何で僕まで酷い扱い?」
「…さぁ?」
呆然と会話する二人…其処に…
「オイ、黒崎!」
紅蓮に対して、強い口調で話しかけてくる、男子生徒が来た。
「…神山」
男子生徒の名は、神山 勇樹。紅蓮達のクラスのクラス委員である。
「杉下さんにあんな事言うなんて、一体君は何を考えているんだ!?」
強い口調で紅蓮に言う勇樹。紅蓮はこの神山 勇樹が嫌いであった。
このクラスには他に問題のある生徒が居るのにも関わらず、何時も琉季に皮肉を言う紅蓮に対して注意をしてくるのだ。
「…お前には関係ないだろ、神山」
「何?」
「琉季に皮肉を言うのは昔からだし、本気じゃないのは琉季も分かってる」
「それは黒崎の中での話だろ! 杉下さんがどう思っているかも分からないだろ」
「生憎、僕は琉季とは幼稚園からの付き合いで、少なくとも神山よりは理解出来てるよ…ってかさ、僕みたいのを注意する暇があったらさ、甲田達の注意でもしたら?」
紅蓮はクラスの問題児の名前を上げるが、勇樹は取り合わない。
「甲田達は今は関係ないだろ! 黒崎の事を言ってるんだ!」
二人の間が険悪になっていく中、遥人が二人の間に入った。
「神山。紅蓮だって本気じゃないんだ。其れくらいにしておけよ」
遥人が勇樹を宥める様に言う。一方の紅蓮はというと、勇樹の話など聞かないという意思の表れか、ヘッドフォンを頭に付けて、MPプレーヤーで音楽を聴き始めた。そんな紅蓮を、睨む様に見つめながら勇樹は言った。
「片山…前から言ってただろ? お前や杉下さんは、黒崎なんかと付き合わない方が良いって…」
「それを決めるのは、神山じゃない。僕と琉季だ」
少し強めな口調で、遮る様に言う遥人。そんな遥人に怯んだのか、勇樹は悔しそうな表情を浮かべると、何も言わず去っていった。
「…悪いね遥人」
ヘッドフォンを首に下げながら紅蓮が言った。
「! 何だ聞いてたんだ」
「アイツは僕が嫌いだから、遥人や琉季と仲良くしているのが、気に入らないんだろ」
「何で神山は、紅蓮を目の敵にするんだろう」
「さあ? 特に理由は無いんじゃない?…それより…」
紅蓮はニヤニヤした顔で、遥人の顔を見た。
「この間の琉季とのデートはどうだったの?」
「なっ!?」
突然の言葉に、遥人は顔を赤くする。
「ち、違うって! あれはただ単に、琉季と買い物に行っただけで…」
「それを世間一般では、デートっていうと思うけど?」
「それは…第一あの買い物は、最初は紅蓮も行く予定だったじゃないか」
遥人の言葉通り、本来はその買い物は、紅蓮、遥人、琉季の三人で行く予定だったのだが、急に紅蓮がドタキャンしたので、二人で行く事になったのだった。
「恋人同士の仲を、邪魔しちゃいけないと思って、身を引いたんだよ。僕は捻くれ者だから、こういうやり方でしか、出来なかったんだ」
紅蓮が言うと、遥人は沈んだ表情をする。
「紅蓮…良いのかい? 僕が琉季と恋仲になっても…紅蓮もさ」
「君は琉季が異性として好きなんだろ? だから良いんだ!」
遥人の言葉を遮る様に、紅蓮は言った。
「……」
それに対して、遥人は何も言い返せず、やがて担任の女教師が入って来たので、遥人は自分の席に着いた。
「さて、今日も頑張りますか」
何時もの日常が始まる…紅蓮がそう思った時だった…。
ゴゴゴゴゴ…
突然教室に地響きが響き始めた。
「な、何だ!?」
「じ、地震!?」
「キャアアアア!!!」
突然の事にパニックになるクラス中。
「皆! 落ち着いて!」
担任の声が上がるが、パニックは治まらない。そんな中紅蓮は、遥人と琉季を確認した。琉季は遥人が庇う様な状態だった。その時…
パァアアアアア…
突然、教室の床が光りだした…だが…紅蓮は別の事を感じていた。
「ッッッッ!!!!!!」
突然自分の体に、凄まじい激痛が走りだしたのだ。それはまるで無数の刃に身を裂かれる様で、業火に焼かれる様な熱さまで感じた。
紅蓮は自分の手を見て見た。すると紅蓮の両手は、光の粒子状になって消滅していくではないか。それだけに留まらず、紅蓮の体全体が粒子状になっていくではないか。
「ぐ、紅蓮!?」
「紅蓮!」
遥人と琉季が手を伸ばした。
「遥人…琉季…」
紅蓮も二人に手を伸ばすが…強い光に視界を奪われた。
やがて光が収まると、その教室に居た四十名の生徒と担任教師は、跡形も無く消え去っていた。
消えた生徒達と教師は、ある所へと飛ばされたのだが…其処には三十九人の生徒と教師しか居なかった…。