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桜色と赤と

 久々に戻った、静寂に満ちた自分の家で、寒さにかじかんだ手を小さなノートPCに置く。

 うまく動かない指でメールボックスを開くと、無意味なメールを押しのけるように、知ったメールアドレスが目に入った。楓から、だ。

 メールを開き、少ない本文を読むことなく添付ファイルを開く。一息で目に入った、鮮やかな紺地に、蘭は寒さを忘れて微笑んだ。大雪が心配された成人式は、無事、終わったらしい。苑の成人式の写真で見たのと同じ建物を背景に、背の高さ以上に積み上げられた雪の間で友人達と笑い合う楓の姿は、少しだけ、大人に見えないこともない。古風に結った髪に映える、これは蘭が、桜色の振袖の残りから作って渡したかんざしに、蘭は今度は小さく息を吐いた。……桃は、辿り着くべき場所に辿り着いているだろうか。心配しても仕方がないが、やはり、気になってしまう。いや、きっと、大丈夫。懸念を振り落とすように小さく首を横に振り、蘭は写真を保存する動作に入った。

 その時。

 視界の端に写った、かんざしとは違う形の桜色に、一瞬、息を止める。畳に座り直して写真をよく見ると、確かに、桜色の振袖に白い襟巻きを巻いた、どことなく苑に、桃に似た女性が、楓の後ろで澄まし顔をしている。

 あの場所にいることに決めたんだ。すっかり成長した桃に、写真の中にいた、桜柄の振袖にまとわりついていた少女を重ねる。桃がそう決めたのなら、蘭に口出しする権利は無い。それでも、捉えどころのない寂しさを感じ、蘭は微笑みながら首を横に振った。桃が『幸せ』なら、それで構わない。

 写真の向こうにいる桃が、一瞬だけ、蘭を見て微笑む。

 その笑みに揺れる、柔らかに結われた髪に差された山茶花の赤に、蘭は小さく、かじかんだ手を振った。

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