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第七話 私、魔法使いなんです

「随分と早く到着しているんだな」


 俺は舞に声を掛ける。舞はそれを聞いてぺこりと一礼した。まったく、同い年というのに何というか他人行儀という感じが拭えない。まあ、しばらく居るうちにその緊張に近い感情も解れるのだろう。そんなことを思いながら俺は扉の前に立つ。

 ポケットから鍵を取り出し、鍵を開ける。


「寒いだろ。中に入って、暖房で暖まっていようぜ」

「あの……会長さんは?」

「明里なら遅れると言っていた。来るかどうかはなんとも言えないな」

「そうですか……」


 そういえば明日来てくれ、と言ったのは俺だった。

 仮にもし今日来なかったらどうしようか。また明日来てくれ、と言うしかないのか。もしあいつの活動が個人的なものに限定されるようになって、会長自らが幽霊会員になってしまったらどうしようか。そうしたら解散して彼女の苦労をさっさと解放してやりたいところだが。

 パイプ椅子をもう一つ開いた形で机の前に置く。彼女はありがとうございます、と言ってそこに腰掛けた。俺はそのままエアコンのリモコンを使って暖房を入れた。

 沈黙。

 同級生であるとはいえ、未だ高校生活は二日目。仲が良くなっているとははっきり言って言いがたい。となると会話が盛り上がることも当然無くて、結果的に行動は沈黙。お互いがお互いに別々の行動を取るに過ぎなくなってしまう。


「そうだ。昨日、言っていなかったことがあるんです」


 沈黙を破ったのは舞だった。舞が突然そんなことを言いだしたので俺は首を傾げる。

 何かあったかな? なんてことを思ったが――舞はゆっくりと口を開いた。


「私は、魔法使いなんです」

「……………………へ?」

「魔法使い、です」


 いや、言葉はちゃんと聞いた。

 けれど、意味がさっぱり分からない。魔法使い? 科学が発達していて、魔法の魔の字もないこの現代社会に、魔法使い? いったい何を言っているのだろうか。或いは頭のネジが吹っ飛んでいるのか。だとすれば関わるのは少し失敗したような、そんな感じがする。


「あ。もしかして疑っていますね?」

「いや。そりゃ普通に聞けば、この科学文明真っ盛りの中で『魔法使い』と聞いたところで……」

「あまり見せたくなかったのですが……」


 そう言って、彼女はポケットからあるものを取り出す。

 それは小さい立方体のようなものだった。凹凸はなく、純白だった。それは立方体以上に説明する要素が見当たらず、いったいそれは何なのかと思っていたが。

 彼女が目を瞑った途端、空気が変わった。


「これは……?」

「だから言っているのです。見せようと、『魔法』を。信じてもらうならばそれが一番です」


 そして、彼女は立方体を左手で強く握る。空いた右手は掌を上に掲げ、ゆっくりと深呼吸する。

 すると右手から、小さい炎が姿を見せた。


「……え?」


 例えば立方体から炎から出てくれば、その立方体にはライターのような構造物が埋め込まれているのではないか、なんて疑うことも容易だ。

 しかし彼女は自らの掌の上でそれを発現させた。

 確かに掌で何もない状態で炎を生み出す技術なんて聞いたことも無い。もしそんなものが開発されていれば仮にニュース番組を見ていなかったとしてもスマートフォンのニュースサイトの片隅にでも掲載されているはずだろう。

 彼女が目を開けると、その炎は綺麗さっぱり消えてしまった。


「と、まあ、こんな感じです」


 まるで手品を見せられたような感覚だった。

 いや、それ以上だ。

 立方体に何らかのからくりがあるのは火を見るより明らかだが、しかしながら彼女はここで魔法を発現させてみせた。


「……その立方体を使って、魔法を使ったのか?」

「ええ。まあ、細かい仕組みは禁則事項ですが。何せ魔法使い以外にはむやみやたらに公言しちゃいけないんですよ。だから簡単に言えば、この立方体を介して私が魔法を行使出来る、とでも言えば良いでしょうか。あ、これは簡単に消せるので突発的に持ち物検査とかあっても問題ないですよ。それにこれだけなら危険性は皆無ですからね。これに組み合わせる符号が必要であって――」

「やー、遅くなってごめんね! ちょっと手間取っちゃって!」


 明里が部室に入ってきたのは、ちょうどそのときだった。舞は急いで立方体をポケットに仕舞い、笑顔で明里を出迎える。

 明里はきょとんとした表情で舞を見つめる。そして少しの沈黙を経て、舞が何のためにここにやってきたのかを理解した。


「もしかして……この同好会に入りたいのね?!」

「ええ。まあ、そんなところです」


 そう言って舞は学生鞄から入部届を取り出そうとするが――それよりも早く明里は彼女の手を奪い取る。


「きゃっ」

「すごいわ! まさかこんなにも早く仲間が増えるなんて! これは大変有難いことよ! いや、嬉しい事ね。私のやりたいことを理解できる仲間が増えること。それは有難い話よ。同志と言ってもいいわね!」


 同志は言い過ぎじゃないか、なんて思ったが舞もまんざらじゃなさそうだった。

 ま、それなら良いのだけれど。


「ところで、明里。どうして今日は遅れたんだ? 一応、今日は同好会最初の活動日だろ」


 俺はその状況をぶち壊すかの如く、一言を明里に投げかけた。

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