第7話 スキャンダル
「イヤね。今日は和重が居ないのに。・・・ねえねえ。」
撮影スタジオの前で週刊誌の記者たちが待ち構えているらしい。余程、ネタが無いらしい。こんな三十路女のスキャンダルを取ってどうするのだろう。
『西九条れいな』がしなだれかかってくる。悪い予感しかしない。
「嫌だ!」
「何よ。何も言っていないじゃない。」
「お前と噂になんかなりたくない。・・・そうだ。今日は代役が居るんだから代わって貰えばいいじゃないか。『ユウ』すまないが一緒に帰ろう。」
スタジオで撮影した場合は、都の公務員宿舎に居る瑤子さんのところに立ち寄っていくのだ。『西九条れいな』なんか連れて行った日には、どんな修羅場になるか。見当もつかない。
『ユウ』に対しては割と友好的だったから大丈夫だろう。
「私はどうするのよ。」
ムッとした顔であの女が聞き返してくる。そんなこともわからないのか。それとも解っていて聞いているのか。
「僕たちが記者たちを引き付けていくから、その隙にタクシーで帰れよ。」
ここには衣装もあればメイクさんもいるのである。元々、似ている『ユウ』を『西九条れいな』にソックリに仕立て上げるなんて訳が無い。もちろん『西九条れいな』を『一条裕也』に仕立てることも容易いに違いない。
最後に猫背になっている『ユウ』の背中を軽く叩いて伸ばさせる。
「大丈夫。とても綺麗だ。このまま、もう一度押し倒したいくらいだ。」
そう微笑みかけるとこれ以上無いというくらい蕩けた表情で、もたれかかってくる。
別に失敗してもいい。どうせ困るのはあの女だ。
ここから公務員宿舎までは歩いて15分くらいだろうか。入り口の警備員とは顔馴染みになっており、そこで記者たちとおさらばした。
「ただいま。」
「おかえ・・・。」
扉を開けたところで瑤子さんが固まる。間近で見ても解らないくらい『西九条れいな』にソックリということらしい。
「よく見ろ。『ユウ』さんだよ。」
あの女とスキャンダルになりそうなところを助けて貰ったことをざっと話す。
「『ユウ』さん。じゃあ、あの女と寝なかったのね。さあ、入って入って。」
いや。濡れ場を演じただけでエッチしたわけじゃ無いんだけどな。
「お邪魔します。」
『ユウ』が小さい声で挨拶する。こういうところも女らしい。
食卓の椅子は彼女に譲り、居間で『箱』スキルから椅子を取り出して持ってきて座ると料理が並びはじめる。
「今日は2人とも泊まっていくんでしょ?」
料理の量が少なかったのか。急拵えで料理を作りながら瑤子さんが何でもないことのように言う。
いつもなら足らない分、パスタやサンドイッチを要求するくせに彼女を前にして見栄を張っているらしい。
「おいおい。いいのか?」
「私もニューハーフさんは初めてよ。お話ししてみたいわ。それに前で記者さんが張っているかもしれないでしょ。明日の朝、一緒に自宅に戻ればいいじゃないの。」
瑤子さんも女ということか。こういったことには興味があるらしい。
「おいおい。見世物じゃないんだからな。そう言うことはその手の店へ行ってやれ。『ユウ』はどうしたい?」
ここはニューハーフのお店じゃないのだ。無理に瑤子さんに付き合う必要は無い。彼女が着てきたものは『箱』スキルに入っているし、男装もできるように衣装も借りてきている。
「お邪魔じゃなければ。」
あの偏屈女じゃないんだから、普通はそう言うよなあ。瑤子さんが変な要求をしたら、夜中でもタクシーを呼んで送っていけばいいんだよな。
食事が済んだら、先にお風呂に入って貰う。
居間のソファーに座ると瑤子さんが甘えるつもりなのか横に座って頭をもたれてくる。
「ねえ。『ユウ』さんに身体は反応した?」
小さな声で聞いてくる。これが聞きたかったようだ。僕は聞こえなかった振りをする。一体、どう返事しろと言うのだ。どう答えてもお叱りの言葉しか貰えなさそうだ。
「ねえねえ。私の身体と違った?」
しつこい。どう答えてもブチブチ言われそうだ。聞かなきゃいいのに。
確かに『西九条れいな』が犬噛巳村で言った通り、筋肉の付き方が違うかもしれない。見ただけでは区別がつかなかったが身体を重ねることで同じような丸みでも弾力が違うのがわかる。
「ねえねえねえー! 聞こえてるんでしょ。」
「聞こえない。聞こえない。」
僕は耳を塞ぐ振りをする。
「うんもう!」
「ほら次は瑤子な。僕は彼女を送ってくるよ。」
僕は振り返り、身の置き所が無いみたいにして佇んでいる彼女の方へ向く。『超感覚』スキルの聴覚はしっかりと彼女の足音を捉えており、触角は声をかけようとしながら躊躇している動きまで捉えていた。
どこから見てもバカップルの会話にしか聞こえない。そんな可哀想なことはできない。僕が勝手にここまで連れてきたのだ。
「ダメよ。私はもう入ったの。ちゃんと女同士で話すから、シンがお風呂に入ってきて。」
何かを企んでいるとしか思えないが何度も彼女に聞くのも帰って欲しいと捉えられてしまうだろうと黙って入ることにした。彼女も元男だ。嫌なら嫌だと言うだろう。多分。




