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第2話 カメラテスト

「なるほど。志保くんが1人2役をやるわけか。これなら期待できそうだ。」


 『西九条れいな』の5分以上に渡る演技を3方向から撮影した映像を元にしてスギヤマ監督の前で演じてみせた。


 凄くやり辛い。ダンスは男女間にそれほど差異は無いが演技には差がありすぎる。仕方が無いのでそのまま演じてみせていたのだが好感触を得てしまった。


 監督が不採用と言い出せばそれでも良いと思っていたのだが『西九条れいな』が天賦の才能を発揮して男優としての完璧な演技をしたらしい。


「それにしても、既にお知り合いとは知りませんでしたわ。」


 本気で知らなかったらしい。全く違う場面だったが彼女が出演した映画のスタッフロールにも名前が載ったことがあるのだ。本当に映画撮影という仕事に興味が無いらしい。これではスタッフに嫌われるのもわかる。


「ああ。彼は振り付け師荻尚子の愛弟子なんだ。振り付けをコピーできるとは聞いていたが演技まで出来るとは聞いておらんぞ。何で言わんのだ。」


 言うわけが無い。この監督は人使いが荒いのだ。周囲のスタッフが心酔している人間ばかりというのが問題なんだと思う。


 それこそ身体が大きいというだけで荷物運びまでやらされてしまったことまである。それ以来、振り付けの仕事が終れば直ぐに帰ることにしているのだ。


「自分の色の無い演技は見たく無いと思いまして。それにギャランティに惹かれて来ただけですからね。いいように使おうなんて思わないでくださいね。」


 まあ雑用に使うなと言えないが、基本的人権として嫌味のひとつは言いたい。


「何だ。あんな言葉を気にしているのか。あれは貶すところが無かったので言ってみただけだぞ。」


 それなら素直に褒めろよ。まあ褒められたら褒められたで裏に何かありそうで困るのだが。


「そんなことを言って。演技指導を助監督に任せて消えることがあるそうじゃないですか。泣いていましたよ彼。」


 助監督といえば聞こえはいいが何でもできる雑用係りだと嘆いていた。しかも5人も助監督が居るらしい。


「退屈なんじゃよ男優相手は。彼ら独自の色を付け過ぎて映画を台無しにしてしまうんだ。だから徹底的に色を剥ぎ取る必要があるんだよ。それでも下手な奴に任せると俳優に引っ張られてしまう。君なら均一な指導が出来るだろう。」


 どうせ均一な指導しかできませんよ。


「それには『西九条れいな』さんのような完璧な演技が必要では本末転倒じゃ無いんですか?」


「そうでもないぞ。こちらの意図通りに演技できる俳優はごまんといる。なあ和重くん。」


「そこで俺に振りますか。えーえー、どうせ意図通りにしか演技できませんよーだ。」


 和重さんも監督に『自分の色が無い』と言われたようだ。口癖らしい。気に病む必要は無かった。


「そういう方々に演技指導して貰えばすむ話ですよね。」


 スタッフにもその程度の演技が出来る人間が居るだろう。その人たちの仕事をわざわざ奪うようなことをしなくてもいいじゃないか。


「いやいやプライドも高いベテラン俳優たちに演技指導しようとすると指導する側にもネームバリューがなくては従ってくれんのだよ。面倒だが何年も育てた助監督を投入せざるを得ないというわけだ。」


 それは僕も同様だ。ただ荻尚子の弟子という看板があるだけだ。


「それは荻尚子のネームバリューを使おうというのでしょうか。」


「そこらへんはお互い様だろ。」


 荻尚子もスギヤマ監督のネームバリューを利用していることは確かだ。


「それでもギャランティによりけりですね。今のところ、長期、海外の仕事はお受けするつもりはありません。」


 ドッグカフェは僕なしで動かないようにできあがっている。それを崩してまでこちらに乗っかるメリットは無い。


「何故だ。海外だろうが日本だろうが関係ないだろ。君たち『勇者』にとっては。」


 もうこの人は直ぐにペロっと言ってしまう。口が軽くできているらしい。球団社長にも散々言われているだろう。『転移』魔法を個人的に使わせて貰おうなんて一体幾ら取られるんだか。


「監督! 僕たちの能力を私ごとに使おうとなされば、渚佑子さんが抹殺に動きますよ。まずは球団社長の許可を得てからにしてください。」


 実際に球団社長の知人を抹殺することは不可能だ。徹底的に調査が行なわれ全てが解ってしまうだろう。そしてその行為が自分のためだと知ると心を痛めてしまう。そういう人なのだ。


 だからただ密告すればいい。密告しても悲しい思いをするだろうが最悪の事態よりはいい。そうすれば信用が無くなる。信用を無くせば只のビジネス相手に転落するに違いない。


「すまない。調子に乗ってしまった。このことは山田さんの耳には入れないでくれ。この通りだ。」


 監督がその場で土下座してくる。この人とて解っているのだ。同志と言ってもいい。だが弱味は弱味だ。これなら少しは無理言っても大丈夫そうだ。


「大丈夫ですよ。球団社長を通してもらえば、そう無茶な金額も出さないでしょう。しかし助監督を育て上げるよりは高いと思いますよ。」


 そもそも球団社長が気軽に使って見せすぎなのだ。


 僕たちの能力で人類の敵対心を煽れば、抹殺されるの僕たちのほうだ。数の多さでは絶対に負けるし、そもそも彼ら無しでは僕たちの生活も成り立たない。


 だから、球団社長が1人。有力者たちの前に立ち塞がり、能力を見せ付けることで味方につけている。まあ大半があの人個人の『誑し』の才能によるものなのだが。


 僕たち『勇者』は独立した経済人としての彼を尊敬し、その庇護を受けている人間なのだから、何も言えないのだ。だがそれを歯痒く思っているのも事実だ。


本日分はこれで終わりです。

以降毎日19時更新します。


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