第12話 ドンデン返し
『ユウ』と共に部屋へ入って行くと彼女が真っ先にシャワールームに向かおうとする。
一緒に入ろうとすると何故か拒絶された。
「君は女性だ。バックなんか使うつもりはないぞ。」
そう言うと彼女の顔が紅潮し、シャワールームのガラス戸を閉める力が弱まった。性交渉の前にお尻を洗うのがクセになっているらしい。
まあお互いに身体洗うのは共感できる。エッチにときに『超感覚』スキルに神経集中すると性的感覚も良くなるのだ。その代わり体臭も敏感に嗅ぎ取ってしまうので体臭の強い女性相手は困るのだ。プロ野球選手時代に日米野球でアメリカに渡ったとき、向こうの女性とキスをしただけで断念した嫌な思い出がある。
しかも快感に酔ってしまえば制御できなくなる。良く神経が焼き切れないものだと思うが『超感覚』スキルがカバーしてくれているらしく毎回終われば元に戻る。不思議だ。
ベッドの上での攻防は激しかった。元男だけあって上位に立ちたがるのだ。普段は瑤子さんに任せきりだが今回ばかりは僕の方が上位だとわからせてやるためにあの女から盗んだテクニックも使わせて貰った。
翌朝起きると女と重なった状態だった。あれからお互いに満足するまで頑張ったがそのまま寝てしまったようだ。
うん・・・違う。
女の方が冷たい。トイレでも行ってきたのだろうか。
そのとき、『超感覚』スキルが女の体臭を嗅ぎ取る。女だ。僅かな音が洗面所から聞こえてくる。
『鑑定』スキルを使うと目の前の女は『井筒志保』となっていた。ここまでくるとホラーだ。何処で入れ替わっていたんだ。
「お前、どうやって入って来やがったっ。」
僕は僅かに掛かっていたシーツを自分の身体に巻きつけベッドから飛び降りた。
「寝起きで良くわかるわね。」
これはテロリストよりも手強いぞ。本気で防弾スーツを着て寝なければいけないらしい。
「そんなことはどうでもいい。答えろ。」
僕はそう言いながら、ジリジリと洗面所に向かう。
「昨日の貴方は素敵だったわ。もう態度を豹変するつもり。」
頭をガーンと殴られるようなという表現がピッタリな状況だ。だが『超感覚』スキルは、女に性交渉の後の臭いを感じさせなかった。勝手な既成事実を作り上げるつもりのようだ。
「騙されないぞ。」
「あらこの状況を皆が見ればどう思うかしら。」
まさか週刊誌記者でも呼び寄せているのだろうか。いやこのホテルはブリリアントリリー賞が独占して部外者が入って来れないはずだ。それに世界中の記者たちに嫌われていると聞いている。この女の言うことを聞く人間などいない。
もちろん、『超感覚』スキル全開で確認すると知らない人間などいない。この女のハッタリだ。
「ハッタリもいい加減にしろ。」
「そうかしら。この写真をSNSで公開して・・・何するのよ。」
この女。スマートフォンで僕と身体が重なっているところを写真で残してやがった。
咄嗟にスマートフォンを取り上げる。この女は見た目と違い理系だ。写真も何処かに残してあるに違いない。
「『ユウ』助けてくれ。」
洗面所に飛び込むとうっすらとヒゲが伸びてきたものを慎重に剃っている『ユウ』の姿があった。
「いつも、この時間に剃っているものね。どう。その姿を見て?」
硬直して動けなくなっている『ユウ』に近付き抱き寄せキスをする。お前は負けたんだと思い知らせてやる。
1分経ち、2分経ち・・・。
「止めてよ。何で! どうして! ・・・何ですって!」
僕は『箱』スキルから、『西九条れいな』のスマートフォンを取り出して自撮りする。そして、開いた状態のSNSで2枚の写真を貼り付けて、こうメッセージした。
『私とソックリな裕也とキスどころか。エッチまで・・・有り得ない!』
さらに自分のスマートフォンを取り出して、こうコメントした。
『不法侵入するなよ。僕にお前は不要さ。負け犬め。さっさと出て行きやがれ!』
これで後でどんな写真を発信しても嘘だと思われるに違いない。
「ほら返してやるよ。」
スマートフォンを放り投げてやった。
「な・な・なんてことするのよ! そこまでするっ。」
不法侵入したお前に言われたく無い。この関係絶対に死守してやる。
女がスゴスゴと引き返していき出て行った。
なんのことはない。オートロックの穴に紙屑が詰めてあった。この部屋で事前に打ち合わせしたときに詰めたらしい。何処の推理小説だ。チャチなトリックだ。
「すまない『ユウ』関係を無許可で暴露してしまった。」
「嬉しい! 最後まで私を選択してくれて、本当に嬉しかった。それに少しだけ溜飲もさげさせて貰ったわ。」
僕が扉の前で『ユウ』に謝るとギュッと抱きしめてくる。やはり元男だけあって力強い。
「大丈夫か。お前たちの関係・・・僕が言う筋合いじゃないけど。」
「大丈夫じゃないかな。志保は味方が少ないから。結構頼りにされるのよ。それよりも貴方の方は大丈夫なの。私との関係が公表されても。」
多分大丈夫・・・だったら、いいな。まあ、そんなことで俳優の仕事が来なくなれば・・・それもまた良しだ。瑤子さんたちのカモフラージュにもなるしな。
「『西九条れいな』はあれで諦めると思うか?」
「無理でしょう。」
ハッキリキッパリ言い切られてしまった。何を捨てても医者の道を諦めなかった女だからな。
「やっぱりな。生涯、僕を守ってくれるか?」
「それってプロポーズ?」
「ああ。そう思っても構わない。」
僕は素早く答える。こういうのは一瞬でも考えたらアウトだ。考えを変えるのはいつでもできるのだから。
実の兄と結婚したくらいであの女が諦めるとは思えないが少しでも可能性が下がるならば何でもやってみればいいのだ。まあ結婚しようと言っても応じてくれなかった瑤子さんたちへの当てつけでもあるのだけど。
「嬉しい!」
少しヒゲが生えた彼女は素直で可愛かった。瑤子さんたちの誰よりも素直なんじゃないだろうか。自分の中に恋愛感情が芽生えているのを自覚する。
エッチしたあとにプロポーズしたあとに恋愛感情を持つなんて順番は逆だが、これからゆっくりと愛情を育てていけばいいのだ。決して遅くは無いはずだ。




