第10話 試写会
テロ事件があったあの日は映画『花の香り匂い立つ』の完成披露試写会だった。
テロリストに対する怒りを消化しきれない。本音を言うと『西九条れいな』と会いたく無い。あの女は魔女だ。こちらの弱った心を見逃すはずが無いのだ。
記者会見の後メールを入れておいた。幾らなんでも延期されるだろうと思っていたら、予定通り行なうという話で何時になってもいいから来てくれという連絡が和重さんから入った。
まああれだけ顔が売れてしまったのだ。それを映画の宣伝に使わないわけが無い。経営者らしい判断だ。
瑤子さんのご両親との会食が終ったあと、そのまま電車に飛び乗ったのだが新聞社の記者たちに捕まった。いろいろ質問をされたけど一切無視する。
どうせ会場では週刊誌の記者も居るのだ。気が滅入る質問よりはゴシップ記事のほうがマシだ。
会場に入っていくと試写会が丁度終るところだった。七星映画の担当者は余分に刷っていた資料を僕に付いて来た新聞記者たちに配っている。
囲み取材を受けた。週刊誌の記者も居たが新聞社の記者や連絡を受けたらしいテレビ局のレポーターや外国のマスコミまで集まった。でも質問内容は想定通り、『西九条れいな』との関係に終始した。
テロ事件に関する質問には答えないと言ってあったことも大きいだろうが『西九条れいな』との関係の方が圧倒的に興味を引いたようだ。
恋人同士に見えるように『西九条れいな』を抱き締める。あれだけ嫌だった女でも冷え切っていた心が身体が温まる。不思議な作用だ。
もちろん瑤子さんには許可を貰っている。下手に瑤子さんが恋人とバレよりは何倍もマシ。ここはこの女にスケープゴートになって貰おう。
「ええそうよ。彼って、世界一包容力がある男性なの。」
バカな女の振りをするのが好きらしく。記者たちに向ってバカなことを言っている。どうやらテロ事件のことは知らないらしい。好都合だ。
「プライベートですか。もちろん、お付き合いさせて頂いてます。この間は一緒にパフェを食べたかな。」
「このところの朝食は彼の作る料理ばかりなの。とても上手なのよ。」
『西九条れいな』は結構な頻度でドッグカフェに現われる。大概の目当てはパフェだったのだが、最近は朝早くに現われて朝食を食べていくようになったのだ。
思った通り、翌日の朝刊の3面記事や電車のつり革広告で僕と『西九条れいな』の仲良さそうな写真が掲載された。まあ今以上に彼女が恨まれても大した違いは無い。元々、女性週刊誌の嫌いな女性タレントではトップ3にランクインしているような女なのだ。
 




